18 / 157
第1章 黄泉の国から来た少女
#17 杏里、気がつく
しおりを挟む
翌4月18日の朝。
県警本部は、駆けつけた刑事たちで大賑わいだった。
玄関脇には、『連続女性切り裂き魔事件』の大きな立て看板が立てられている。
ゆうべ杏里が夜通し書いていた作品がこれである。
帳場の立て看板は、事件のあった所轄署の職員が作成するのが通例なのだ。
100人収容の1階ホールはすでに半分ほど埋まっていて、仲間の姿を見つけるのに苦労した。
杏里にとって、合同捜査会議は初めての経験だ。
出席してまず痛感したのは、女性刑事がいかに少ないかという事実だった。
外見からしてすぐに女とわかる者は、正直杏里ひとりしかいないのだ。
その分杏里は目立ちまくっていた。
スーツで隠していても、張り出した胸と尻は否が応でも男たちの目を引いてしまう。
出席者が異様に多いのは、県警本部、照和署、中署以外からも、たくさんの刑事たちが応援に駆けつけているからに違いない。
執拗な視線に曝されながら韮崎の隣に身を縮こまらせて腰かけると、
「おまえに発表させようと思ってたんだが、この様子じゃ、やめといたほうが無難だな」
周囲を見渡して、韮崎が言った。
「下手におまえが出ていくと、盛りのついたケダモノどもが、それこそ暴動を起こしかねない」
「変な事言わないでくださいよ。周りに聞こえちゃいますって」
杏里が肩をすくめた時、中署の刑事の司会で、合同捜査会議が始まった。
ホワイトボードにプロジェクターで次々に事件関連の写真や画像が映しだされていく。
それを前に、中署の刑事と照和署の三上が交互に解説を進めていく。
死体の写真と、防犯カメラの画像には、さすがに会場全体がどよめいた。
そしてあのアジトの写真。
祭壇と、羊皮紙に血で描かれたウロボロスの蛇。
「犯行現場からどうやって逃げ出したのかなど、不明点は依然として多いですが、犯人はこの防犯カメラの男と見て、まず間違いないと思います。男は我々の目の前で、猫が洞池に身を投げて逃走しました。おそらく取水口から天白川に出たのではないかと…」
三上が慣れた調子でよどみなく説明している。
知っていることばかりなので、杏里は中署から回ってきた報告書のほうに集中することにした。
ふたりの犠牲者の共通点は何なのか。
それが気になってならなかった。
「ですから、捜査員を天白川沿いに投入して一斉に聞き込みすれば、必ずや犯人の足取りがつかめるのではないかと…」
三上の耳に心地よい声をBGM代わりに聴きながら、報告書をめくっていく。
杏里が手を止めたのは、鬼頭千佳の詳細なプロフィールの載ったページだった。
おととい自分がつくった照和署の報告書を横に並べ、三浦文代のプロフィールのページと比べてみる。
出身高校は、違っていた。
中学校も、違う。
小学校は、どうだろう。
三浦文代は、岐阜県加茂郡白川町の、白川第2小学校。
鬼頭千佳は…あれ?
同じだ。
本籍地に目を通す。
鬼頭千佳の本籍は、那古野市。
でも、戸籍では養子になっている。
だからか。
杏里は胸の中で手を打った。
鬼頭千佳の通っていたのは、白川第2小学校。
鬼頭千佳は、小学生の頃まで岐阜に住んでいたのだ。
その後、両親に不幸があったか何かで、那古野市の親類の元に引き取られた。
大方そんなところではないのか。
事件の鍵は、ふたりの小学校時代にある。
ほかに接点がない以上、これはほぼ確実だろう。
「ニラさん、ニラさん」
杏里は小声で隣の韮崎のわき腹をつついた。
「何だ? 会議中だぞ」
いつものように、仏頂面でじろりと睨んでくる韮崎。
「私、わかっちゃったんですよ。ふたりの共通点」
ニカっと笑って、杏里は言った。
県警本部は、駆けつけた刑事たちで大賑わいだった。
玄関脇には、『連続女性切り裂き魔事件』の大きな立て看板が立てられている。
ゆうべ杏里が夜通し書いていた作品がこれである。
帳場の立て看板は、事件のあった所轄署の職員が作成するのが通例なのだ。
100人収容の1階ホールはすでに半分ほど埋まっていて、仲間の姿を見つけるのに苦労した。
杏里にとって、合同捜査会議は初めての経験だ。
出席してまず痛感したのは、女性刑事がいかに少ないかという事実だった。
外見からしてすぐに女とわかる者は、正直杏里ひとりしかいないのだ。
その分杏里は目立ちまくっていた。
スーツで隠していても、張り出した胸と尻は否が応でも男たちの目を引いてしまう。
出席者が異様に多いのは、県警本部、照和署、中署以外からも、たくさんの刑事たちが応援に駆けつけているからに違いない。
執拗な視線に曝されながら韮崎の隣に身を縮こまらせて腰かけると、
「おまえに発表させようと思ってたんだが、この様子じゃ、やめといたほうが無難だな」
周囲を見渡して、韮崎が言った。
「下手におまえが出ていくと、盛りのついたケダモノどもが、それこそ暴動を起こしかねない」
「変な事言わないでくださいよ。周りに聞こえちゃいますって」
杏里が肩をすくめた時、中署の刑事の司会で、合同捜査会議が始まった。
ホワイトボードにプロジェクターで次々に事件関連の写真や画像が映しだされていく。
それを前に、中署の刑事と照和署の三上が交互に解説を進めていく。
死体の写真と、防犯カメラの画像には、さすがに会場全体がどよめいた。
そしてあのアジトの写真。
祭壇と、羊皮紙に血で描かれたウロボロスの蛇。
「犯行現場からどうやって逃げ出したのかなど、不明点は依然として多いですが、犯人はこの防犯カメラの男と見て、まず間違いないと思います。男は我々の目の前で、猫が洞池に身を投げて逃走しました。おそらく取水口から天白川に出たのではないかと…」
三上が慣れた調子でよどみなく説明している。
知っていることばかりなので、杏里は中署から回ってきた報告書のほうに集中することにした。
ふたりの犠牲者の共通点は何なのか。
それが気になってならなかった。
「ですから、捜査員を天白川沿いに投入して一斉に聞き込みすれば、必ずや犯人の足取りがつかめるのではないかと…」
三上の耳に心地よい声をBGM代わりに聴きながら、報告書をめくっていく。
杏里が手を止めたのは、鬼頭千佳の詳細なプロフィールの載ったページだった。
おととい自分がつくった照和署の報告書を横に並べ、三浦文代のプロフィールのページと比べてみる。
出身高校は、違っていた。
中学校も、違う。
小学校は、どうだろう。
三浦文代は、岐阜県加茂郡白川町の、白川第2小学校。
鬼頭千佳は…あれ?
同じだ。
本籍地に目を通す。
鬼頭千佳の本籍は、那古野市。
でも、戸籍では養子になっている。
だからか。
杏里は胸の中で手を打った。
鬼頭千佳の通っていたのは、白川第2小学校。
鬼頭千佳は、小学生の頃まで岐阜に住んでいたのだ。
その後、両親に不幸があったか何かで、那古野市の親類の元に引き取られた。
大方そんなところではないのか。
事件の鍵は、ふたりの小学校時代にある。
ほかに接点がない以上、これはほぼ確実だろう。
「ニラさん、ニラさん」
杏里は小声で隣の韮崎のわき腹をつついた。
「何だ? 会議中だぞ」
いつものように、仏頂面でじろりと睨んでくる韮崎。
「私、わかっちゃったんですよ。ふたりの共通点」
ニカっと笑って、杏里は言った。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる