夜通しアンアン

戸影絵麻

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第4章 海底原人

#4 アンアンと夏休み④

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 ダゴンというのは、アメリカの怪奇小説作家、HP.ラブクラフトの小説に出てくる邪神の名だ。
  僕の記憶が正しければ、『インスマウスの影』に登場したのではなかったか。
 ほかにもあるかもしれないけど、とりあえず僕が読んだのはそれだけだ。
「おまえ、ほんと、守備範囲、広いんだな」
 僕はあきれ返った。
 悪魔から妖怪、そして邪神と、まさになんでもござれ状態じゃないか。
「守備範囲って言うな」
 アンアンがむくれた。
「別にあたしが望んだわけじゃない。だいたい、親父があたしの15の誕生日を魔界中に発表するからいけないんだ。何万というビデオレターが届いて、王宮は大混乱さ。しかもみんなキモいのばかりときている。その中から親父が選んだのが、カロンをはじめとする6人というわけだ」
 なんだ。そのビデオレターというのは。
 魔界には今時、時代遅れのビデオデッキが普及しているってことか。
「それにしてもだな、ダゴンなんて、小説家の空想の産物じゃないのかよ」
「それがそうでもない」
 アンアンは僕を押しのけると、慣れた手つきでキーボードを操作し、得意のウィキを呼び出した。
「見ろ。元は古代メソポタミアの神と書いてある。悪魔学では堕天使にも分類されてるぞ。そのなんとかって作家は、そいつをもとにして小説にでっちあげたにすぎないのさ」
「まあ、そのダゴンが実在するとして、また返り討ちにしようって考えてるのか?」
「ああ。同じ魔界の魔人同士だから、処理は阿修羅に任せてもいいのだが、正直、あいつにあまり借りは作りたくないからな」
「借りが積もり積もると、そいつをカタに結婚を迫られるってか」
「あいつの考えそうなことさ」
 なるほど。
 阿修羅はそれで色々アンアンを手助けしてるってわけなのか。
 それは十分あり得る展開である。
「でもさ、阿修羅ならかわいいし、嫁になってやってもいいんじゃないの? 女の姿であのレベルなら、男になっても十分にイケメンのはずだろ?」
「おまえはあいつの第3の貌を知らないからそんなのんきなことが言えるんだ。チャラチャラしてるように見えるが、曲がりなりにもあれは帝釈天と互角の力を持つ破壊神だぞ。仏の顔も三度までということわざは、阿修羅のためにあるようなものなんだから」
 そうだった。
 阿修羅王は三面六臂の神なのだ。
 美少女の顔、美少年の顔の裏にもうひとつ、悪鬼みたいな顔が隠されていても不思議じゃない。





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