サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第1章 黄泉の国から来た少女

#16 杏里、悶える

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 ヘロヘロになって家に帰りつくと、すでに夜の11時を過ぎていた。
 
 案の定、韮崎の許に県警本部から通達が来て、明日午後から本部に帳場が立つことになった。

 照和署も中署もともに建物自体が小さく、会場には不適だとみなされたのだ。

 そこであれから捜査一課の6人は署に戻って、合同捜査会議用の資料作りに追われ続けたわけだが、泊まり込みにならなかったのが、杏里としてはせめてもの救いであるといってよかった。

 どうせ零は寝ているだろうと思い、風呂に入って寝ることにした。

 シャワーを浴び、身体を丹念に洗って湯船につかってぼうっとしている時だった。

 ふいにすりガラスに影が動き、浴室の戸を開けて裸の零が入ってきた。

 肉づきのいい杏里と違い、零の肢体はうらやましいほどスレンダーである。

 ゆうべは薄暗い部屋の中だったため、細部まで見届けることができなかった。

 その零の裸身が、今目の前にある。

「れ、零…」

 杏里はあわてて浴槽から腰を上げた。

 何も言わずに、零が中に入ってくる。

 浴槽のへりを長い脚で跨ぎ越すと、お湯の中で杏里と向き合って立つ。

「する?」

 囁くように、零が訊いた。

「そ、そんな、急すぎるよ…」

 杏里の返事も待たず、零が身体を近づけてきた。

 乳首と乳首が触れ合った。

 円を描くように、零の上半身が動いた。

「あ、だめ」

 乳首を乳首で愛撫され、杏里は喘いだ。

 反射的に引こうとした腰を、零が両手で抱きかかえてきた。

 尻を強くつかまれた。

 零の太腿が杏里の太腿の間に割って入ってきた。

「あん、もう、零ったら」

 局部と局部が密着し、杏里は思わず自ら腰を動かしていた。

 零が杏里の切なげな顔を覗き込み、先の割れた舌で唇を舐めてくる。

 反射的に舌を突き出すと、零の細く長い蛇のような舌が根元に絡みついてきた。

 乳首がびんびんに勃ってくるのがわかった。

 そのコリコリした乳頭を、硬くなった零の乳首が刺激する。

 股間から熱いものがあふれ、太腿を伝う。

 局部で核と核が触れ合うと、なんともいいようのない痺れが杏里の全身を貫いた。

「はああ」

 耐え切れず浴槽に腰かけた杏里の前に、零がうずくまる。

「舐めてほしいか」

 単刀直入に訊かれた。

 うなずきかけて、ぎりぎりのところで杏里は思いとどまった。

「ありがと。気持ちよかったよ。でも、きょうはここまでね。それより零、話を聞いてほしいんだ」

「事件か」

「うん」

「私にも何かできそうなのか」

「ていうか、これはもう、零の領分だと思う」

「わかった。じゃ、居間で待ってる」

「ありがと。零、好きだよ」

「知ってるさ」


 バスローブを身にまとい、髪を拭きながら居間を覗くと、杏里のTシャツを着込んだ零が珍しくテレビを見ていた。

「すまない。これ、借りてる。戦闘服、洗濯しちゃったから」

 戦闘服というのは、あの目玉だらけの着物のことだろう。

 着の身着のままでやってきた零は、あれ以外服を持っていないのだ。

「私のほうこそ、ごめんね。落ちついたら、色々買いに行かなきゃね」

 杏里は冷蔵庫から牛乳パックを出し、零と自分のグラスにその白い液体をなみなみと注いだ。

 零は何も食べないが、牛乳なら飲める。

 それが最近わかったからだった。

「あわてる必要はないさ。外出はあまり好きじゃない」

 舌で牛乳を舐めながら、気のない口調で零が言う。

「でも、私は零とデートしたいな」

 グラスを傾け、一気に半分ほど飲み干す杏里。

「デート? 女同士でもデートっていえるのか?」

 零が真顔で訊き返す。

「好き合ってるなら、性別なんて関係ないんだよ」

 杏里は口を尖らせた。

「そうかな」

「そうだよ」

 零が見ているのは、ニュース番組だ。

 ちょうど、今日の事件が報道されているところである。

 画面には、鬼頭千佳の住んでいた木造アパートが大写しになっている。

「2件目なんだって?」

 零がテレビの画面から、杏里に目を戻した。

 零は不思議な目をしている。

 昼間は猫のように瞳孔が縦に細くなり、夜になると黒々と丸くなる。

 ただ、いずれにも共通しているのは、瞳の真ん中に針で突いたような赤い部分があることだ。

「そう。この前と同じ手口。被害者ははたちの女の子。密室状況の部屋の中で、また鋭利な刃物で子宮をえぐり取られてた。しかも、それだけじゃなくてね」

 今日起こった一連の出来事を、できるだけ詳しく話してやった。

 案の定、謎の男の登場場面で零の眼が光った。

「顔のない男…脱皮の跡…ウロボロスの祭壇…か。まず間違いない」

 聞き終えるなり、低い声でつぶやいた。

「それは、外道だ。私と同じ、淀みで生まれた者」

「外道?」

「人間の世界を仮に人道界とするなら、外道は外道界から現れる。まあ、普通の人間の眼には、その入り口は見えないが」

「同じ淀みで産まれたなら、零もその外道ってことになるの?」

「いや、私は邪道。だから故郷はおそらく邪道界」

「それ、ギャグのつもりで言ってるの?」

「違う。おまえたちの言葉を使えば、ガチで言ってることになる」

「ねえ、私、どうすればいい?」

 外道だか妖怪だか知らないが、そんなものに人間の刑事が勝てるのだろうか。

 杏里には、その思いが強かった。

「簡単なことだ」

 牛乳の残りを飲み干して、あっさりとした口調で零が言った。

「次に犯人と対峙する時には、この私を呼べばいい」




 





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