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「これは…ロイコですね」
翔ちゃんのスマホの画像を虫眼鏡で覗き込みながら、少女が言った。
牛乳瓶の底みたいな分厚い丸眼鏡をかけた、三つ編み女子である。
少女の名は、柊流伽。
この理科準備室に陣取る、生物部の部長だそうだ。
”ひいらぎるか”って名前の響きから、アニメチックな美少女を予想していたのだけれど、実物は、うーん。
なんていうか、ずいぶんとまた変人ぽい。
2年以上この学校に通って初めて知ったのだけど、理科準備室はカーテンで半分に仕切られ、奥が生物部の部室になっていた。
正面が厚いカーテンを引いた窓。
左右に水槽やガラス瓶を並べた棚がある。
水槽には、なんと、毛むくじゃらのタランチュラや物騒なサソリが入っていて、遊び半分で中をのぞいた私と由羅は危うく卒倒するところだった。
夏休みにもかかわらず、流伽がこうして”出勤”しているのは、生き物たちの世話をするためだという。
「ウィキの説明はこうです。『ロイコクロリディウム(学名:Leucochloridium)は吸虫の属の一つで寄生虫。レウコクロリディウムとも。カタツムリの触角に寄生してイモムシのように擬態し、だまされた鳥がこれを捕食し、鳥の体内で卵を産み、鳥の糞と共に卵が排出され、その糞をカタツムリが食べて再びカタツムリに侵入する』」
パソコンの画面に目を移し、立て板に水のよどみない口調で流伽が記事を読み上げた。
横からこわごわのぞくと、目玉の柄のところが異様に膨らんだカタツムリが映っていた。
うひゃ。
確かに私が踏んだナメクジとそっくりだ。
「これって、人にもうつるのかな?」
興味津々といった口ぶりで、翔ちゃんが訊く。
「まれにですが、海外ではそのような例も報告されているようです。ロイコに寄生されたカタツムリを食べた女性が、発病したのだとか」
「寄生されると、どうなるの?」
もう十分気味が悪いのに、翔ちゃんは追求の手を休めようとしない。
「カタツムリの場合、ロイコの都合のいいように脳をコントロールされることもあるようです。カタツムリはふつう、負の走行性を持っているのですけど、ロイコが寄生すると光を好むようになる。ロイコは明るい所にカタツムリをおびき出し、次の宿主である鳥に食べさせようとするわけですね」
「マジかよ」
吐き捨てるようにつぶやいたのは、退屈そうに壁にもたれていた由羅だった。
「じゃあ、やっぱりあのゾンビは…そいつの仕業だったってことなのか?」
「ゾンビ? ゾンビって何ですか?」
流伽が顔を上げた。
「な、なんでもねえよ」
そっぽを向く由羅に向かって、
「駄目です。教えなさい。ゾンビなんてそんな素敵な言葉、聞き捨てなりません」
あーあ。
私はこっそりため息をついた。
やっぱりこの子、変人だった。
そう確信したのだ。
「絵麻、話してあげて」
翔ちゃんが振ってきたので、仕方なく私は口を開いた。
「実はね。ゆうべのことなんだけど…」
翔ちゃんのスマホの画像を虫眼鏡で覗き込みながら、少女が言った。
牛乳瓶の底みたいな分厚い丸眼鏡をかけた、三つ編み女子である。
少女の名は、柊流伽。
この理科準備室に陣取る、生物部の部長だそうだ。
”ひいらぎるか”って名前の響きから、アニメチックな美少女を予想していたのだけれど、実物は、うーん。
なんていうか、ずいぶんとまた変人ぽい。
2年以上この学校に通って初めて知ったのだけど、理科準備室はカーテンで半分に仕切られ、奥が生物部の部室になっていた。
正面が厚いカーテンを引いた窓。
左右に水槽やガラス瓶を並べた棚がある。
水槽には、なんと、毛むくじゃらのタランチュラや物騒なサソリが入っていて、遊び半分で中をのぞいた私と由羅は危うく卒倒するところだった。
夏休みにもかかわらず、流伽がこうして”出勤”しているのは、生き物たちの世話をするためだという。
「ウィキの説明はこうです。『ロイコクロリディウム(学名:Leucochloridium)は吸虫の属の一つで寄生虫。レウコクロリディウムとも。カタツムリの触角に寄生してイモムシのように擬態し、だまされた鳥がこれを捕食し、鳥の体内で卵を産み、鳥の糞と共に卵が排出され、その糞をカタツムリが食べて再びカタツムリに侵入する』」
パソコンの画面に目を移し、立て板に水のよどみない口調で流伽が記事を読み上げた。
横からこわごわのぞくと、目玉の柄のところが異様に膨らんだカタツムリが映っていた。
うひゃ。
確かに私が踏んだナメクジとそっくりだ。
「これって、人にもうつるのかな?」
興味津々といった口ぶりで、翔ちゃんが訊く。
「まれにですが、海外ではそのような例も報告されているようです。ロイコに寄生されたカタツムリを食べた女性が、発病したのだとか」
「寄生されると、どうなるの?」
もう十分気味が悪いのに、翔ちゃんは追求の手を休めようとしない。
「カタツムリの場合、ロイコの都合のいいように脳をコントロールされることもあるようです。カタツムリはふつう、負の走行性を持っているのですけど、ロイコが寄生すると光を好むようになる。ロイコは明るい所にカタツムリをおびき出し、次の宿主である鳥に食べさせようとするわけですね」
「マジかよ」
吐き捨てるようにつぶやいたのは、退屈そうに壁にもたれていた由羅だった。
「じゃあ、やっぱりあのゾンビは…そいつの仕業だったってことなのか?」
「ゾンビ? ゾンビって何ですか?」
流伽が顔を上げた。
「な、なんでもねえよ」
そっぽを向く由羅に向かって、
「駄目です。教えなさい。ゾンビなんてそんな素敵な言葉、聞き捨てなりません」
あーあ。
私はこっそりため息をついた。
やっぱりこの子、変人だった。
そう確信したのだ。
「絵麻、話してあげて」
翔ちゃんが振ってきたので、仕方なく私は口を開いた。
「実はね。ゆうべのことなんだけど…」
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