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第6章 アンアン魔界行
#136 アンアン、死す③
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「無理しないで!」
その声に、ぎりぎりのところでアンアンが跳ね起きた。
とっさに横転して、ロープ際に手を伸ばす。
前鬼のこん棒がマットを叩くのと、アンアンの手がロープの間から突き出した阿修羅の手に触れるのとが、ほとんど同時だった。
「きっさまあ!」
阿修羅がロープを飛び越え、飛び出した。
阿修羅は、小麦色の肌に白いブラとショーツだけという、色眼鏡で見なければ極めて活動的な格好である。
天高く舞い上がると、十分に腰をひねって、例の鞭を素早く繰り出した。
腕力ではアンアンに劣るものの、阿修羅の利点はこの鞭による遠隔攻撃だ。
しかもどういう仕組みなのか、阿修羅の鞭は当たったものをことごとく切り裂いてしまうのだ。
その鞭が一条の光のように伸び、前鬼の手首に巻きついた。
「かかった!」
阿修羅が力任せに鞭を引く。
ずるり。
前鬼の太い手首がずれ、次の瞬間、こん棒の重みで、血しぶきを上げてマットの上に落下した。
「すごいです…」
僕の隣で玉が感嘆の声を漏らした。
「さすが阿修羅さま。玉のご主人だけのことはありますね」
「おそらくあれは、単分子チェーン。鞭の幅が分子ひとつ分しかないために、どんなものにでも食い込んで切断してしまうと、つまりはそういうわけですね」
したり顔で、ナイアルラトホテップが解説する。
なるほど、邪神だけあって、観察力の鋭さは僕ら人間以上というわけか。
鞭を活かした阿修羅の攻撃は続いていた。
空中から次々に繰り出される鞭をよけきれず、そのうちに盾を持った前鬼の左手首も吹っ飛んだ。
これで敵は丸腰である。
もう、阿修羅の勝利は決まったようなものだ。
「死ね!」
リングの上に舞い降りると、前鬼の前に仁王立ちになり、阿修羅が両手で鞭を振り上げた。
予想外の事態が起こったのは、その時だ。
手首から先のなくなった2本の腕を、前鬼が阿修羅に向けて突き出した。
「な、なに?」
鞭を振り上げたまま、阿修羅が硬直するのがわかった。
「ば、バカな」
一ノ瀬がうめいた。
「そんな…信じられません」
玉が泣きそうな声を出す。
「あの前鬼は、いやしくも昨年度の魔界格闘技選手権の王者のひとり。やはり、そんなにた易く倒せる相手ではないということですね」
邪神が嘆息混じりにそう言った。
起こったのは、こんな事態である。
切断された前鬼の手首。
その断面から、突如として鉤爪のついた長い鎖が射出され、あっという間に阿修羅の首に巻きついたのだ。
ちぎれそうになるくらい首を締め上げられ、阿修羅の手から鞭が離れた。
前鬼はそんな阿修羅をじりじりと自分のほうへと引き寄せていく。
「阿修羅! どうした! 大丈夫か?」
リングの外からアンアンが叫んだ。
「だ、だい、じょうぶ、じゃ、ない、みたい…」
阿修羅の美少女フェイスが苦しげに歪んだ。
充分引きつけておいて、前鬼が鉤爪で阿修羅の顔を両側からがっしりとつかむ。
グギッ。
いやな音がした。
前鬼にねじり上げられ、阿修羅の首がゆっくりと回転し始めた。
「ま、まずいですぅ!」
玉が悲鳴を上げた。
「もう、激やばですぅ!」
「どうした? 玉ちゃん!」
一ノ瀬が玉を振り返る。
「だって、見てください!」
玉が阿修羅を指差した。
「あ、阿修羅様が、ああああああっ!」
その声に、ぎりぎりのところでアンアンが跳ね起きた。
とっさに横転して、ロープ際に手を伸ばす。
前鬼のこん棒がマットを叩くのと、アンアンの手がロープの間から突き出した阿修羅の手に触れるのとが、ほとんど同時だった。
「きっさまあ!」
阿修羅がロープを飛び越え、飛び出した。
阿修羅は、小麦色の肌に白いブラとショーツだけという、色眼鏡で見なければ極めて活動的な格好である。
天高く舞い上がると、十分に腰をひねって、例の鞭を素早く繰り出した。
腕力ではアンアンに劣るものの、阿修羅の利点はこの鞭による遠隔攻撃だ。
しかもどういう仕組みなのか、阿修羅の鞭は当たったものをことごとく切り裂いてしまうのだ。
その鞭が一条の光のように伸び、前鬼の手首に巻きついた。
「かかった!」
阿修羅が力任せに鞭を引く。
ずるり。
前鬼の太い手首がずれ、次の瞬間、こん棒の重みで、血しぶきを上げてマットの上に落下した。
「すごいです…」
僕の隣で玉が感嘆の声を漏らした。
「さすが阿修羅さま。玉のご主人だけのことはありますね」
「おそらくあれは、単分子チェーン。鞭の幅が分子ひとつ分しかないために、どんなものにでも食い込んで切断してしまうと、つまりはそういうわけですね」
したり顔で、ナイアルラトホテップが解説する。
なるほど、邪神だけあって、観察力の鋭さは僕ら人間以上というわけか。
鞭を活かした阿修羅の攻撃は続いていた。
空中から次々に繰り出される鞭をよけきれず、そのうちに盾を持った前鬼の左手首も吹っ飛んだ。
これで敵は丸腰である。
もう、阿修羅の勝利は決まったようなものだ。
「死ね!」
リングの上に舞い降りると、前鬼の前に仁王立ちになり、阿修羅が両手で鞭を振り上げた。
予想外の事態が起こったのは、その時だ。
手首から先のなくなった2本の腕を、前鬼が阿修羅に向けて突き出した。
「な、なに?」
鞭を振り上げたまま、阿修羅が硬直するのがわかった。
「ば、バカな」
一ノ瀬がうめいた。
「そんな…信じられません」
玉が泣きそうな声を出す。
「あの前鬼は、いやしくも昨年度の魔界格闘技選手権の王者のひとり。やはり、そんなにた易く倒せる相手ではないということですね」
邪神が嘆息混じりにそう言った。
起こったのは、こんな事態である。
切断された前鬼の手首。
その断面から、突如として鉤爪のついた長い鎖が射出され、あっという間に阿修羅の首に巻きついたのだ。
ちぎれそうになるくらい首を締め上げられ、阿修羅の手から鞭が離れた。
前鬼はそんな阿修羅をじりじりと自分のほうへと引き寄せていく。
「阿修羅! どうした! 大丈夫か?」
リングの外からアンアンが叫んだ。
「だ、だい、じょうぶ、じゃ、ない、みたい…」
阿修羅の美少女フェイスが苦しげに歪んだ。
充分引きつけておいて、前鬼が鉤爪で阿修羅の顔を両側からがっしりとつかむ。
グギッ。
いやな音がした。
前鬼にねじり上げられ、阿修羅の首がゆっくりと回転し始めた。
「ま、まずいですぅ!」
玉が悲鳴を上げた。
「もう、激やばですぅ!」
「どうした? 玉ちゃん!」
一ノ瀬が玉を振り返る。
「だって、見てください!」
玉が阿修羅を指差した。
「あ、阿修羅様が、ああああああっ!」
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