サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第6章 となりはだあれ?

#14 魔獣狩り②

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 大猫観音の近くのコインパークに車を止める。
 地下鉄は全線止まっているようなので、仕方なく自家用車を出したのだ。
 杏里の軽から降りるなり、
「臭うな」
 零が筆で描いたような細い眉を吊り上げた。
 零はいつもの木の葉模様の”戦闘服”の上から、くるぶしまであるコートを着込んでいる。
 日光を防ぐためにサングラスをかけ、つば広の帽子を目深にかぶっているから、一歩間違えば不審者だ。
「臭う? なにが?」
 反射的に杏里は周囲を見回した。
 駐車場の向こうに寺社の本殿の屋根が見え、その前を横切る電線に大きな鴉が無数にとまっている。
 カアカア泣き交わす仔猫ほどもある黒い鳥は、獲物でも嗅ぎつけたのか、なんだか馬鹿に数が多い。
「決まってる。血の臭いさ」
 無愛想に零が答えた。
「流れたばかりのたくさんの血だ」
 地下鉄の駅の出入り口は、大通りに面していた。
 黄色い非常線が、通行客や野次馬をせき止めている。
 近づくと、案の定、舗道に高山がうずくまっていた。
 紙のように血の気の失せた顔で、はあはあ荒い息を吐いている。
 いつもの光景だ。
 刑事のくせに血に弱い高山は、現場に5分と居られないのだ。
「おはようございます。高山先輩」
 杏里が声をかけると、高山がのろのろと顔を上げた。
 顎に吐瀉物がこびりついたままで、今にも死にそうな眼をしている。
「ああ、杏里ちゃん。それに…零ちゃんも」
 馴れ馴れしく”ちゃん”付けされて、杏里の背後で零がぴくりと身を震わせるのがわかった。
 確かに、この妖怪じみた少女に、”零ちゃん”は似合わない。
「中の具合は? みんなもう来てますか?」
「野崎がまだだけど…三上さんたちはもう中だよ」
 んもう、野崎君ったら。
 杏里はむっとした。
 新人らしからぬあの遅刻魔め。
「でも…杏里ちゃん、悪いことは言わない。今度という今度は、マジで見ないほうがいい。あんな死体、刑事になって初めてだよ…いや、そもそもあれが死体と呼べるのかどうか…」
 また始まった。
 杏里は心の中で苦笑した。
 高山はいつもこうだ。
 毎回、現場に行く前に、杏里にそう警告してくれるのだ。
「私なら大丈夫です」
 ハンカチで高山の口の周りを拭い、杏里は言った。
「きょうは零もいるし、それに私、たいていのご遺体、慣れてますから」

 が、杏里はすぐに知ることになる。
 今回だけは、高山が正しかったということを…。
 
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