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第6章 となりはだあれ?
#13 魔獣狩り①
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鼓膜を素通りして、直接心に突き刺さるような音で目が覚めた。
アップテンポながら、哀愁を帯びたメロディーが、薄青い寝室の中に響き渡っている。
往年のホラー映画、『エクソシスト』のメインテーマだ。
確か、正式なタイトルは、チュブラーなんとかって、言ったっけ?
鳴っているのは、サイドテーブルに置いた杏里のスマートフォンだった。
少し前まで呼び出し音は景気づけに『アンパンマンのマーチ』にしてあったのだが、零がうるさがるので変えたのだ。
シーツの中で杏里は裸の零に抱きしめられている。
もちろん、杏里自身も全裸である。
吸血の儀式は性的興奮を伴うことがほとんどだ。
だからゆうべ零に血を分け与えた後、ふたりはごく自然に愛の行為になだれ込んでしまったというわけだった。
「誰よこんな朝っぱらから。まだ外暗いじゃん」
カーテン越しに見える青黒い空を見上げて杏里はぼやいた。
「こっちは1リットルほど血を吸われて、貧血気味なんだからね」
零の腕から抜け出し、右腕を伸ばしてスマホを手元に引き寄せる。
液晶画面に映っているのは、くわえ煙草のおっさんのシルエット。
韮崎からの通話を示すアイコンである。
嫌な予感に眠気が一気に吹き飛んだ。
「もしも…」
言いかけた杏里を、韮崎のだみ声が遮った。
「おう、笹原か。朝早く悪いが、出て来てくれ」
「えーっ、ということは、また事件ですか。まさか」
「そのまさかだ。今度はうちの管内だよ。地下鉄舞鶴線、大猫観音駅。タクシー使っていいから、すぐ来い」
「2件目の地下鉄の中の殺人…そういうことなんですね」
「ごちゃごちゃうるさいやつだな。細かいことは現場で話す。あんまり長く列車を止めておけないんだ。早くしろ」
「は、はい、ただ今」
スマホを置くと、上半身を起こした零がじっとこっちを見つめていた。
世界が暗いので、瞳は真ん丸だ。
だが、その中心には赤い点があり、よく見ると呼吸しているように規則正しく収縮を繰り返している。
「零の予言が当たったよ」
乱れた髪をかきあげて、杏里はため息をついた。
「また殺人事件だって。ニラさんの口ぶりからして、たぶんこの前のと同じっぽい」
「私も行こう」
先の割れた舌で乾いた上唇を舐め、零が言った。
「それはありがたいけど…でも、この月齢じゃ、昼間の外出はきついんじゃないの?」
韮崎は零のことをよく知っているし、一目置いてくれてもいる。
だから連れていくのは簡単だけど、今は彼女の体調のほうが心配だ。
バイオリズムの低下する月の後半になると、零は日光に当たるのをひどく嫌がるのが常なのだ。
「完全防備で行くし、ゆうべ杏里のエキスを飲んだから」
裸のまま、零がベッドから降り立った。
漆黒のストレートヘアが、小ぶりな乳房をかろうじて隠している。
「まあ、調子が悪くなったら、今晩も飲ませてもらうさ」
「きっつ」
杏里は頬を膨らます。
「それじゃ、今度は私が木乃伊になっちゃうよ」
アップテンポながら、哀愁を帯びたメロディーが、薄青い寝室の中に響き渡っている。
往年のホラー映画、『エクソシスト』のメインテーマだ。
確か、正式なタイトルは、チュブラーなんとかって、言ったっけ?
鳴っているのは、サイドテーブルに置いた杏里のスマートフォンだった。
少し前まで呼び出し音は景気づけに『アンパンマンのマーチ』にしてあったのだが、零がうるさがるので変えたのだ。
シーツの中で杏里は裸の零に抱きしめられている。
もちろん、杏里自身も全裸である。
吸血の儀式は性的興奮を伴うことがほとんどだ。
だからゆうべ零に血を分け与えた後、ふたりはごく自然に愛の行為になだれ込んでしまったというわけだった。
「誰よこんな朝っぱらから。まだ外暗いじゃん」
カーテン越しに見える青黒い空を見上げて杏里はぼやいた。
「こっちは1リットルほど血を吸われて、貧血気味なんだからね」
零の腕から抜け出し、右腕を伸ばしてスマホを手元に引き寄せる。
液晶画面に映っているのは、くわえ煙草のおっさんのシルエット。
韮崎からの通話を示すアイコンである。
嫌な予感に眠気が一気に吹き飛んだ。
「もしも…」
言いかけた杏里を、韮崎のだみ声が遮った。
「おう、笹原か。朝早く悪いが、出て来てくれ」
「えーっ、ということは、また事件ですか。まさか」
「そのまさかだ。今度はうちの管内だよ。地下鉄舞鶴線、大猫観音駅。タクシー使っていいから、すぐ来い」
「2件目の地下鉄の中の殺人…そういうことなんですね」
「ごちゃごちゃうるさいやつだな。細かいことは現場で話す。あんまり長く列車を止めておけないんだ。早くしろ」
「は、はい、ただ今」
スマホを置くと、上半身を起こした零がじっとこっちを見つめていた。
世界が暗いので、瞳は真ん丸だ。
だが、その中心には赤い点があり、よく見ると呼吸しているように規則正しく収縮を繰り返している。
「零の予言が当たったよ」
乱れた髪をかきあげて、杏里はため息をついた。
「また殺人事件だって。ニラさんの口ぶりからして、たぶんこの前のと同じっぽい」
「私も行こう」
先の割れた舌で乾いた上唇を舐め、零が言った。
「それはありがたいけど…でも、この月齢じゃ、昼間の外出はきついんじゃないの?」
韮崎は零のことをよく知っているし、一目置いてくれてもいる。
だから連れていくのは簡単だけど、今は彼女の体調のほうが心配だ。
バイオリズムの低下する月の後半になると、零は日光に当たるのをひどく嫌がるのが常なのだ。
「完全防備で行くし、ゆうべ杏里のエキスを飲んだから」
裸のまま、零がベッドから降り立った。
漆黒のストレートヘアが、小ぶりな乳房をかろうじて隠している。
「まあ、調子が悪くなったら、今晩も飲ませてもらうさ」
「きっつ」
杏里は頬を膨らます。
「それじゃ、今度は私が木乃伊になっちゃうよ」
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