サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第6章 となりはだあれ?

#12 都市伝説⑪

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 いったん署に戻り、韮崎にきょうの報告を済ませると、その足で杏里は帰路についた。

 家に帰ると、1階の薄暗い居間のソファに、しどけなく零が寝そべっていた。

 零は、白いレオタードのようなアンダーウェアをそのスリムな体に身につけているだけだった。

 その均整の取れた肢体が薄闇の中にぼうっと浮かび上がると、杏里は胸の高まりを覚えて思わず目を逸らした。

「何やってるの? そんな格好で」

 壁際の蛍光灯のスイッチを入れ、スプリングコートを脱いでクローゼットにかける。

 零が起き上がる気配がした。

 足音を忍ばせて、近づいてくる。

 麝香のような体臭が、かすかに匂った。

 今は月の後半である。

 この月齢だと、零のバイオリズムは低下する時期だ。

 その分、エネルギーを求めるようになるから、つまりはあんなエロチックな格好をして、零は杏里を誘っているというわけだ。

「喉が渇いた」

 案の定、後ろから杏里の首に両腕を回し、零が耳のすぐ近くでささやいた。

「待ってた。杏里が帰ってくるのを」

「はいはい、わかったから、そんなにがっつかないで」

 首筋に歯を立てようとする零を、杏里は両手で引きはがす。

「血はいくらでもあげる。でも、その前に話を聞いて。零の意見を聞かせてほしいの」

「また事件か」

「うん。何が起こってるのかわかんなくて、それで困ってるの」

「しょうがないな。話してみろ」

 ソファに戻ると、また元のように寝そべって、零が促した。

「満員電車の中で、人が死んだ。それも、何者かに下半身を食いちぎられて。その1か月前に、地下鉄のエスカレーターで、高校生が消えた。女の子のスカートの中を盗撮しようとして、その場にスマホと血痕を残して…。ねえ、これ、どう思う? このふたつの事件、つながってるのかな」

「それだけでは、何のことかわからない。もっと詳しく話してくれないと」

 長い髪をかき上げて、零が言う。

 丸かった瞳孔は、明かりがついたため、猫の眼みたいに縦に細くなっている。

「そうだね」

 杏里はため息をついた。

 頬を両手でぱちんと叩き、気合を入れ直すと、最初から話し始めた。
 
 きょうの捜査結果まで話しても、たいして時間はかからなかった。

 ほとんどなにもわかっていないからだった。

「噛み子の都市伝説か」

 聞き終えると、零がつぶやいた。

「案外、それがビンゴなのかもな」

「え? そこ? 零ったら、そこに注目するわけ?」

 あっけに取られ、杏里は目を見開いた。

 ”噛み子”なんて、高校生たちのネット上のジョークみたいなものかもしれないのに。

「その盗撮魔の行為が、魔物を呼び覚ましたのだとしたら? 野放しになった魔物が、今でも地下鉄の中をうろついてるとしたら? 事件はまだまだ起こる。そいつを捕まえない限りはね」


 

 
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