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第3章 百合たちの戦いは終わらない
#5 杏里、悪夢に呑まれる
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夜の海岸だった。
冷たい岩の上に、杏里は全裸で横たわっていた。
両の太腿に、何かぬるぬるしたものが巻きついている。
下半身に視線をやって、杏里は悲鳴を上げた。
蛸である。
波間から半身を乗り出した大蛸が、杏里を触手で絡め取ろうとしているのだ。
触手が蠢きながら伸びてきて、胴のくびれた部分に絡みついた。
更に2本が宙を舞い、杏里の豊か過ぎる乳房を締め上げる。
触手に引かれて身体がずり下がっていく。
サーチライトのようにぎらつく大蛸の眼が近づいてきた。
蛸が口を開ける。
鋭い嘴のついた、赤い洞穴のような口。
首にも触手が巻きついた。
残り2本が、股間と口を狙ってくる。
「やめて!」
絶叫した時、目が覚めた。
が、最初杏里は、まだ自分が夢の中にいるのかと思った。
いつのまにか、部屋の中は真っ暗になってしまっている。
身体が動かなかった。
何か大きなものが、体の上にのしかかっているのだ。
セーターとスカートの下で、何やら冷たいものが蠢いていた。
太腿を、乳房を、何かがまさぐっている。
「な、なに?」
手を伸ばし、スマホを探り当てた。
電源を入れ、その明かりで周囲を照らしてみた。
その瞬間、
「ま、まさか」
杏里は絶句した。
スマホの光が浮かび上がらせたのは、地獄のような光景だった。
夢が現実になっていた。
ただ、触手で杏里を絡め取っているのは、蛸ではない。
炬燵である。
あるいは、炬燵に擬態した何か、とでもいうべきか。
布団を二枚貝の外套膜のように広げ、その下から無数の触手を泳がせている。
触手の奥の暗がりに、金色に光る円盤状の眼が覗いている。
触手が伸縮する度に、身体が炬燵の中に引きずり込まれていく。
これだったのか。
沸き上がる恐怖の中で、杏里は思った。
佐藤亜由美と足立仁美は、部屋の中で食べられたのだ。
信じがたいことだが、この炬燵に。
韮崎が知ったら何というだろう?
犯人が炬燵?
杏里でさえ茫然とせざるを得ない、前代未聞の殺人事件である。
が、今はそんなことを考えている場合ではない。
とにかく、生き延びるのが先決だ。
杏里は必死でポーチを探った。
拳銃。
拳銃にさえ、手が届けば。
指先がポーチに触れた。
だが、取っ手を引っかけようとして、逆に弾いてしまった。
弾かれて、ポーチが遠くなる。
もう、届かない。
その瞬間、ずるっと大きく体が引き込まれた。
「んもう! 杏里のバカ!」
思わず自分を罵った時だった。
だしぬけに周りが明るくなった。
誰かが蛍光灯をつけたのだ。
そう気づいた時には、すでに炬燵の化け物の後ろに零が立っていた。
「悪い。遅くなった」
零が言い、右手を振り上げた。
苦無が蛍光灯の光を反射して、きらりと光った。
ドスッ。
次の瞬間、生肉を打つような鈍い音がした。
外套膜が持ち上がった。
触手だらけの腹を曝け出して、炬燵が横倒しにひっくり返った。
その頭部と思しきあたりに、零が苦無を握った右腕を突っ込んだ。
噴水のように体液がしぶいて、壁に降りかかる。
仰向けになったそれは、さながら巨大な海棲生物だった。
足の代わりに無数の触手が生えたダイオウグソクムシ。
そんな感じである。
ただ、体長が1メートル以上あり、人を喰らうところは尋常ではない。
零がその怪生物の腹部を苦無で切り裂いていく。
ごろりと中から白いものがこぼれ出た。
骨だった。
2人分の頭蓋骨。
そして鳥籠みたいな肋骨が2組。
「うぐ」
ショックのあまり、杏里は口を押えた。
だが、間に合わなかった。
嘔吐する杏里に、零が言った。
「おかしいと思ったんだ。ふたつの写真に、同じ炬燵があるなんて」
冷たい岩の上に、杏里は全裸で横たわっていた。
両の太腿に、何かぬるぬるしたものが巻きついている。
下半身に視線をやって、杏里は悲鳴を上げた。
蛸である。
波間から半身を乗り出した大蛸が、杏里を触手で絡め取ろうとしているのだ。
触手が蠢きながら伸びてきて、胴のくびれた部分に絡みついた。
更に2本が宙を舞い、杏里の豊か過ぎる乳房を締め上げる。
触手に引かれて身体がずり下がっていく。
サーチライトのようにぎらつく大蛸の眼が近づいてきた。
蛸が口を開ける。
鋭い嘴のついた、赤い洞穴のような口。
首にも触手が巻きついた。
残り2本が、股間と口を狙ってくる。
「やめて!」
絶叫した時、目が覚めた。
が、最初杏里は、まだ自分が夢の中にいるのかと思った。
いつのまにか、部屋の中は真っ暗になってしまっている。
身体が動かなかった。
何か大きなものが、体の上にのしかかっているのだ。
セーターとスカートの下で、何やら冷たいものが蠢いていた。
太腿を、乳房を、何かがまさぐっている。
「な、なに?」
手を伸ばし、スマホを探り当てた。
電源を入れ、その明かりで周囲を照らしてみた。
その瞬間、
「ま、まさか」
杏里は絶句した。
スマホの光が浮かび上がらせたのは、地獄のような光景だった。
夢が現実になっていた。
ただ、触手で杏里を絡め取っているのは、蛸ではない。
炬燵である。
あるいは、炬燵に擬態した何か、とでもいうべきか。
布団を二枚貝の外套膜のように広げ、その下から無数の触手を泳がせている。
触手の奥の暗がりに、金色に光る円盤状の眼が覗いている。
触手が伸縮する度に、身体が炬燵の中に引きずり込まれていく。
これだったのか。
沸き上がる恐怖の中で、杏里は思った。
佐藤亜由美と足立仁美は、部屋の中で食べられたのだ。
信じがたいことだが、この炬燵に。
韮崎が知ったら何というだろう?
犯人が炬燵?
杏里でさえ茫然とせざるを得ない、前代未聞の殺人事件である。
が、今はそんなことを考えている場合ではない。
とにかく、生き延びるのが先決だ。
杏里は必死でポーチを探った。
拳銃。
拳銃にさえ、手が届けば。
指先がポーチに触れた。
だが、取っ手を引っかけようとして、逆に弾いてしまった。
弾かれて、ポーチが遠くなる。
もう、届かない。
その瞬間、ずるっと大きく体が引き込まれた。
「んもう! 杏里のバカ!」
思わず自分を罵った時だった。
だしぬけに周りが明るくなった。
誰かが蛍光灯をつけたのだ。
そう気づいた時には、すでに炬燵の化け物の後ろに零が立っていた。
「悪い。遅くなった」
零が言い、右手を振り上げた。
苦無が蛍光灯の光を反射して、きらりと光った。
ドスッ。
次の瞬間、生肉を打つような鈍い音がした。
外套膜が持ち上がった。
触手だらけの腹を曝け出して、炬燵が横倒しにひっくり返った。
その頭部と思しきあたりに、零が苦無を握った右腕を突っ込んだ。
噴水のように体液がしぶいて、壁に降りかかる。
仰向けになったそれは、さながら巨大な海棲生物だった。
足の代わりに無数の触手が生えたダイオウグソクムシ。
そんな感じである。
ただ、体長が1メートル以上あり、人を喰らうところは尋常ではない。
零がその怪生物の腹部を苦無で切り裂いていく。
ごろりと中から白いものがこぼれ出た。
骨だった。
2人分の頭蓋骨。
そして鳥籠みたいな肋骨が2組。
「うぐ」
ショックのあまり、杏里は口を押えた。
だが、間に合わなかった。
嘔吐する杏里に、零が言った。
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