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#5 暴かれる秘密
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「不倫」
短く、見晴が答えた。
家から歩いて30分のファミレスの片隅。
ハンバーグステーキ定食を食べ終えてご満悦の妹の気が変わらぬうちにと、問い詰めた結果がこの返事だった。
「おまえ、何もかもまずいとか言ってたろう? あれ、何のことだよ」
と、僕はたずねたのだ。
「詩帆さんね、3か月前からスーパーにパートで働きに出てたんだけど、そこの店長とできちゃって」
スプーンでパフェをかきまぜながら、見晴が続けた。
「帰りが遅い時があるから、おかしいなとは思ってたんだ。そしたら敬一郎が詩帆さんのスマホ見て」
「嘘だろ」
僕は一気に食欲をなくし、食べかけのハンバーグの横にフォークを投げ出した。
「食べないなら、それ、もらっていい?」
目ざとく見つけて見晴が訊く。
「いいけど、おまえ、欠食児童かよ」
「だって詩帆さん、ごはんつくってくれなくなっちゃったんだから、しょうがないじゃない。おととい、敬一郎にめちゃくちゃ殴られてさ、それ以来部屋から出てこない」
「マジか」
脳裏に、あの薄暗い部屋の様子がよみがえる。
「じゃ、ばあちゃんの食事とか、どうしてんだ」
「あたしがコンビニで買ってきた冷凍ごはん、チンしておかゆつくったげるとか、あとはカップ麺」
「見晴も女なら、もっとましな飯つくってやれよ」
「女とか関係ねーだろ? だったらサトル、作れよ」
「しかし…参ったな」
帰ったそうそうこれか。
道理で家の中が暗いと思った。
「このままじゃ、詩帆さん、殺されちゃうかも」
声のトーンを落として見晴が言った。
「敬一郎、ガチで激怒してるし、毎晩詩帆さんいじめてる」
見ると、大きな目が涙で潤んでいる。
「あたし、こんな生活、もうやだよ。サトルと一緒に出ていきたいよ」
「何言ってるんだ。俺んち、ワンルームマンションだし、第一、学校があるだろ?」
「学校なんてやめてやる。どうせ行っててもつまんないし、何の役にも立たないし」
見晴は小学生の頃から勉強嫌いだ。
だから実務を身につけようと商業高校を選んだはずなのに、それにももう飽きてしまったらしい。
「サトルが大学行ってる間にバイトして、あたしが家賃払うからさ。料理も勉強してできるようにする」
「待てよ。それより、義姉さんどうするんだよ」
「どうもなんないよ、今更」
見晴が睨んできた。
「そもそも、サトルが悪いんだろ? 勝手に家を出てっちゃうから」
う。
言葉に詰まった。
見晴はどこまで知っているのだろう。
僕と彼女の、あのことを。
「とにかく、あたしはもう決めた。サトルと一緒に家を出る。あとのことなんて知らない。ばあちゃんは、敬一郎が面倒見ればいいんだよ。自分の実の親なんだしさ」
ぺろりとスプーンを舐めて、真顔で見晴が言い切った。
「詩帆さんのことがそんなに心配なら、サトルがなんとかしてあげなよ。敬一郎に、殺される前にさ」
短く、見晴が答えた。
家から歩いて30分のファミレスの片隅。
ハンバーグステーキ定食を食べ終えてご満悦の妹の気が変わらぬうちにと、問い詰めた結果がこの返事だった。
「おまえ、何もかもまずいとか言ってたろう? あれ、何のことだよ」
と、僕はたずねたのだ。
「詩帆さんね、3か月前からスーパーにパートで働きに出てたんだけど、そこの店長とできちゃって」
スプーンでパフェをかきまぜながら、見晴が続けた。
「帰りが遅い時があるから、おかしいなとは思ってたんだ。そしたら敬一郎が詩帆さんのスマホ見て」
「嘘だろ」
僕は一気に食欲をなくし、食べかけのハンバーグの横にフォークを投げ出した。
「食べないなら、それ、もらっていい?」
目ざとく見つけて見晴が訊く。
「いいけど、おまえ、欠食児童かよ」
「だって詩帆さん、ごはんつくってくれなくなっちゃったんだから、しょうがないじゃない。おととい、敬一郎にめちゃくちゃ殴られてさ、それ以来部屋から出てこない」
「マジか」
脳裏に、あの薄暗い部屋の様子がよみがえる。
「じゃ、ばあちゃんの食事とか、どうしてんだ」
「あたしがコンビニで買ってきた冷凍ごはん、チンしておかゆつくったげるとか、あとはカップ麺」
「見晴も女なら、もっとましな飯つくってやれよ」
「女とか関係ねーだろ? だったらサトル、作れよ」
「しかし…参ったな」
帰ったそうそうこれか。
道理で家の中が暗いと思った。
「このままじゃ、詩帆さん、殺されちゃうかも」
声のトーンを落として見晴が言った。
「敬一郎、ガチで激怒してるし、毎晩詩帆さんいじめてる」
見ると、大きな目が涙で潤んでいる。
「あたし、こんな生活、もうやだよ。サトルと一緒に出ていきたいよ」
「何言ってるんだ。俺んち、ワンルームマンションだし、第一、学校があるだろ?」
「学校なんてやめてやる。どうせ行っててもつまんないし、何の役にも立たないし」
見晴は小学生の頃から勉強嫌いだ。
だから実務を身につけようと商業高校を選んだはずなのに、それにももう飽きてしまったらしい。
「サトルが大学行ってる間にバイトして、あたしが家賃払うからさ。料理も勉強してできるようにする」
「待てよ。それより、義姉さんどうするんだよ」
「どうもなんないよ、今更」
見晴が睨んできた。
「そもそも、サトルが悪いんだろ? 勝手に家を出てっちゃうから」
う。
言葉に詰まった。
見晴はどこまで知っているのだろう。
僕と彼女の、あのことを。
「とにかく、あたしはもう決めた。サトルと一緒に家を出る。あとのことなんて知らない。ばあちゃんは、敬一郎が面倒見ればいいんだよ。自分の実の親なんだしさ」
ぺろりとスプーンを舐めて、真顔で見晴が言い切った。
「詩帆さんのことがそんなに心配なら、サトルがなんとかしてあげなよ。敬一郎に、殺される前にさ」
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