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第3章 百合たちの戦いは終わらない
#7 杏里、乱入する
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十畳ほどの洋間である。
その真ん中で、白く大きなものが四つん這いになっている。
初めは牛かと思った。
ホルスタインみたいな牛が、高く尻を上げて、甘えた声ですすり泣いている。
そんなふうに見えたのだ。
が、よく見ると違った。
それは人間だった。
でっぷりと肥えた人間の女である。
全裸だった。
こちらを向いた顔は、どうやら中年女のもののようだ。
袋みたいに大きな乳房が垂れ下がっているため、牛に見えたのだ。
やだ。
そんなまさか。
こんな時間から、セックスの真っ最中?
じゃあ、あれは猫の鳴き声なんかじゃなくて、この女の人の…?
だが、杏里がぎょっとしたのは、それだけではなかった。
バレーボール2つ分ほどあるその尻を抱えこみ、腰を密着させてバックから突いている人影。
その人影が、妙に小さいのである。
それもそのはずだった。
女を貫いて悦びの声を上げさせている者。
それは、子どもだった。
10歳くらいの裸の男の子である。
702号室の住人、渡会幸子と、息子の由紀夫に違いない。
近親相姦。
表面には出てこないが、世間では意外によくある事例である。
警察官になって以来、杏里はその手の関係の絡む事件にも、かつて何度か遭遇していた。
しかし、この組み合わせは、初めてだった。
小学生の息子に犯される母親。
そんな関係、あっていいはずがない。
腕から力が抜けて、ずるっと下に落っこちた。
その杏里を抱き留めて、零が囁いた。
「行くぞ。敵はお楽しみの最中だ。こんなチャンスは他にない」
「でも、あれは何? どうしてあんな…?」
「いいか。やつらは親子じゃない。私はきょう半日、ふたりの後を尾行して確信した。あれは奴隷と主人だ。そして主人のほうは」
零の肘が薄い仕切り板をぶち抜いた。
その穴から杏里を引きずり込むなり、今度は右手に握った苦無でガラス窓をぶち割った。
零に抱えられるようにして、杏里は部屋の中に飛び込んだ。
ぶくぶくに太った女性が悲鳴を上げ、その生白い尻の向こうで少年が顔を上げた。
その顔を一瞥した瞬間、杏里は零の言葉の意味を悟った。
主人はこっちだ。
だって、この子、目も鼻もない。
外道。
なんてことだろう。
子どものほうこそが、外道だったのだ。
「狂ったやつが、多すぎる」
零が着物を広げ、百の目玉で外道を威嚇した。
金縛りに遭い、外道の顔面が流動し始める。
その中央に、苦悶のかたちに丸い口が開いた。
「地獄に堕ちろ、この外道」
零の叫びとともに鞭のような舌が伸び、すごい速さでブラックホールのような口に吸い込まれていった。
「あぐう」
松果体を貫かれ、電気ショックを受けた解剖台の上の蛙のように、外道の小さな体が硬直する。
しゅっと空気を切る音がして、零の舌が巻き戻った。
「由紀夫、どうしたの? ママはまだイッてないのよ? 途中でやめちゃダメでしょ?」
半狂乱のホルスタイン女が、床にくずおれた子どもの裸体にしがみつく。
零が肩をすくめた。
「私の仕事はここまでだ。後は任せた」
「ちょ、ちょっと、零ったら」
止める杏里の手をすり抜けて、風のように窓の外の闇に消えてしまう。
「わ、ここ7階なのに? ったく、何考えてるのよ?」
隣の部屋のほうから、野崎の声が聞こえてきたのはその時だ。
「杏里先輩、いるんですか? 班長から電話です。なんで笹原は連絡してこないんだって怒ってますけど」
その真ん中で、白く大きなものが四つん這いになっている。
初めは牛かと思った。
ホルスタインみたいな牛が、高く尻を上げて、甘えた声ですすり泣いている。
そんなふうに見えたのだ。
が、よく見ると違った。
それは人間だった。
でっぷりと肥えた人間の女である。
全裸だった。
こちらを向いた顔は、どうやら中年女のもののようだ。
袋みたいに大きな乳房が垂れ下がっているため、牛に見えたのだ。
やだ。
そんなまさか。
こんな時間から、セックスの真っ最中?
じゃあ、あれは猫の鳴き声なんかじゃなくて、この女の人の…?
だが、杏里がぎょっとしたのは、それだけではなかった。
バレーボール2つ分ほどあるその尻を抱えこみ、腰を密着させてバックから突いている人影。
その人影が、妙に小さいのである。
それもそのはずだった。
女を貫いて悦びの声を上げさせている者。
それは、子どもだった。
10歳くらいの裸の男の子である。
702号室の住人、渡会幸子と、息子の由紀夫に違いない。
近親相姦。
表面には出てこないが、世間では意外によくある事例である。
警察官になって以来、杏里はその手の関係の絡む事件にも、かつて何度か遭遇していた。
しかし、この組み合わせは、初めてだった。
小学生の息子に犯される母親。
そんな関係、あっていいはずがない。
腕から力が抜けて、ずるっと下に落っこちた。
その杏里を抱き留めて、零が囁いた。
「行くぞ。敵はお楽しみの最中だ。こんなチャンスは他にない」
「でも、あれは何? どうしてあんな…?」
「いいか。やつらは親子じゃない。私はきょう半日、ふたりの後を尾行して確信した。あれは奴隷と主人だ。そして主人のほうは」
零の肘が薄い仕切り板をぶち抜いた。
その穴から杏里を引きずり込むなり、今度は右手に握った苦無でガラス窓をぶち割った。
零に抱えられるようにして、杏里は部屋の中に飛び込んだ。
ぶくぶくに太った女性が悲鳴を上げ、その生白い尻の向こうで少年が顔を上げた。
その顔を一瞥した瞬間、杏里は零の言葉の意味を悟った。
主人はこっちだ。
だって、この子、目も鼻もない。
外道。
なんてことだろう。
子どものほうこそが、外道だったのだ。
「狂ったやつが、多すぎる」
零が着物を広げ、百の目玉で外道を威嚇した。
金縛りに遭い、外道の顔面が流動し始める。
その中央に、苦悶のかたちに丸い口が開いた。
「地獄に堕ちろ、この外道」
零の叫びとともに鞭のような舌が伸び、すごい速さでブラックホールのような口に吸い込まれていった。
「あぐう」
松果体を貫かれ、電気ショックを受けた解剖台の上の蛙のように、外道の小さな体が硬直する。
しゅっと空気を切る音がして、零の舌が巻き戻った。
「由紀夫、どうしたの? ママはまだイッてないのよ? 途中でやめちゃダメでしょ?」
半狂乱のホルスタイン女が、床にくずおれた子どもの裸体にしがみつく。
零が肩をすくめた。
「私の仕事はここまでだ。後は任せた」
「ちょ、ちょっと、零ったら」
止める杏里の手をすり抜けて、風のように窓の外の闇に消えてしまう。
「わ、ここ7階なのに? ったく、何考えてるのよ?」
隣の部屋のほうから、野崎の声が聞こえてきたのはその時だ。
「杏里先輩、いるんですか? 班長から電話です。なんで笹原は連絡してこないんだって怒ってますけど」
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