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第2章 百合と髑髏の狂騒曲
#11 杏里、ナシ割に専念する
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2時間弱で捜査会議が終わると、照和署の面々は第2の事件のあった川奈公園に向かった。
山田と三上の運転する覆面パトカーに便乗して、本部の駐車場を出発する。
「笹原、おまえは署で電話番しててもいいんだぞ」
韮崎のの嫌味を聞き流し、杏里は胸の中にたまっていた疑問を口にした。
「問題は、どうやって首を持ち運んだか、だと思うんです」
「ああ、それは僕も考えた」
運転席の三上が、前方に注意を払ったまま、言った。
「第1と第2の事件は、夕方発生している。人気の少ない場所ではあるけれど、どちらの公園にも、子どもを遊ばせている母親や、散策している老人たちがいた。つまりまったく人目がなかったというわけじゃない。公園の周りは人通りの多い往来だから、一歩外に出れば尚更だろう。そんなところを、生首を持って歩いていたら、誰かの目についてもおかしくはない」
「子供とはいえ、頭ってのは意外に重くてかさばるからな、ましてや昨日起きた第3の事件は、あのデパートの高島屋の中だ。しかも被害者は15歳の少女と来ている。頭もさぞ大きかったに違いない」
「犯人は、大きめのリュックか、スポーツバッグを持ってたはずです。それが目印になるんじゃないでしょうか」
「そうだな。もう一度、そのあたりを強調して訊きこんでみるか。笹原、おまえもたまにはまともなこと言うようになったじゃねえか。時差ボケが治ったってか?」
現場につくと、韮崎と杏里がナシ割、三上たち4人が識鑑を担当することになった。
ナシ割とは、現場の遺留品の調査。
識鑑は、いわゆる聞き込みのことである。
「1週間前に一度聞きこんでるが、きょうはもう少し範囲を広げてみろ。決め手はバッグかリュックサックだ。大きければ紙袋でもいい。とにかく、事件当日、人間の頭が入りそうな袋を持った奴がうろついていなかったか、しっかり訊きこんで来い」
韮崎の指示を受け、ふた組に分かれて4人が散っていった。
現場はここ川奈公園に3つあるトイレのうち、もっとも目立たない場所にあった。
子ども広場からもグラウンドからも一番遠く、しかも周囲を木立に囲まれている。
いつ性犯罪が起きてもおかしくない立地条件である。
「ヤチカたちが漁っていった後だから、どうせチリひとつ、残っちゃいないだろうがな」
韮崎は煙草をくわえ、すでに半ばあきらめ顔だ。
だが、杏里はどうしても現場を見ておきたかった。
解決のヒントがあるとすれば、それは殺害現場だ、と強く思う。
「ちょっと見てきます」
そう言い置いて、四角いコンクリート製の小屋に近づいた。
女子用と男子用に入口が分かれている。
立入禁止テープをくぐって、女子用に足を踏み入れた。
中を覗くと、思いのほか綺麗だった。
公園のはずれにあっても、掃除は行き届いているらしい。
しばらく内部を歩き回ってみたが、韮崎の言葉通り、個室の中も外も床は磨かれたようにつるつるしていて、髪の毛1本落ちていなかった。
「何かあるはずなんだけどなあ」
洗面台の鏡に向かってひとりごちた時である。
視界の隅に何かが入ってきた。
これ…。
杏里は壁に貼られた一枚の紙に目をやった。
もしかして…。
閃いた。
脱兎のごとく、駆け出した。
トイレから飛び出すと、ベンチに座って煙草をくゆらせている韮崎に向かって、杏里は叫んだ。
「ニラさん! あとふたつの現場にも、連れてってください! ちょっと、気になることがあるんです!」
山田と三上の運転する覆面パトカーに便乗して、本部の駐車場を出発する。
「笹原、おまえは署で電話番しててもいいんだぞ」
韮崎のの嫌味を聞き流し、杏里は胸の中にたまっていた疑問を口にした。
「問題は、どうやって首を持ち運んだか、だと思うんです」
「ああ、それは僕も考えた」
運転席の三上が、前方に注意を払ったまま、言った。
「第1と第2の事件は、夕方発生している。人気の少ない場所ではあるけれど、どちらの公園にも、子どもを遊ばせている母親や、散策している老人たちがいた。つまりまったく人目がなかったというわけじゃない。公園の周りは人通りの多い往来だから、一歩外に出れば尚更だろう。そんなところを、生首を持って歩いていたら、誰かの目についてもおかしくはない」
「子供とはいえ、頭ってのは意外に重くてかさばるからな、ましてや昨日起きた第3の事件は、あのデパートの高島屋の中だ。しかも被害者は15歳の少女と来ている。頭もさぞ大きかったに違いない」
「犯人は、大きめのリュックか、スポーツバッグを持ってたはずです。それが目印になるんじゃないでしょうか」
「そうだな。もう一度、そのあたりを強調して訊きこんでみるか。笹原、おまえもたまにはまともなこと言うようになったじゃねえか。時差ボケが治ったってか?」
現場につくと、韮崎と杏里がナシ割、三上たち4人が識鑑を担当することになった。
ナシ割とは、現場の遺留品の調査。
識鑑は、いわゆる聞き込みのことである。
「1週間前に一度聞きこんでるが、きょうはもう少し範囲を広げてみろ。決め手はバッグかリュックサックだ。大きければ紙袋でもいい。とにかく、事件当日、人間の頭が入りそうな袋を持った奴がうろついていなかったか、しっかり訊きこんで来い」
韮崎の指示を受け、ふた組に分かれて4人が散っていった。
現場はここ川奈公園に3つあるトイレのうち、もっとも目立たない場所にあった。
子ども広場からもグラウンドからも一番遠く、しかも周囲を木立に囲まれている。
いつ性犯罪が起きてもおかしくない立地条件である。
「ヤチカたちが漁っていった後だから、どうせチリひとつ、残っちゃいないだろうがな」
韮崎は煙草をくわえ、すでに半ばあきらめ顔だ。
だが、杏里はどうしても現場を見ておきたかった。
解決のヒントがあるとすれば、それは殺害現場だ、と強く思う。
「ちょっと見てきます」
そう言い置いて、四角いコンクリート製の小屋に近づいた。
女子用と男子用に入口が分かれている。
立入禁止テープをくぐって、女子用に足を踏み入れた。
中を覗くと、思いのほか綺麗だった。
公園のはずれにあっても、掃除は行き届いているらしい。
しばらく内部を歩き回ってみたが、韮崎の言葉通り、個室の中も外も床は磨かれたようにつるつるしていて、髪の毛1本落ちていなかった。
「何かあるはずなんだけどなあ」
洗面台の鏡に向かってひとりごちた時である。
視界の隅に何かが入ってきた。
これ…。
杏里は壁に貼られた一枚の紙に目をやった。
もしかして…。
閃いた。
脱兎のごとく、駆け出した。
トイレから飛び出すと、ベンチに座って煙草をくゆらせている韮崎に向かって、杏里は叫んだ。
「ニラさん! あとふたつの現場にも、連れてってください! ちょっと、気になることがあるんです!」
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