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第6章 アンアン魔界行
#146 アンアンVS九頭竜④
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ぶざまな切り株と化し、動きを止めた九頭竜の胴体。
その前に立つと、その胴体の胸のあたりに右手を伸ばして美神が言った。
「だが、その前に、まずはおまえの素顔を拝ませてもらうとするか」
怪獣の胸に埋まった暗黒大皇帝の顔面を、いきなり5本の指で鷲づかみにした。
そして、いとも簡単に、その頭部を覆った兜をはぎとってしまった。
「や、やめろ」
その下から現れたのは、見るからに高貴そうな男の顔だった。
歳の頃は、人間でいえば40代前半ぐらいだろうか。
鋭い眼光。
高い鼻。
ナイアルラトホテップよりも威厳があり、カリスマ的なオーラが後光にようにその顔を取り巻いている。
「やっぱりおまえか。サタン、いや、ルシフェル。天界を追われ、魔界のどこかに堕ちて行方をくらましたと聞いたが、こんな辺鄙なところで陰謀を企てていたとは。大方、神々へのリベンジのつもりだろうが、懲りないやつだな」
「神々だと? 天界など今やもぬけのからだ。あの老人どもは、己のデータをエーテルに移し替えて、皆、永劫の眠りの最中だ。わしは、あの馬鹿どもの代わりに全世界を救済するのだ。そのための大召喚を、なぜおまえは邪魔しようとする?」
眉間に縦じわを寄せ、深刻な面持ちでイケメン貴族が言った。
あれがサタン?
なるほど、もと神にして、魔族の頂点に立つ者というわけか。
それにしても、神様が天界からいなくなってしまったら、あまたある宗教はいったいどうなってしまうのだろう?
「神々がエーテルのデータに? まあ、それはありえるかもな」
美神は笑ったようだった。
「あのこすっからい爺様たちのことだ。長生きしすぎて、いい加減老後をのんびり過ごしたくなったのだろうよ」
「魔界も、人間界も、混乱したままだというのにか? 無責任にもほどがある」
どうやらあのサタン、相当、血の気の多い勇者タイプらしい。
話を聞いていると、なんだかあんまり悪いやつじゃないような気がしてきたから、不思議なものだ。
「どっちにしても、九頭竜など召喚して何になる? 破壊することが、世界の改革につながる。今更そんな手あかのついたお題目でも唱えるつもりか? 人間界にあふれる陳腐なアニメやゲームやラノベじゃあるまいし」
「わかっていないのは、おまえたちのほうだ」
むっとした顔で、サタンが言った。
「この九頭竜は、まだ中間過程にすぎぬ。本当の召喚はこれから始まるのだ。悪いことは言わない。下がって、見ているがいい。全世界を救う、究極召喚を」
「うは、まだ何かあるのかよ?」
一ノ瀬がぼやいた。
「やヴぁいですね。いよいよこれの出番でしょうか」
玉が背中の楽器ケースを叩いてみせる。
「もう少し、お手並み拝見といきましょうか」
邪神が笑った。
「これでおしまいでは、面白くもなんともないですからね」
その前に立つと、その胴体の胸のあたりに右手を伸ばして美神が言った。
「だが、その前に、まずはおまえの素顔を拝ませてもらうとするか」
怪獣の胸に埋まった暗黒大皇帝の顔面を、いきなり5本の指で鷲づかみにした。
そして、いとも簡単に、その頭部を覆った兜をはぎとってしまった。
「や、やめろ」
その下から現れたのは、見るからに高貴そうな男の顔だった。
歳の頃は、人間でいえば40代前半ぐらいだろうか。
鋭い眼光。
高い鼻。
ナイアルラトホテップよりも威厳があり、カリスマ的なオーラが後光にようにその顔を取り巻いている。
「やっぱりおまえか。サタン、いや、ルシフェル。天界を追われ、魔界のどこかに堕ちて行方をくらましたと聞いたが、こんな辺鄙なところで陰謀を企てていたとは。大方、神々へのリベンジのつもりだろうが、懲りないやつだな」
「神々だと? 天界など今やもぬけのからだ。あの老人どもは、己のデータをエーテルに移し替えて、皆、永劫の眠りの最中だ。わしは、あの馬鹿どもの代わりに全世界を救済するのだ。そのための大召喚を、なぜおまえは邪魔しようとする?」
眉間に縦じわを寄せ、深刻な面持ちでイケメン貴族が言った。
あれがサタン?
なるほど、もと神にして、魔族の頂点に立つ者というわけか。
それにしても、神様が天界からいなくなってしまったら、あまたある宗教はいったいどうなってしまうのだろう?
「神々がエーテルのデータに? まあ、それはありえるかもな」
美神は笑ったようだった。
「あのこすっからい爺様たちのことだ。長生きしすぎて、いい加減老後をのんびり過ごしたくなったのだろうよ」
「魔界も、人間界も、混乱したままだというのにか? 無責任にもほどがある」
どうやらあのサタン、相当、血の気の多い勇者タイプらしい。
話を聞いていると、なんだかあんまり悪いやつじゃないような気がしてきたから、不思議なものだ。
「どっちにしても、九頭竜など召喚して何になる? 破壊することが、世界の改革につながる。今更そんな手あかのついたお題目でも唱えるつもりか? 人間界にあふれる陳腐なアニメやゲームやラノベじゃあるまいし」
「わかっていないのは、おまえたちのほうだ」
むっとした顔で、サタンが言った。
「この九頭竜は、まだ中間過程にすぎぬ。本当の召喚はこれから始まるのだ。悪いことは言わない。下がって、見ているがいい。全世界を救う、究極召喚を」
「うは、まだ何かあるのかよ?」
一ノ瀬がぼやいた。
「やヴぁいですね。いよいよこれの出番でしょうか」
玉が背中の楽器ケースを叩いてみせる。
「もう少し、お手並み拝見といきましょうか」
邪神が笑った。
「これでおしまいでは、面白くもなんともないですからね」
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