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第4章 百合と外道と疾走するウロボロス
#10 杏里、唖然とする
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ホワイトボードの前に、ヤチカが進み出た。
「今、本部に報告に行ってきた帰りなんだけどね。杏里ちゃんに免じて、あなたたちに最新情報を教えてあげる。4人の妊婦の死体を解剖した結果、新たに分かったことがあるの。4人は乳房だけでなく、内臓の一部を持ち去られていた。それも、比較的子宮に近い、十二指腸とか、脾臓とか、胆嚢といった比較的小さな臓器をね。そう、まるで帝王切開の記念に、目につくところにあったものを適当に見つくろったみたいに。今の杏里ちゃんの説が正しいとすると、おそらくこれが、第5の犠牲者と4人をつなぐアイテムになるんじゃないかしら。霊的な流れをつくり、魔法陣とやらを作動させるためのね」
「じゃあ、その4人分の臓器を持って、今頃犯人は地下鉄御所駅周辺をさ迷い歩いているってわけか」
三上が眉間にしわを寄せた。
「しかしだな」
そこにすかさず懐疑主義者の韮崎が文句をつける。
「科捜研ともあろうものが、そんな霊的な流れだの魔法陣だのといった非科学的なもんを信じていいのかよ? ふつうあり得んだろ? だいたい魔法陣で何を呼び出すってんだ? いいか、ここは日本だぞ。悪魔はキリスト教国にしかいないはずだろう? 日本にいるのはせいぜいエンマ大王ぐらいだぜ」
「あたしが信じてるんじゃない。犯人が信じてるの。重要なのはそこ。オカルト的アイテムの実在性はこの際関係ない。間違いなく犯人はその論理に沿って行動しているんだから。だったら5番目の犠牲者は必ず出る。そうでしょう?」
なるほど。
杏里は感心した。
霊的な流れや魔法陣が存在するかどうかは、今は二の次なのだ。
要は犯人の先を読めればそれでいいのである。
「でも、犯人はどうやって臓器を運んでるのかな? 乳房の時もそうだけど、まさかポケットに入れて持ち運ぶなんてこと、できるはずないし」
ふと思いついて、杏里はつぶやいた。
佐々木涼子の殺害現場に駆けつけた時である。
エレベーターの中と部屋に続く通路におびただしい血痕があった。
あれこそが、犯人が乳房を持ち運んだ証拠なのだろうが、何に入れて運んだというのか。
「そう、それなのよね。そこで生きてくるのが現場に残されてた靴跡と、マンションの防犯カメラの映像」
「靴跡って、報告書にあった22㎝のスニーカーってやつか」
韮崎が言った。
「犯人は女なのかよ? 成人男性にしては、サイズが小さすぎる」
「成人女性でもないわね」
ヤチカが意味ありげに答えた。
「あ」
声を上げたのは、三上だった。
「そういうことか。だから犯人は、怪しまれずに乳房と臓器を運ぶことができたんだ…」
「え? 何ですかそれ? どういうことなんですか?」
びっくりして、杏里はたずねた。
三上は、いったい何に気づいたというのだろう。
杏里をみつめると、蒼ざめた顔で、三上が答えた。
「ランドセルさ。犯人は、赤いランドセルを背負っていたに違いない」
「今、本部に報告に行ってきた帰りなんだけどね。杏里ちゃんに免じて、あなたたちに最新情報を教えてあげる。4人の妊婦の死体を解剖した結果、新たに分かったことがあるの。4人は乳房だけでなく、内臓の一部を持ち去られていた。それも、比較的子宮に近い、十二指腸とか、脾臓とか、胆嚢といった比較的小さな臓器をね。そう、まるで帝王切開の記念に、目につくところにあったものを適当に見つくろったみたいに。今の杏里ちゃんの説が正しいとすると、おそらくこれが、第5の犠牲者と4人をつなぐアイテムになるんじゃないかしら。霊的な流れをつくり、魔法陣とやらを作動させるためのね」
「じゃあ、その4人分の臓器を持って、今頃犯人は地下鉄御所駅周辺をさ迷い歩いているってわけか」
三上が眉間にしわを寄せた。
「しかしだな」
そこにすかさず懐疑主義者の韮崎が文句をつける。
「科捜研ともあろうものが、そんな霊的な流れだの魔法陣だのといった非科学的なもんを信じていいのかよ? ふつうあり得んだろ? だいたい魔法陣で何を呼び出すってんだ? いいか、ここは日本だぞ。悪魔はキリスト教国にしかいないはずだろう? 日本にいるのはせいぜいエンマ大王ぐらいだぜ」
「あたしが信じてるんじゃない。犯人が信じてるの。重要なのはそこ。オカルト的アイテムの実在性はこの際関係ない。間違いなく犯人はその論理に沿って行動しているんだから。だったら5番目の犠牲者は必ず出る。そうでしょう?」
なるほど。
杏里は感心した。
霊的な流れや魔法陣が存在するかどうかは、今は二の次なのだ。
要は犯人の先を読めればそれでいいのである。
「でも、犯人はどうやって臓器を運んでるのかな? 乳房の時もそうだけど、まさかポケットに入れて持ち運ぶなんてこと、できるはずないし」
ふと思いついて、杏里はつぶやいた。
佐々木涼子の殺害現場に駆けつけた時である。
エレベーターの中と部屋に続く通路におびただしい血痕があった。
あれこそが、犯人が乳房を持ち運んだ証拠なのだろうが、何に入れて運んだというのか。
「そう、それなのよね。そこで生きてくるのが現場に残されてた靴跡と、マンションの防犯カメラの映像」
「靴跡って、報告書にあった22㎝のスニーカーってやつか」
韮崎が言った。
「犯人は女なのかよ? 成人男性にしては、サイズが小さすぎる」
「成人女性でもないわね」
ヤチカが意味ありげに答えた。
「あ」
声を上げたのは、三上だった。
「そういうことか。だから犯人は、怪しまれずに乳房と臓器を運ぶことができたんだ…」
「え? 何ですかそれ? どういうことなんですか?」
びっくりして、杏里はたずねた。
三上は、いったい何に気づいたというのだろう。
杏里をみつめると、蒼ざめた顔で、三上が答えた。
「ランドセルさ。犯人は、赤いランドセルを背負っていたに違いない」
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