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第6章 となりはだあれ?
#19 魔獣狩り⑦
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少女は、控室にポツンと置かれたパイプ椅子に、きちんと背を伸ばして腰かけていた。
体つきはスリムで、背が高そうだ。
少女は、白いブラウスの上から、薄茶色のブレザーを羽織っている。
プリーツスカートは腰の所で何重にも折ってあるのか、下着がみえそうなくらい短い。
「桜蘭女子…」
ブレザーの左胸に刺繍された桃のマークに気づき、杏里は小声でつぶやいた。
いつか野崎に教えてもらった通りの制服である。
これは偶然なのだろうか?
”噛み子”を盗撮して失踪したとされる、尾上悠馬。
彼が最後に盗撮した相手が、内腿に三日月形の痣を持つ、桜蘭女子高校の生徒だったのだ。
ということは、この子があの都市伝説の妖怪、”噛み子”?
確かにスカート丈は、盗撮魔好みの短さだ。
でも、都市伝説の妖怪が実在するだなんて、そんなことがあるだろうか?
部屋の各角には、物々しい制服に身を包んだ機動捜査隊の隊員たちが立っている。
折れそうなほど細い身体の少女ひとりを見張るには、大げさすぎる警戒ぶりだ。
手近な椅子を持ち出し、韮崎に続いて杏里が向かい側に座ると、少女が首をわずかに動かし、杏里を見た。
ヘアピンで七三に分けた前髪は長く、左目が隠れている。
ボブカットというより、日本人形のような髪型だ。
顔はひどく小さく、鼻筋は通り、膚がアラバスターのように白い。
「君、名まえは?」
「白拍子亜魅」
韮崎の問いに、胸の名札を指さして、少女が答えた。
「アミは、亜鉛の亜に、魅力の魅」
少しかすれた、ハスキーな声だった。
ペンネームみたい、と杏里は思った。
「桜蘭女子の生徒ね? 3年生かしら?」
落ち着き払った様子から見当をつけてそう訊ねると、
「ええ。3年1組。出席番号は13番」
少女が小さくうなずいた。
口元に、うっすらと笑みを浮かべている。
「一応、確認なんだが」
歯切れの悪い口調で、韮崎が切り出した。
どうやら少女の落ち着きぶりに圧倒されているらしい。
「君はその…被害者のすぐ隣に座っていたそうだね。あそこは優先席のはずだが、どうして…」
「ただ空いてたから」
打てば響くように、少女が答えた。
「いけませんか?」
「マナーがいいとは言えないわね」
「マナーですか?」
少女の口角が、わずかに吊り上がる。
「そんなもの、私には関係ないので」
壁にもたれていた零が口をはさんだのは、その時だった。
「それはおまえが”外道”だからか? いくら外道でも、満員電車の中で人を食うなんて、マナー違反も甚だしい」
体つきはスリムで、背が高そうだ。
少女は、白いブラウスの上から、薄茶色のブレザーを羽織っている。
プリーツスカートは腰の所で何重にも折ってあるのか、下着がみえそうなくらい短い。
「桜蘭女子…」
ブレザーの左胸に刺繍された桃のマークに気づき、杏里は小声でつぶやいた。
いつか野崎に教えてもらった通りの制服である。
これは偶然なのだろうか?
”噛み子”を盗撮して失踪したとされる、尾上悠馬。
彼が最後に盗撮した相手が、内腿に三日月形の痣を持つ、桜蘭女子高校の生徒だったのだ。
ということは、この子があの都市伝説の妖怪、”噛み子”?
確かにスカート丈は、盗撮魔好みの短さだ。
でも、都市伝説の妖怪が実在するだなんて、そんなことがあるだろうか?
部屋の各角には、物々しい制服に身を包んだ機動捜査隊の隊員たちが立っている。
折れそうなほど細い身体の少女ひとりを見張るには、大げさすぎる警戒ぶりだ。
手近な椅子を持ち出し、韮崎に続いて杏里が向かい側に座ると、少女が首をわずかに動かし、杏里を見た。
ヘアピンで七三に分けた前髪は長く、左目が隠れている。
ボブカットというより、日本人形のような髪型だ。
顔はひどく小さく、鼻筋は通り、膚がアラバスターのように白い。
「君、名まえは?」
「白拍子亜魅」
韮崎の問いに、胸の名札を指さして、少女が答えた。
「アミは、亜鉛の亜に、魅力の魅」
少しかすれた、ハスキーな声だった。
ペンネームみたい、と杏里は思った。
「桜蘭女子の生徒ね? 3年生かしら?」
落ち着き払った様子から見当をつけてそう訊ねると、
「ええ。3年1組。出席番号は13番」
少女が小さくうなずいた。
口元に、うっすらと笑みを浮かべている。
「一応、確認なんだが」
歯切れの悪い口調で、韮崎が切り出した。
どうやら少女の落ち着きぶりに圧倒されているらしい。
「君はその…被害者のすぐ隣に座っていたそうだね。あそこは優先席のはずだが、どうして…」
「ただ空いてたから」
打てば響くように、少女が答えた。
「いけませんか?」
「マナーがいいとは言えないわね」
「マナーですか?」
少女の口角が、わずかに吊り上がる。
「そんなもの、私には関係ないので」
壁にもたれていた零が口をはさんだのは、その時だった。
「それはおまえが”外道”だからか? いくら外道でも、満員電車の中で人を食うなんて、マナー違反も甚だしい」
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