絶対絶命女子!

戸影絵麻

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#25

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 流伽は何を考えているのか、靴のつま先でしきりに土をほじくり返している。
 やがて、石ころみたいなものをつまみ上げると、虎一郎氏に見せて、こう言った。
「これ、種ですよね」
「ああ、発掘現場から、何千個と出てきたそうだ」
 うなずく虎一郎氏。
「ということは、黄泉平坂ですか」
「たぶん、な。ゾンビのことも、それで説明がつかないこともない」
「でも、黄泉平坂は、島根県にあるのでは?」
「民俗学、考古学を研究する者の立場から言わせてもらえば、異界とこの世の境界は何も一か所とは限らない。日本中にあってもおかしくはないさ」
「ですよね」
 流伽がゴーグルを額に上げた。
 丸眼鏡をかけた、意外に整った横顔が現れた。
 なぜだか妙に真剣な表情をしているようだ。
 それにしても、このふたりの謎めいた会話は何だろう?
 それに、なんだか変に親和してるみたいなこの雰囲気は何?
「うぎゃ」
 天草君が、蛙を踏んづけたような奇声を発したのは、そんなことを私が考えていた矢先である。
「誰か、助けて! 手をつかまれた!」
 振り向くと、天草君のアロハシャツが穴に消えかかっているのが見えた。
 玄室の中をのぞこうとして、何かにひっぱりこまれたような感じだった。
「はあ? 何やってんだよ、五郎ったら」
 天草君のベルトに手をかけようとした由羅が、その瞬間、
「う」
 と、喉を詰まらせた。
「やべえって。中に何かいる!」
「待って!」
 翔ちゃんが駆け寄った。
 由羅とふたりして、天草君の腰を引っ張った。
「うわああああっ!」
 悲鳴とともに転がり出てきた天草君の上に乗っかっているものを見て、私は絶句した。
 ただれた皮膚。
 毛髪の抜け落ちた頭。
 白濁した眼球。
 よだれをたらした口。
 間違いない。
 ゾンビだった。
 でも、どうしてか、警察官の服を着ている。
 マジ?
 うそでしょ?
 でも、背中に、SATって書いてあるし…。
 ゆらりと立ち上がったゾンビの前に、由羅が立ちふさがった。
 右手に何か嵌めている。
 通販ででも買ったのか、なんと鋼鉄のナックルだ。
「リベンジしてやるぜ」
 にたりと笑った。
 由羅は、自分にはハードボイルドが似合うと思い込んでいる。
「くらえ!」
 腰を溜め、次の瞬間、ナックルを嵌めた右のこぶしを振り抜いた。
 どす黒い血が飛び散り、ゾンビの左頬がこっそり削れて千切れ飛ぶ。
「由羅、さがって」
 翔ちゃんの声。
 由羅が飛び退ると、金属バットを構えた翔ちゃんが前に進み出る。
 そして、必殺、神スイング!
 下から斜め上へと軌道を描いたバットが、ゾンビの頭部を粉砕した。
 腐った脳漿やら血やらが飛び散り、ものすごい悪臭がたちこめた。
 翔ちゃんの行為が殺人ではないことは、この事実から見ても明らかだ。
 天草君を襲ったSAT隊員は、初めから死んでいたのに違いない。
「逃げるぞ! 退散だ!」
 虎一郎氏が叫ぶ。
 と、それを遮るように、流伽がつぶやいた。
「もう、手遅れかもです。私たち、囲まれています」
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