サイコパスハンター零

第4章 百合と外道と疾走するウロボロス

#28 杏里、遭遇する

「まさか…」

　絶句する杏里。

　大ボス？

　地龍ってこと？

　でも、どこにもそんな怪物、見当たらなかったけど…。

「拳銃は持ってるな。急げ、これ以上被害が拡大する前に」

　屋根から飛び降り、零が走り出す。

　わけもわからないまま。杏里はとりあえず後を追うことにした。

「ここだ」

　零が立ち止まったのは、列車の列の反対側の端だった。

「わかるか？」

　零が顎で指し示したのは、その車両の列である。

「え？　別になんにも見えないけど」

　杏里は途方に暮れて、答えた。

「ただ地下鉄が並んで止まっているだけ…あ？」

　ではなかった。

　一番端の列車のドアから、奇妙なものが突き出している。

　杏里の立つ位置の反対側、すなわち地下鉄の1番車両のドアである。

　なんだろう？

　近づいた杏里は、そこで小さく声を上げた。

　足の生えた人間の下半身だ。

　作業ズボンを履いた男性の腹から下が、地面と水平にドアから突き出している。

「大変！　助けなきゃ」

　叫んだ時だった。

　ふいにドアが開いて、血まみれの下半身を吐き出した。

　その瞬間、杏里は見た。

　あれ…ドアじゃ、ない。

　歯が、生えてる。

　これじゃ、まるで口みたい…。

　食べたものを咀嚼するように、ドアが2、3度開閉した。

「わかったか。こいつは地下鉄なんかじゃない。地下鉄に擬態した化け物なんだ」

　吐き捨てるように、零が言った。

　ショックのあまり、ゆらりと後ろに倒れかかった杏里を、危ういところで抱き留める。

「よく見ろ。表面の質感からして、鋼鉄というより皮膚っぽいだろう。ざらざらして、毛穴まで見える。これが地龍の正体だったんだ。時速80キロで地下トンネルを疾走し、次々と人を食い殺す魔獣。よりによって地下鉄そっくりに化けるとは…。なんのつもりか知らないが、外道は、赤い真珠や胎児のエキスを使って、この世界にこいつを召喚したかったのさ」