152 / 157
第6章 となりはだあれ?
#22 魔獣狩り⑩
しおりを挟む
白拍子亜魅は、現段階では重要参考人でしかない。
帰宅を許された少女が、機捜隊員たちに保護されて駅長室を出ていくと、杏里は椅子にぐったり身を沈めた。
ほかの乗客たちも帰り、今ここに残っているのは、零と韮崎、杏里の3人だけである。
「すみません。本当は服も脱がせて、内腿に痣があるかどうか、確認したかったのですが…。どうもあの子、妙に迫力があって…」
ため息混じりに弁解すると、
「まあ、これまでの外道に比べると、ずいぶん魅力的な相手だったからな」
揶揄するような口ぶりで、零が茶々を入れてきた。
嫉妬?
ちっと零の様子をうかがってみたけれど、相変らずのポーカーフェイスで内心はつかめない。
「なんだ、その内腿の痣ってのは?」
「報告書にも書きましたけど」
どうせ読んでいないだろうと思い、杏里は韮崎相手に尾上悠馬の件を説明し直した。
「噛み子? ていうとなんだ? 笹原は、今度の事件もその高校生失踪事件と関係があると、そう言いたいわけか?」
ニコチンの切れてきた韮崎が不機嫌そうに訊き返す。
「ええ。星が丘駅の上りエスカレーターで消えた尾上悠馬、東山線の車両の中で下半身を食べられた安田邦彦、そして今回、地下鉄鶴舞線でミンチにされた身元不明のご老人…。みんな地下鉄つながりですし、後のふたつの事件は、尾上悠馬の失踪後に連続して起こっています」
「姉さんはどう思う?」
頭ごなしに否定せず、韮崎が傍らに立つ零に話を振ったのは、過去の苦い経験から学習したせいだろう。
「たぶん、杏里の推測通り。噛み子はあいつ、白拍子亜魅だよ。だいたい、あんな凄惨な現場の真っ只中に身を置きながら、彼女ひとり一滴の血も浴びていないというのは変だろう?」
腕組みして、にこりともせず、零が言う。
「なら、俺たちはどうすりゃいい? 容疑者がそんなバケモンとなると、もう警察の手には負えないぞ?」
「ふいを突くしかない」
「ふいを突く? なんだそれは?」
韮崎の問いに、零がテキパキと答えた。
「おっさんは、あの娘の通学経路を調べて、わかったら教えてくれ。連絡は、杏里の携帯に頼む。それから、明日、杏里を借りる。囮捜査官としての、笹原杏里をね」
「囮捜査? 今度は私に何をさせる気なの?」
突然の申し入れに、杏里はぱちぱち目をしばたたかせた。
「魔獣狩りの手伝いさ。心配は要らない。とどめはこの手で刺してやる」
瞳孔の中央の赤い輝点を杏里に向け、舌なめずりするような調子で零が言った。
帰宅を許された少女が、機捜隊員たちに保護されて駅長室を出ていくと、杏里は椅子にぐったり身を沈めた。
ほかの乗客たちも帰り、今ここに残っているのは、零と韮崎、杏里の3人だけである。
「すみません。本当は服も脱がせて、内腿に痣があるかどうか、確認したかったのですが…。どうもあの子、妙に迫力があって…」
ため息混じりに弁解すると、
「まあ、これまでの外道に比べると、ずいぶん魅力的な相手だったからな」
揶揄するような口ぶりで、零が茶々を入れてきた。
嫉妬?
ちっと零の様子をうかがってみたけれど、相変らずのポーカーフェイスで内心はつかめない。
「なんだ、その内腿の痣ってのは?」
「報告書にも書きましたけど」
どうせ読んでいないだろうと思い、杏里は韮崎相手に尾上悠馬の件を説明し直した。
「噛み子? ていうとなんだ? 笹原は、今度の事件もその高校生失踪事件と関係があると、そう言いたいわけか?」
ニコチンの切れてきた韮崎が不機嫌そうに訊き返す。
「ええ。星が丘駅の上りエスカレーターで消えた尾上悠馬、東山線の車両の中で下半身を食べられた安田邦彦、そして今回、地下鉄鶴舞線でミンチにされた身元不明のご老人…。みんな地下鉄つながりですし、後のふたつの事件は、尾上悠馬の失踪後に連続して起こっています」
「姉さんはどう思う?」
頭ごなしに否定せず、韮崎が傍らに立つ零に話を振ったのは、過去の苦い経験から学習したせいだろう。
「たぶん、杏里の推測通り。噛み子はあいつ、白拍子亜魅だよ。だいたい、あんな凄惨な現場の真っ只中に身を置きながら、彼女ひとり一滴の血も浴びていないというのは変だろう?」
腕組みして、にこりともせず、零が言う。
「なら、俺たちはどうすりゃいい? 容疑者がそんなバケモンとなると、もう警察の手には負えないぞ?」
「ふいを突くしかない」
「ふいを突く? なんだそれは?」
韮崎の問いに、零がテキパキと答えた。
「おっさんは、あの娘の通学経路を調べて、わかったら教えてくれ。連絡は、杏里の携帯に頼む。それから、明日、杏里を借りる。囮捜査官としての、笹原杏里をね」
「囮捜査? 今度は私に何をさせる気なの?」
突然の申し入れに、杏里はぱちぱち目をしばたたかせた。
「魔獣狩りの手伝いさ。心配は要らない。とどめはこの手で刺してやる」
瞳孔の中央の赤い輝点を杏里に向け、舌なめずりするような調子で零が言った。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる