サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第4章 百合と外道と疾走するウロボロス

#2 幕間4

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「ちぇ、もう寝てるのかよ」

 寒さに身を震わせ、浩二はぼやいた。

 玄関の自動ドア脇にあるボックスに並んだ数字キー。

 涼子の部屋番号を押したが、応答がない。

 何度かトライしてみたが、結果は同じだった。

 具合でも悪くて、横になっているのだろうか。

 少なくとも、恭介はまだ帰っていないに違いない。

 クリスマスプレゼントなど、明日また渡しに来てもいいのだが、応答がないのが気になった。

 様子だけでも見てくるか。

 ケーキの箱を小脇に抱え直すと、浩二は親から借りてきたカードキーをボックスのスリットに差し込んで、正面ドアを解錠した。

 自動ドアが開くのを待つのももどかしく、三分の一ほど開いたところで身体を斜めにして中に飛び込んだ。

 さすがにロビーの中は温かく、浩二は安堵のため息をひとつつき、エレベーターの前に立った。

 涼子の部屋はこのマンションの最上階、すなわち12階である。

 新築のマンションにふさわしく、エレベーターが下りてくるのも早かった。

 チンと音がして、待つほどもなく、ドアが開いた。

「わ」

 中に一歩足を踏み入れたとたん、靴底がずるっと滑り、浩二は悲鳴を上げた。

 足元に目を落とすと、エレベーターの床に赤い液体がこぼれていた。

「何だよ、これ? 気持ちわりーな」

 足の裏についた液体を壁になすりつけていると、ほどなくして上昇が止まった。

 表示はもう12階を示している。

 液体を踏まないようにして、エレベーターを降りた。

 目の前に長い通路が伸びている。

 右側が住居、左側が通路の手すりになっている。

 涼子の新居、1203号室は手前から3つめの扉だった。

 その扉に向かって歩き出そうとして、浩二はびくりと立ちすくんだ。

 通路の天井の照明を反射して、床に赤い液体が落ちているのが見えたのだ。

 赤いペンキをこぼしたような飛沫が、浩二の足元から3番目の扉の前まで、点々と続いている。

「お、おい、マジかよ」

 いやな予感がした。

 背筋を悪寒が走り、反射的に浩二は駆け出していた。

 ノブを掴むと、大した手応えもなく、ドアが開いた。

 8ヶ月の妊婦が、不用心にもほどがあるだろ?

 焦る頭でそう思った。

 玄関にスニーカーを脱ぎ捨てて、部屋の中に上がった。

 2LDKの標準的な間取りの住居である。
 
 明かりはついていた。

 通路をまっすぐ行った先の洋間に、人影が見えた。

 ソファにもたれるようにして、マタニティドレス姿の涼子が座っている。

「姐さん、具合でも悪いのか…?」
 
 声をかけ、洋間に飛び込んだ。

 その途端、浩二はまた棒立ちになった。

 涼子はがくりと首を傾け、うつろな目で天井を見ている。

 ベージュ色のマタニティドレスの前が、真っ赤に濡れていた。

 はだけられたドレスの間から、鮮血を垂れ流す半ば開いた腹が見えた。

 まるで帝王切開でもされたかのように、涼子は下腹部を切り裂かれているのだ。

「こ、こんな…ひどい…」

 這うようにして、姉の足元に近づいた。

 濃厚な血の匂いが鼻をつく。

 ソファの前で膝立ちになり、涼子の両肩に手をかけようとして、浩二は思わずわが目を疑った。

 切り抱かれた涼子の腹の中に、胎児の姿はなかった。

 その代わりに、別の何かがみっしりと詰め込まれている。

 ぶよぶよした、白いもの。

 その正体に気づいた時、浩二は恐怖のあまり、絶叫した。

 胎児の代わりに妊婦の腹に詰め込まれているもの…。

 それは、まぎれもなく、切り取られた2つの女性の乳房だったからである。

 







 





 
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