絶対絶命女子!

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
3 / 32

#2

しおりを挟む
 私が住んでいるのは、岐阜県加茂郡S町。
 人口2000人ほどの、村なのか町なのか微妙な、ささやかな集落だ。
 林業とお茶くらいしか産業はなく、町の大人たちはたいてい岐阜市か名古屋市に働きに出ている。
 とにかくまあ、ここは典型的な田舎であって、取り柄は川あり山ありと自然豊かなところぐらいだろうか。
 川は清流で鮎やヤマメが釣れるし、天然記念物のオオサンショウウオだっている。
 山には昔土葬だった頃の旧墓地というのがあって、夏祭りの際の肝試しにはもってこいである。
 でもって、私の名前は戸影絵麻。
 町立青葉台中学校の3年生だ。
 家は町の目抜き通りで唯一のコンビニをやっていて、蚤の夫婦の両親がいる。
 ちなみに翔ちゃんの名前は、矢守翔子。
 先月の初めに転校してきた文武両道の美少女だ。
 すっきりした顔立ちに知的なアクセントを添える縁なし眼鏡がよく似合っていて、身長は私より20センチは高い。
 だから最初、翔ちゃんは私にとって、高嶺の花であり、憧れの的だった。
 都会風の美少女、翔ちゃんは、転校早々、クラスの人気者の座をゲットしていたからである。
 まあ、いいや。見てるだけで幸せなんだし。
 だから、そんなふうに、はなっから彼女と友だちになることなど、諦めてた私だったのだけれどー。
 いやはや、人と人との出会いというのは、不思議なものだ。
 いつものように授業後、図書室にこもって、本を読んでいた時のこと。
「あ、いたいた。トカゲちゃん」
 急に声をかけられ、びっくりして顔を上げると、翔ちゃんが微笑んでいた。
「私、ヤモリ。よろしくね」
 つまり、こういうことだ。
 トカゲとヤモリ。
 翔ちゃんは、同類の苗字を見つけて、それで親近感を抱いてくれたというわけだ。

 ゾンビの話はどうなったのかって?
 もう少し、待ってほしい。
 物事には、順番ってものがある。
 それにさ。
 翔ちゃんがいなかったら、世界は今頃、きっとゾンビに占領されていたに違いないんだから。
 
しおりを挟む

処理中です...