絶対絶命女子!

戸影絵麻

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#14

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「これはやっぱり、ヒイラギちゃんの出番かな」
 テーブルに頬杖をついて、翔ちゃんがつぶやいた。
 私たちの前には、翔ちゃんのスマホ。
 画面に映っているのは、見るもおぞましい生き物だ。
 きのう森で私が踏んづけた、あの特大サイズのナメクジの画像である。
 翔ちゃんったら、いつのまにかそんな写真を撮っていたらしい。
「うげ、キモ。んなもん、早くしまえよ」
 ポテトをかじりかけ、由羅が嫌そうに太い眉をひそめて言った。
 ここは、学校のすぐ近くのハンバーガーショップ。
 翔ちゃんと由羅はさっき自己紹介を済ませていて、今は向かい合って座っている。
「あのゾンビ犬の脳にわいてた虫。それから、このナメクジの眼の柄の部分。どっちも同じ寄生虫じゃないかと思うの」
 じっと画像に目を落としたまま、翔ちゃんが静かな口調で言った。
「ね、よく見ると、似てるでしょ」
「そ、そうなのかな」
 私に訊いてるみたいなので、とりあえず、そんな要領の得ない返事をしておいた。
 だって、由羅じゃないけど、どっちもキモくてよく見てないから、そんなこと言われても、わかんないのだ。
「それときのうのゾンビと、どういう関係があるんだよ?」
 のんびりした翔ちゃんの言葉に、由羅がいらいらとかみついた。
「絵麻の話によると、コンビニに現れたそのゾンビおじさん、あのゾンビ犬にそっくりの症状だったっていうじゃない。つまり、ゾンビ化の原因は、この寄生虫。そういうことになるんじゃないかと思うわけ」
 鮮やかな推理だった。
 私や由羅みたいに、ただ騒いでいるだけではだめなのだ。
「つまり、あのゾンビは、元はと言えばふつうのおっさんで、その寄生虫とやらに取りつかれたから、あんなになったと、そう言いたいわけか?」
「まあね。問題は、感染経路。もし、私の推理通りなら、大変なことになる。村じゅう全部、ゾンビ化してもおかしくない」
「や、ヤバいこと言うなよ。マジで鳥肌立ってきた」
 由羅はますます不機嫌になる。
「それで、さっき言ってたヒイラギちゃんって、誰なの?」
 由羅が静かになったので、私は会話を引き継ぐことにした。
「柊流伽。私たちと同じ3年生。C組の生徒で、生物部の部長だよ」
「ひいらぎ、るか? 生物部? そんな部活、あったっけ?」
「あるよ。部員、4人しかいないけど」
 さすが翔ちゃん、帰宅部のくせに顔が広い。
「今日あたり、学校に来てるんじゃないかな。ね、行ってみようよ。生物部の部室。彼女なら、何かいいアドバイス、くれるかもしれないし」
「別にいいけど…由羅も一緒に、連れてくの?」
 由羅はバリバリ私服である。
 きょうは黒のタンクトップに黒のショートパンツ。
 色が違うだけで、夏はいつもこの格好だ。
「うん。どうせ幽霊顧問だから、平気だと思う。それにさ、私、ひとつすごく気になってることがあるんだ」
「何だよ?」
 自分のことらしいと気づいたのか、由羅が口をとがらせてつっかかる。
 優等生タイプの翔ちゃんに、要らぬ敵愾心を抱いているらしい。
 翔ちゃんは臆することなく由羅の浅黒い顔を正面から見据えると、静かな口調でこうたずねた。
「ねえ、榊さん、ゾンビに襲われたっていうのに、あなた、どうして助かったわけ?」
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