夜通しアンアン

戸影絵麻

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第2章 蠅の王

#10 アンアンと二人目の貴公子⑥

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 そういえば、アンアンのやつ、カロンの前でも僕をフィアンセに仕立て上げ、言い逃れしようとしてたっけ。

 まったく、政略結婚もいいところだ。

 ていうか、高1で結婚なんて、まず無理だし。

 それに、ただそれだけの理由で相手に選ばれるというのも、なんだかうれしくない。

「あのさ、たぶん、法律的に、それ、無理だから」

 アンアンの柔らかい体を押しのけると、にべもなく僕は言った。

「確か、結婚の条件って、男が18歳以上、女が16歳以上、未成年の場合は、双方の親の了承が必要とか、そんなんだったと思う。あ、もしかしたら、男女とも18歳以上に変わったんだっけかな」

「法律? 面倒だな。親の了承は尚更無理だぞ」

 アンアンが憮然とした顔になる。

「それにだ。結婚ってのは、根底にその、愛とか信頼とか、そういうものがあって初めて成り立つもんだろ? なんで押しかけ悪魔のおまえと俺が結婚しなきゃなんないんだよ?」

 すこしむっとして、僕も言い返した。

 アンアンは確かに可愛い。

 校内美少女コンテストを開催したら、ベスト3は確実だろう。

 水着審査があったら、まず1位は間違いない。

 しかも、どうやら僕より頭もいいらしいし、歌もダンスもうまい。

 さらに言えば、空間に穴を開けるほどのスーパーパワーの持ち主だ。

 でも、だからといって、それが恋人や嫁の条件としてどうかとなると、これはかなり疑問である。

 だいたい、釣り合わなさすぎる。

 僕はそれこそどこにでも遍在するアメーバのごとき高校生なのだ。

 特別取り柄もないし、ただ、やむを得ぬ事情でアンアンの家主になっているだけである。

 それに、本物の魔王を義理の父に持つというのは…これはある意味最悪だろう。

 なんならアンアンファンの一ノ瀬に、席をゆずってやりたいくらいである。

「じゃ、既成事実をつくるしかないか」

 巨乳の下で腕組みをして、アンアンがとんでもないことを言い始めた。

「おまえに処女を奪われたことにして、残りの貴公子たちのプロポーズをすべてキャンセルするのだ」

「え? アンアン、おまえ、その身体でまさか処女?」

「失礼な。私はまだ16だ。ヴァージンに決まっている」

 そうなのか。

 しかし、なんという官能的な処女なのだろう。

「ま、それはそれとしてだ。そんなことをしたら、おまえのとうちゃんに、俺が殺される。だから断る」

「大丈夫だ。レイプではなく、合意の上だと説明すれば」

「いや、でも、いやだ。親父さんがたとえ許しても、おまえの花婿候補たちが黙っていないだろう」

「それはそうだが、そこはあたしが守ってやるから」

「断るったら断る」

「なんならここでしてもいいんだぞ」

 アンアンがセーラー服に手をかけた。

 マジで脱ぐつもりらしい。

「馬鹿。こんなとこで裸になったら、警察呼ばれるって」

「むう」

 ファスナーを途中まで降ろした手を止めて、ふくれるアンアン。

「じゃあ、帰って家でする」

「しつこいな。そういう展開、俺は嫌なんだって」

「どうしてだ? 元気はあたしの体に興味ないのか? 体育の授業の時は、男子全員、先生も含めて、みんなあたしに釘付けだったのに」

「まあ、とにかく帰るぞ」

 僕はソファから腰を上げた。

「アンアン、悪いこと言わないから、夜風に当たって、少し頭、冷やすんだな」








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