夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
86 / 249
第5章 見えない侵略者

#3 いらいらアンアン

しおりを挟む
「ね? 荷物、どこに運べばいいかな?」
 我が物顔にずかずか上がり込んでくると、阿修羅が訊いた。 
「は?」
 僕は阿修羅の小麦色の顔を見つめた。
 何を言ってるんだ? こいつ。
 肩のところで軽くウェーブのかかった髪。
 長い睫毛に縁どられた、ぱっちりした大きな眼。
 こうして改めて正面から見ると、阿修羅は典型的な美少女だ。
 ワイルドが持ち味のアンアンとは一味違った趣がある。
「ここ、前は民宿だったのなら、いくらでもお部屋空いてるでしょ? 一ノ瀬君に聞いたよ」
「まあ、それはそうだけど…」
 一ノ瀬のやつ、また面倒を持ち込んだんじゃないだろうな。
 そう思いつつ、勢いに押されてつい答えてしまった。
「1階はアンアンが占拠してるからあれだけど、2階は俺が2部屋使ってるだけだから…」
「わかった。2階ね」
 うなずくと、外へ戻っていき、引っ越しのお兄さんたちにてきぱきと指示を出す阿修羅。
「なんでもいいから、2階の空いた部屋に上げといて。うん、空き部屋全部使ってもかまわないから」
「承知しました」
 廊下をかさばる家具がどんどん運ばれていく。
 ベッドもあれば、衣装ダンスもある。
「なんだこれは? どういうことだ?」
 さすがに腹に据えかねたのか、戻ってきた阿修羅をつかまえてアンアンが食ってかかった。
「見ればわかるでしょ? 引っ越しよ」
 ケロリとした顔で阿修羅が答えた。
「きょうから私もここにお世話になるの。いい加減、ネット喫茶巡りは飽きたんでね。だからさ、思い切って家具もいっぱい買っちゃった」
 こいつ、今までネット喫茶に寝泊まりしてたのか。
 それじゃ、まるでホームレスか難民じゃん。
「だけど、なんでよりによってここなんだよ」
 アンアンは明らかにイラついていた。
 こめかみに青筋を立てているところを見ると、怒り心頭まであと少しという感じである。
「それはね」
 突如として、阿修羅が意味ありげな視線を僕のほうに送ってきた。
「ダーリンと一緒に暮らしたいからよ」
「ダーリン?」
 アンアンが、阿修羅と僕を見比べた。
「元気、これはどういうことだ?」
 まずいぞ。 
 頬がひくひくしてる。
 これはまさか、ディメンション・クラッシュの前触れじゃ?
「何のことだか、わかんないって。なんで俺がダーリンなんだよ?」
 泡を喰って僕は抗議した。
 阿修羅のダーリン候補はアンアンのはずだ。
 なのにどうして意味深に僕に秋波を送ってくる?
「気が変わったの」
 阿修羅が殊勝な口ぶりで言った。
「私、アンアンはあきらめて、人間のお嫁さんになろうって、そう決心したの」
「はあ?」
 僕としては、はあ?としか言いようがない。
 おいおい。
 ついこの前、アンアンは私のもの、とか叫んでたじゃないか。
 あれはどうなったんだ?
「実を言うとね、もう魔界はこりごりなの。私もアンアンと同じ気持ち。これからは、人間界で静かに暮らしたい。その時、ふと閃いたんだ。私をもらってくれるのは、この山田元気君しかいないって」
 夢見るような瞳で阿修羅が僕を見た。
 な、なんだそれ。
 僕はよろよろと後じさった。
 どういう理屈だ。
 論理もへったくれもないじゃないか。
 まったくもって、意味不明だぞ。
「どう? うれしい?」
 阿修羅がにこっと笑って僕に言う。
「魔界きっての美少女ふたりに囲まれて生活できるのよ。これってちょっとしたハーレムじゃなくって?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

朝起きたら女体化してました

たいが
恋愛
主人公の早乙女駿、朝起きると体が... ⚠誤字脱字等、めちゃくちゃあります

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

処理中です...