サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第2章 百合と髑髏の狂騒曲

#6 杏里、水着になる

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 翌日も朝からよく晴れていた。

 言ってみれば、絶好の水泳日和である。

 杏里は軽ながら、自家用車を持っている。

 3年落ちのスズキアルトを、中古で購入したものだ。

 馬力はないが、燃費の良さはハイブリッド車に近い。

 ブルーの丸いボディがかわいくて、自分的には気に入っている。

 久しぶりのドライブだった。

 高速に乗る前に、ショッピングセンターで水着を買った。

 杏里は白地に向日葵の模様が目立つ三角ビキニ。

 零はそのスレンダーな肢体を引き立てるハイレグ気味の黒いワンピース。

「うわあ、零、かっこいい! すごい! なんだかモデルみたい」

 試着室から現れた零を見て杏里は思わず歓声を上げたものだったが、零は、

「水着を着るなんて、中学校の体育の授業以来だな」

 とまた顔をしかめてみせただけだった。


 目的地は、仏法僧で有名な鳳来寺山の近くにあるというので、高速を降りてからはただひたすら山道だった。

 車2台がやっとすれ違えるかどうかというほど狭い山道を、杏里は汗だくになりながら運転した。

 なんせ片側は山肌、片側はつるべ落としの崖である。

 申し訳程度のガードレールはあるものの、運転を一歩誤れば、確実に命はない。

「零、免許持ってたよね? そろそろ運転、かわらない?」

 中ほどまで登ったところで一度そう提案してみたが、

「私はペーパードライバーなんでね。死にたくなければ自分で運転しろ」

 と、ミもフタもない返事が返ってきただけだった。

 山を越え、しばらく下り坂が続くと、展望台のあるちょっとした広場に出た。

 無料駐車場を見つけて車を止めると、

「ここから下に下りられるはずだ」

 せせらきの音に耳を澄ませて、零が言った。

「ふう、助かったよぉ。なんとか死なずに済んだよぉ」

 車を降りて、杏里は大きく伸びをした。

 空は抜けるように青く、空気はさわやかで申し分ない。

 帰りのことさえ考えなければ、もう最高の気分である。

 手すりから下を覗くと、コンクリートの階段が10メートルほど下まで降りていて、そこが河原になっていた。

「川に沿って上流に行くと、小さなダムがある。そこが私たちの目的地だ。ダムにせき止められてできた天然のプールだよ。そして、川を渡ったところに里への入口がある。水浴びを満喫したら、川を渡って里へ行こう。なに、水着のままでかまわない。向こうは暑くも寒くもない、天国みたいなところだからな」 

 零は身軽だった。

 体重がないかのように、軽快に階段を下りて行った。

「待ってよ」

 息を切らしてやっとのことで追いつくと、そこは透明な水の流れる美しい清流の岸辺だった。

「へえ、川の底が透けて見えてる。こんなきれいな川、初めてだよ」

 感心したようにつぶやくと、

「鮎も山女もオイカワもいる。ここは清流に住む淡水魚の宝庫なんだ」

 長い髪を川風になびかせて、零が解説した。

 河原には丸い大きな石がごろごろ転がっていて、その間を縫うようにして上流に向かうのは、なかなかの難事業だった。

「ね、零って、学校はどうしてたの? さっき、水着を着るのは、中学校以来だ、みたいなこと、言ってたでしょ?」

「義務教育の6年間は、ちゃんと麓の小中学校に通ったさ。もっとも、先生の方からすれば、マヨヒガからやってくる生徒の家に家庭訪問するのは、まず不可能だったろうけどね」

 マヨヒガというのは、隠れ里の別名である。

 零の住んでいた”里”というのは、昔話によく登場する隠れ里のうちのひとつらしいのだ。

「そのあとは通信教育ってやつで、大検の資格まで取った。ま、お金もないし、面倒だったから受験はしなかったけど」

「ふーん、零って見かけによらず勉強家だったんだ」

「この世界の基本を押さえておきたかっただけさ。無知では戦うことも生き延びることもできないからな」

「こんな山の中から、小学校や中学校に通うのは大変だったでしょ」

「何も里から外界への出入り口はひとつとは限らない。もっと人里に近い場所もある。きょうはおまえが泳ぎたいというから、ここを選んだまでのことだ。この春私がこっちに渡ってきたのも、もっと街に近いところにある通路からさ」

 最初出会った時、杏里は零に不思議な通路に導かれたことを思い出した。

 おそらく人間の眼には留まらないあんな道が、この世界のあちこちに張り巡らされているのに違いない。

 30分近く歩いただろうか。

 ひと際巨大な岩を迂回したところで、ふいに零が言った。

「着いた」

 岩陰から出ると、ぎらつく夏の陽射しの下、エメラルドブルーの水面が広がっている。

 左手にダムがあり、ダム湖が満々と水をたたえているのだった。

「どうせ誰も見ていない。ここで着替えよう」

 応える暇もなく、Tシャツとジーンズを脱いで零がさっさと裸になる。

「そ、そんなぁ」

 仕方なく、岩陰に隠れて杏里も着替えることにした。

「着替えはこの岩の下に隠しておこう。川を渡るのに邪魔になるから」

「ほんとに水着のままでいいんだね。その、お館さまとかに叱られない?」

「お館さまはそんなこと気にしないさ。それより改めて外で見ると、すごいな杏里のおっぱいは」

 一歩下がり、しげしげと杏里の水着姿を眺めながら、零が目を丸くする。

「ちょっと待ってろ」

 後ろに回り、腋の下から両手を入れてくると、零がいきなり杏里の乳房を掌で持ち上げた。

 Gカップは優にある杏里のバストは、ほとんどビキニからこぼれ落ちそうである。

 それを両手で持ち上げて、ぶるんと落とす。

「このぷよぷよ感がたまらない」

 満足げに零が言う。

「だめだよ」

 顔を赤らめる杏里。

 胸を隠そうとした両手をつかまれ、そのまま抱き寄せられた。

「泳ぐ前に、するか?」

 零が耳元で囁いた。

「我慢できない。おまえのその格好、あまりに煽情的すぎる」

「ゆうべ、した、ばっかりなのに…」

 恥じらうように、顔を伏せる。

 が、抗うことは不可能だった。

「はん、どうせもう、濡れてるくせに」

 零の手が太腿を割り、股間に達すると、杏里は切なげに身をよじりながら小さく喘いでいだ。



 






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