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第6章 となりはだあれ?
#24 魔獣狩り⑫
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翌朝、7時30分。
杏里は地下鉄大猫観音駅のホームの隅で、はち切れそうな胸を抱いて震えていた。
よりよって、なんでこの服なの?
私もう、24歳なんだよ…。
杏里が身に着けているのは、ぱつんぱつんのセーラー服と、歩くだけで下着が見えそうなミニひだスカート。
最後にこれを着たのはちょうど一年前。
零と出会うきっかけになった、連続レイプ魔事件の囮捜査の時である。
だが、きょうはレイプ魔をおびき出すための扮装ではない。
零に言わせると、これは白拍子亜魅を盗撮しようとする盗撮マニアを、こっちに引きつける作戦なのだという。
更にその上、杏里自身に盗撮魔になれという条件つきだった。
「一連の事件のきっかけが、尾上悠馬の盗撮だとすると、きっと亜魅の”起動スイッチ”みたいなものは、そこにあるはずだ。だから、もう一度彼女のスカートの中を写せば、きっと何かが起こる」
ゆうべ、杏里にこのセーラー服を着せると、零はそう言ったものだ。
「なら、零がこれ着て彼女に近づけばいいじゃない。何も私じゃなくたって」
そう口を尖らせて抵抗した杏里だったが、
「それはダメだ。それでは相手を警戒させてしまうだけだから」
と、零は取り合わなかった。
「私だって、顔見られてるんだよ。条件的には、零と同じだと思うんだけどな」
「杏里の場合は、組みし易い相手と思われてるから、その点心配ないさ。事実あの身体検査の時、あまえは亜魅のフェロモンにくらっときてただろう。彼女はむしろ、おまえが興味を示して接近してくることを待ち望んでるんじゃないか。そんな気がするがな」
「くらっとなんか…」
言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
これ以上、議論しても無駄だろう。
かえって墓穴を掘るに決まっている。
腕時計の針が、7時40分を指した時だった。
柱の陰に身を潜めていた零が、
「来た」
とつぶやいた。
零は、1階上の改札口から続く下りエスカレーターのほうを見据えている。
季節外れのトレンチコートの胸元から、戦闘服の木の葉模様がちらりと見えた。
エスカレーターを降りてきたのは、ほとんどが制服姿の高校生だった。
そのなかに、桜蘭女子の薄茶色のブレザーを見つけて、杏里はぎくりとなった。
あの背の高さ。
間違いない。白拍子亜魅だ。
ホームに地下鉄が滑り込んできた。
安全柵が開き、生徒たちが雪崩を打って乗り込んでいく。
零の合図で、杏里も後に続いた。
隣の車両に乗り込むと、人混みの間から零がささやきかけてきた。
「座っていないから、行きは大丈夫だろう」
座っていないと大丈夫?
杏里には、どういう意味かわからない。
「勝負は星が丘駅の上りエスカレーターだ。気合を入れて行け」
それだけ言い残すと、零は元のように、人垣の中に溶け込んで見えなくなってしまった。
杏里は地下鉄大猫観音駅のホームの隅で、はち切れそうな胸を抱いて震えていた。
よりよって、なんでこの服なの?
私もう、24歳なんだよ…。
杏里が身に着けているのは、ぱつんぱつんのセーラー服と、歩くだけで下着が見えそうなミニひだスカート。
最後にこれを着たのはちょうど一年前。
零と出会うきっかけになった、連続レイプ魔事件の囮捜査の時である。
だが、きょうはレイプ魔をおびき出すための扮装ではない。
零に言わせると、これは白拍子亜魅を盗撮しようとする盗撮マニアを、こっちに引きつける作戦なのだという。
更にその上、杏里自身に盗撮魔になれという条件つきだった。
「一連の事件のきっかけが、尾上悠馬の盗撮だとすると、きっと亜魅の”起動スイッチ”みたいなものは、そこにあるはずだ。だから、もう一度彼女のスカートの中を写せば、きっと何かが起こる」
ゆうべ、杏里にこのセーラー服を着せると、零はそう言ったものだ。
「なら、零がこれ着て彼女に近づけばいいじゃない。何も私じゃなくたって」
そう口を尖らせて抵抗した杏里だったが、
「それはダメだ。それでは相手を警戒させてしまうだけだから」
と、零は取り合わなかった。
「私だって、顔見られてるんだよ。条件的には、零と同じだと思うんだけどな」
「杏里の場合は、組みし易い相手と思われてるから、その点心配ないさ。事実あの身体検査の時、あまえは亜魅のフェロモンにくらっときてただろう。彼女はむしろ、おまえが興味を示して接近してくることを待ち望んでるんじゃないか。そんな気がするがな」
「くらっとなんか…」
言いかけて、杏里は口をつぐんだ。
これ以上、議論しても無駄だろう。
かえって墓穴を掘るに決まっている。
腕時計の針が、7時40分を指した時だった。
柱の陰に身を潜めていた零が、
「来た」
とつぶやいた。
零は、1階上の改札口から続く下りエスカレーターのほうを見据えている。
季節外れのトレンチコートの胸元から、戦闘服の木の葉模様がちらりと見えた。
エスカレーターを降りてきたのは、ほとんどが制服姿の高校生だった。
そのなかに、桜蘭女子の薄茶色のブレザーを見つけて、杏里はぎくりとなった。
あの背の高さ。
間違いない。白拍子亜魅だ。
ホームに地下鉄が滑り込んできた。
安全柵が開き、生徒たちが雪崩を打って乗り込んでいく。
零の合図で、杏里も後に続いた。
隣の車両に乗り込むと、人混みの間から零がささやきかけてきた。
「座っていないから、行きは大丈夫だろう」
座っていないと大丈夫?
杏里には、どういう意味かわからない。
「勝負は星が丘駅の上りエスカレーターだ。気合を入れて行け」
それだけ言い残すと、零は元のように、人垣の中に溶け込んで見えなくなってしまった。
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