サイコパスハンター零

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
154 / 157
第6章 となりはだあれ?

#24 魔獣狩り⑫

しおりを挟む
 翌朝、7時30分。

 杏里は地下鉄大猫観音駅のホームの隅で、はち切れそうな胸を抱いて震えていた。

 よりよって、なんでこの服なの?

 私もう、24歳なんだよ…。

 杏里が身に着けているのは、ぱつんぱつんのセーラー服と、歩くだけで下着が見えそうなミニひだスカート。
 
 最後にこれを着たのはちょうど一年前。
 
 零と出会うきっかけになった、連続レイプ魔事件の囮捜査の時である。

 だが、きょうはレイプ魔をおびき出すための扮装ではない。

 零に言わせると、これは白拍子亜魅を盗撮しようとする盗撮マニアを、こっちに引きつける作戦なのだという。

 更にその上、杏里自身に盗撮魔になれという条件つきだった。

「一連の事件のきっかけが、尾上悠馬の盗撮だとすると、きっと亜魅の”起動スイッチ”みたいなものは、そこにあるはずだ。だから、もう一度彼女のスカートの中を写せば、きっと何かが起こる」

 ゆうべ、杏里にこのセーラー服を着せると、零はそう言ったものだ。

「なら、零がこれ着て彼女に近づけばいいじゃない。何も私じゃなくたって」

 そう口を尖らせて抵抗した杏里だったが、

「それはダメだ。それでは相手を警戒させてしまうだけだから」

 と、零は取り合わなかった。

「私だって、顔見られてるんだよ。条件的には、零と同じだと思うんだけどな」

「杏里の場合は、組みし易い相手と思われてるから、その点心配ないさ。事実あの身体検査の時、あまえは亜魅のフェロモンにくらっときてただろう。彼女はむしろ、おまえが興味を示して接近してくることを待ち望んでるんじゃないか。そんな気がするがな」

「くらっとなんか…」

 言いかけて、杏里は口をつぐんだ。

 これ以上、議論しても無駄だろう。

 かえって墓穴を掘るに決まっている。

 腕時計の針が、7時40分を指した時だった。

 柱の陰に身を潜めていた零が、

「来た」

 とつぶやいた。

 零は、1階上の改札口から続く下りエスカレーターのほうを見据えている。

 季節外れのトレンチコートの胸元から、戦闘服の木の葉模様がちらりと見えた。

 エスカレーターを降りてきたのは、ほとんどが制服姿の高校生だった。

 そのなかに、桜蘭女子の薄茶色のブレザーを見つけて、杏里はぎくりとなった。

 あの背の高さ。

 間違いない。白拍子亜魅だ。

 ホームに地下鉄が滑り込んできた。

 安全柵が開き、生徒たちが雪崩を打って乗り込んでいく。

 零の合図で、杏里も後に続いた。

 隣の車両に乗り込むと、人混みの間から零がささやきかけてきた。

「座っていないから、行きは大丈夫だろう」

 座っていないと大丈夫?

 杏里には、どういう意味かわからない。

「勝負は星が丘駅の上りエスカレーターだ。気合を入れて行け」
 
 それだけ言い残すと、零は元のように、人垣の中に溶け込んで見えなくなってしまった。


 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...