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第4章 百合と外道と疾走するウロボロス
#4 杏里、閃く
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外はあれほど寒かったのに、大会議室の中は男たちの熱気でむせ返らんばかりだった。
刑事たちの人数が、いつもより多いせいである。
事件は4つの署にまたがっている。
だからまず、中署、照和署、南署、北署の刑事たちが全員集められている。
更にその凶悪さから鑑みて、那古野市内の他の署からも応援が来ているのだった。
男たちの視線の中を、杏里は亀の子みたいに首を縮めて歩いた。
なんせこれだけ刑事がいるのに、女性は杏里ひとりきりなのだ。
しかもスーツでは隠しようのないダイナマイトボディときているのだから、男臭いこの中では否が応でも目立ってしまう。
ようやく見知った照和署のメンバーを見つけて高山の隣に腰を落ちつけると、杏里は思わず安堵の息を吐いていた。
「杏里ちゃん、顔色悪いけど、大丈夫かい?」
早速高山が声をかけてきてくれたものの、その高山本人もひどく疲れた顔をしている。
昨夜の事件で、杏里同様、ほとんど一睡もしていないせいだろう。
見ると、前の席では野崎がすやすやと寝息を立てていた。
「馬鹿野郎。始まる前から寝るやつがあるか」
その耳を引っ張って、隣の山田が無理やり起こす。
前から順番に資料が回ってきた。
最後に幹部連中が入ってくると、会議が始まった。
スクリーンの脇のパイプ椅子に、4つの署の代表と科捜研から来た七尾ヤチカが座っている。
照和署の代表は、見た目からして当然三上巡査部長だ。
中署の刑事が立って、口火を切った。
「詳細はお手元の資料をご覧いただきたいのですが、昨日の午後4時から午後10時にかけて、市内で4人の女性が殺害されました。被害者は全員、妊娠8か月の妊婦。殺害方法は、腹を切り裂いて胎児を取り出し、その後に別のものを詰め込むという、実に異常極まりないものです。同一犯の犯行を匂わせる物的証拠として、現場付近に落ちていた血だまりを踏んだとみられる靴跡などが発見されていますが、被害者たちの死亡推定時刻前後に現場近くで不審者を目撃したという情報は、今のところ上がってきていません」
杏里は資料に目を落とした。
第1の被害者は、中区在住の神崎美穂、28歳。死亡推定時刻、午後4時。近所の公園内にて、通行人が発見。
第2の被害者は、北区在住の小山里美、32歳。死亡推定時刻、午後6時。自宅にて母親が発見。
第3の被害者は、照和区在住の佐々木涼子、25歳。死亡推定時刻、午後8時。自宅マンションにて、弟が発見。
第4の被害者は、南区在住の森田美幸、33歳。死亡推定時刻、午後10時。自宅マンションにて、夫が発見。
4人の被害者は、なぜかちょうど2時間おきに殺されていることになる。
殺害現場の写真、遺体の写真は見ないようにして、杏里はボールペンを顎に当て、宙を睨んだ。
なんだろう? この規則性。
それに。
殺害時刻以外にも、まだ他に何かありそうな気がする。
手帳を広げ、円を描く。
順番に赤い点を打ってみた。
そうか。
閃いた。
東西南北だ。
4つの殺害現場は、東西南北に渡っているのだ。
中区が東、北区が北、照和区が東、南区が南。
那古野市の地図とは少しずれてるけど、この4つの区は明らかに円周上にある。
そしてその円周とは…。
「あのう」
気がつくと、杏里は手を挙げていた。
「何だ?」
中署の刑事が驚いて杏里を見た。
「私、閃いちゃったんです」
ゆっくりと息を吐き出しながら、杏里は言った。
「事件は4つとも、、地下鉄環状線の路線に沿って起こってますよね?」
刑事たちの人数が、いつもより多いせいである。
事件は4つの署にまたがっている。
だからまず、中署、照和署、南署、北署の刑事たちが全員集められている。
更にその凶悪さから鑑みて、那古野市内の他の署からも応援が来ているのだった。
男たちの視線の中を、杏里は亀の子みたいに首を縮めて歩いた。
なんせこれだけ刑事がいるのに、女性は杏里ひとりきりなのだ。
しかもスーツでは隠しようのないダイナマイトボディときているのだから、男臭いこの中では否が応でも目立ってしまう。
ようやく見知った照和署のメンバーを見つけて高山の隣に腰を落ちつけると、杏里は思わず安堵の息を吐いていた。
「杏里ちゃん、顔色悪いけど、大丈夫かい?」
早速高山が声をかけてきてくれたものの、その高山本人もひどく疲れた顔をしている。
昨夜の事件で、杏里同様、ほとんど一睡もしていないせいだろう。
見ると、前の席では野崎がすやすやと寝息を立てていた。
「馬鹿野郎。始まる前から寝るやつがあるか」
その耳を引っ張って、隣の山田が無理やり起こす。
前から順番に資料が回ってきた。
最後に幹部連中が入ってくると、会議が始まった。
スクリーンの脇のパイプ椅子に、4つの署の代表と科捜研から来た七尾ヤチカが座っている。
照和署の代表は、見た目からして当然三上巡査部長だ。
中署の刑事が立って、口火を切った。
「詳細はお手元の資料をご覧いただきたいのですが、昨日の午後4時から午後10時にかけて、市内で4人の女性が殺害されました。被害者は全員、妊娠8か月の妊婦。殺害方法は、腹を切り裂いて胎児を取り出し、その後に別のものを詰め込むという、実に異常極まりないものです。同一犯の犯行を匂わせる物的証拠として、現場付近に落ちていた血だまりを踏んだとみられる靴跡などが発見されていますが、被害者たちの死亡推定時刻前後に現場近くで不審者を目撃したという情報は、今のところ上がってきていません」
杏里は資料に目を落とした。
第1の被害者は、中区在住の神崎美穂、28歳。死亡推定時刻、午後4時。近所の公園内にて、通行人が発見。
第2の被害者は、北区在住の小山里美、32歳。死亡推定時刻、午後6時。自宅にて母親が発見。
第3の被害者は、照和区在住の佐々木涼子、25歳。死亡推定時刻、午後8時。自宅マンションにて、弟が発見。
第4の被害者は、南区在住の森田美幸、33歳。死亡推定時刻、午後10時。自宅マンションにて、夫が発見。
4人の被害者は、なぜかちょうど2時間おきに殺されていることになる。
殺害現場の写真、遺体の写真は見ないようにして、杏里はボールペンを顎に当て、宙を睨んだ。
なんだろう? この規則性。
それに。
殺害時刻以外にも、まだ他に何かありそうな気がする。
手帳を広げ、円を描く。
順番に赤い点を打ってみた。
そうか。
閃いた。
東西南北だ。
4つの殺害現場は、東西南北に渡っているのだ。
中区が東、北区が北、照和区が東、南区が南。
那古野市の地図とは少しずれてるけど、この4つの区は明らかに円周上にある。
そしてその円周とは…。
「あのう」
気がつくと、杏里は手を挙げていた。
「何だ?」
中署の刑事が驚いて杏里を見た。
「私、閃いちゃったんです」
ゆっくりと息を吐き出しながら、杏里は言った。
「事件は4つとも、、地下鉄環状線の路線に沿って起こってますよね?」
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