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第2章 百合と髑髏の狂騒曲
#10 杏里、慟哭する
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『連続首切り魔殺人事件』
そう大きく張り出された垂れ幕を尻目に、大勢の男たちがザワザワと大会議室に入っていく。
ここ愛知県警本部に杏里が足を踏み入れるのは、『赤い真珠事件』以来、2度目である。
県警の幹部陣が顔をそろえると、中村署の刑事の司会で会議は始まった。
壇上のスクリーンに映し出される残虐な画像に、杏里は息を呑んだ。
資料に目を落とす。
被害者は、ふたりとも子どもだった。
2番目が、小学2年生。
そして3番目が、中学3年生。
ともに女子である。
「前回、報告いたしました2番目の被害者、秋田真名の首はまだ見つかっておりません。現場の川奈公園はもちろんのこと、近くを流れる山崎川まで捜査の手を広げていますが、今のところ、不審者の目撃情報もありません」
先にしゃべり出したのは、三上だった。
その説明を聞いて、杏里はショックを受けた。
川奈公園といえば、うちの管轄である。
杏里が里で時を忘れて零と愛を確かめ合っている時に、足元で大変な事件が起きていたのだ。
資料によると、被害者の秋田真名の死体が発見されたのは、7月9日の朝8時。
場所は公園の片隅の女子トイレの個室の中。
前日から捜査願が出ていた小学2年生の真名を、巡回中の警官が発見したのだった。
死亡推定時刻は、前日の午後6時から10時の間。
瑞穂公園で見つかった胎児同様、真名の死体には首から上がなかった。
「そしてきのう、JR那古野駅構内の高島屋7階トイレで発見された倉橋美夕ですが、こちらも首から上が切り取られていました。ほかのふたり同様、頭部はいまだ見つかっていません」
中村署の刑事が三上からマイクを受取って、代わりにしゃべり出した。
「秋田真名と倉橋美夕の首の切断には、鉈のような鋭利で重い刃物が使われたのではないかと思われます」
「確か、最初の赤ん坊の首は、刃物ではなく、力任せにねじ切られていたという話だったが。今度の2件の犯人は、それとは別人なのかね?」
幹部席から質問が飛んだ。
「さあ、そこはなんとも…。ただ、事件の異常性からして、同一犯の可能性が高いのではないでしょうか。例えば、第1の事件だけは偶発的な犯行で、第2・第3の事件はあらかじめ計画されていたとか…」
昨日発見された倉橋美夕は、校外から那古野駅周辺の繁華街に遊びに来ていた中学生だった。
夕方友人たちと来て、ひとりはぐれてしまい、夜8時、閉店時間に首なし死体で見つかった。
発見者は警備会社の警備員。
施錠前の点検の際に、7階の女子トイレで美夕の首なし死体を見つけたのだという。
死亡推定時刻は、同日午後6時から7時の間。
発見される直前である。
「こんなの、ひどい…」
会議中にもかかわらず、杏里はひとりごちた。
涙があふれ、書類を濡らす。
子どもを3人手にかけるだけでも充分残酷なのに、その上に首まで持ち去るなんて…。
どうしたら、そんなむごいことができるのか。
とても人間の仕業とは思えない。
鬼畜とは、こんな犯人のことをいうのだろう。
『赤い真珠』の時の子宮摘出も酷かったけど、これはそれすらも上回る…。
「3人の被害者に共通するのは、ともに頭部を切断されていること、その頭部が見つからないこと、それから性別が女性であること、それくらいです。年齢もバラバラだし、住んでいる場所も行現場もお互いに離れています。ああ、不審者の目撃情報が皆無であることも、3件に共通していると言えば、言えそうですね」
それだけ?
怒りと屈辱にガタガタ身を震わせながら、ふと杏里は思った。
もう一度、資料に目を落とす。
やっぱり。
共通点なら、もうひとつ、あるじゃない。
どうして無視するの?
当たり前すぎるから?
でも、絶対おかしいよ。
調べてみよう。
そう心に決めた。
こんな犯人、絶対に許せない。
私が、捕まえてやる。
そう大きく張り出された垂れ幕を尻目に、大勢の男たちがザワザワと大会議室に入っていく。
ここ愛知県警本部に杏里が足を踏み入れるのは、『赤い真珠事件』以来、2度目である。
県警の幹部陣が顔をそろえると、中村署の刑事の司会で会議は始まった。
壇上のスクリーンに映し出される残虐な画像に、杏里は息を呑んだ。
資料に目を落とす。
被害者は、ふたりとも子どもだった。
2番目が、小学2年生。
そして3番目が、中学3年生。
ともに女子である。
「前回、報告いたしました2番目の被害者、秋田真名の首はまだ見つかっておりません。現場の川奈公園はもちろんのこと、近くを流れる山崎川まで捜査の手を広げていますが、今のところ、不審者の目撃情報もありません」
先にしゃべり出したのは、三上だった。
その説明を聞いて、杏里はショックを受けた。
川奈公園といえば、うちの管轄である。
杏里が里で時を忘れて零と愛を確かめ合っている時に、足元で大変な事件が起きていたのだ。
資料によると、被害者の秋田真名の死体が発見されたのは、7月9日の朝8時。
場所は公園の片隅の女子トイレの個室の中。
前日から捜査願が出ていた小学2年生の真名を、巡回中の警官が発見したのだった。
死亡推定時刻は、前日の午後6時から10時の間。
瑞穂公園で見つかった胎児同様、真名の死体には首から上がなかった。
「そしてきのう、JR那古野駅構内の高島屋7階トイレで発見された倉橋美夕ですが、こちらも首から上が切り取られていました。ほかのふたり同様、頭部はいまだ見つかっていません」
中村署の刑事が三上からマイクを受取って、代わりにしゃべり出した。
「秋田真名と倉橋美夕の首の切断には、鉈のような鋭利で重い刃物が使われたのではないかと思われます」
「確か、最初の赤ん坊の首は、刃物ではなく、力任せにねじ切られていたという話だったが。今度の2件の犯人は、それとは別人なのかね?」
幹部席から質問が飛んだ。
「さあ、そこはなんとも…。ただ、事件の異常性からして、同一犯の可能性が高いのではないでしょうか。例えば、第1の事件だけは偶発的な犯行で、第2・第3の事件はあらかじめ計画されていたとか…」
昨日発見された倉橋美夕は、校外から那古野駅周辺の繁華街に遊びに来ていた中学生だった。
夕方友人たちと来て、ひとりはぐれてしまい、夜8時、閉店時間に首なし死体で見つかった。
発見者は警備会社の警備員。
施錠前の点検の際に、7階の女子トイレで美夕の首なし死体を見つけたのだという。
死亡推定時刻は、同日午後6時から7時の間。
発見される直前である。
「こんなの、ひどい…」
会議中にもかかわらず、杏里はひとりごちた。
涙があふれ、書類を濡らす。
子どもを3人手にかけるだけでも充分残酷なのに、その上に首まで持ち去るなんて…。
どうしたら、そんなむごいことができるのか。
とても人間の仕業とは思えない。
鬼畜とは、こんな犯人のことをいうのだろう。
『赤い真珠』の時の子宮摘出も酷かったけど、これはそれすらも上回る…。
「3人の被害者に共通するのは、ともに頭部を切断されていること、その頭部が見つからないこと、それから性別が女性であること、それくらいです。年齢もバラバラだし、住んでいる場所も行現場もお互いに離れています。ああ、不審者の目撃情報が皆無であることも、3件に共通していると言えば、言えそうですね」
それだけ?
怒りと屈辱にガタガタ身を震わせながら、ふと杏里は思った。
もう一度、資料に目を落とす。
やっぱり。
共通点なら、もうひとつ、あるじゃない。
どうして無視するの?
当たり前すぎるから?
でも、絶対おかしいよ。
調べてみよう。
そう心に決めた。
こんな犯人、絶対に許せない。
私が、捕まえてやる。
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