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第6章 アンアン魔界行
#113 アンアン、地獄をめくる⑧
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ふたりの獄卒に両側から抱え上げられ、運び去られる一ノ瀬。
だが、アンアンも阿修羅も、それには我関せずといったふうで、あたりをきょろきょろ見回すばかりである。
「あのう、助けてやんないの? 一ノ瀬、連れて行かれちゃったけど」
ふたりがあんまり無関心なので、控えめにそう声をかけると、
「今はそれどころじゃない。次の蜘蛛の糸を探さないと」
アンアンがにべもない返事を返してきた。
なるほど、僕らが下りてきた蜘蛛の糸は、途中で切れてしまったものの、ここで行き止まりである。
地面に井戸も穴もないところからすると、どうやら別の場所に下へ降りる井戸か穴があるのに違いない。
「イオンのエスカレーターみたいなもんだね」
阿修羅が妙なものを引き合いに出す。
「ほら、イオンのエスカレーターってさ、いっぺんに下まで降りられないじゃん。しばらく店内を歩き回らないと、次の下りエレベーターにたどり着けない構造になってるでしょ」
「あわよくば、歩いている間に商品を見せて購買欲をそそり、売り上げを増やそうという魂胆ですね」
玉が真面目な顔でうなずいてるけど、ここはイオンじゃない。
地獄なんだぞ、ふたりとも。
「そんなものを探すより、地面に穴を開けたほうが早いのでは?」
しごくまっとうなことをのたまわったのは、ナイアルラトホテップである。
「6人がぶら下がれば、どうせ糸はさっきみたいに途中で切れてしまいます。ならば、穴を開けて飛び降りたほうが早いかと」
「さっすがタキシード仮面さま! ですよね。だって、落ちてもたいして痛くなかったですものね」
玉がうっとりと胸の前で手を組み合わせた。
「まあ、地獄ってところは苦痛を長引かせるのが第一の目的なんで、高い所から落ちたくらいじゃ、死なせてくれないのよね」
そうぼやいて、肩をすくめる阿修羅。
「いい考えだと思うが、そんなこと、できるのか?」
地面をこぶしでこんこんと叩き、アンアンが言った。
その疑問も、無理はない。
こ黒縄地獄の大地は、一面、鉄板に覆われているのである。
「なんのこれしき。私の暗黒魔法にかかれば、朝飯前です」
ナイアルラトホテップが自慢げに言い、杖の先で鉄板の上に大きな円を描き始めた。
「魔法陣が完成するまで、しばしお待ちを。その間に暇つぶしついでに、お仲間を助けに行かれたらいかがかな」
「そっか、忘れてた」
阿修羅がてへっと舌を出す。
「あー、一ノ瀬君なら、あそこです。ちょうど、綱渡りの最中みたいですよぉ」
玉の指し示す先に、一ノ瀬はいた。
へっぴり腰で、でかい大釜の上に張り巡らされたロープの上を、よろめきながら歩いている。
その様子をそばで見守っているのは、頭抜けて体格のいい獄卒だ。
身長は5メートルはありそうで、頭は雄牛ではなく、馬である。
「むん、やっかいな見張りがついてるね」
阿修羅がうんざりしたようにつぶやいた。
「あいつは、この黒縄地獄の主。黒縄馬頭観音だよ。閻魔大王直属の、地獄四天王のひとりだね」
「つまり、そいつを倒さないと、蚊トンボは助けられないというわけか」
眼を光らせるアンアン。
「てことになるよね。彼を置いてくなら話は別だけど」
「多数決で決めるか」
「おいおい」
見かねて僕は間に入った。
「そんなこと言わないで、助けてやってくれよ。あれでも俺の、数少ない友だちなんだからさ」
だが、アンアンも阿修羅も、それには我関せずといったふうで、あたりをきょろきょろ見回すばかりである。
「あのう、助けてやんないの? 一ノ瀬、連れて行かれちゃったけど」
ふたりがあんまり無関心なので、控えめにそう声をかけると、
「今はそれどころじゃない。次の蜘蛛の糸を探さないと」
アンアンがにべもない返事を返してきた。
なるほど、僕らが下りてきた蜘蛛の糸は、途中で切れてしまったものの、ここで行き止まりである。
地面に井戸も穴もないところからすると、どうやら別の場所に下へ降りる井戸か穴があるのに違いない。
「イオンのエスカレーターみたいなもんだね」
阿修羅が妙なものを引き合いに出す。
「ほら、イオンのエスカレーターってさ、いっぺんに下まで降りられないじゃん。しばらく店内を歩き回らないと、次の下りエレベーターにたどり着けない構造になってるでしょ」
「あわよくば、歩いている間に商品を見せて購買欲をそそり、売り上げを増やそうという魂胆ですね」
玉が真面目な顔でうなずいてるけど、ここはイオンじゃない。
地獄なんだぞ、ふたりとも。
「そんなものを探すより、地面に穴を開けたほうが早いのでは?」
しごくまっとうなことをのたまわったのは、ナイアルラトホテップである。
「6人がぶら下がれば、どうせ糸はさっきみたいに途中で切れてしまいます。ならば、穴を開けて飛び降りたほうが早いかと」
「さっすがタキシード仮面さま! ですよね。だって、落ちてもたいして痛くなかったですものね」
玉がうっとりと胸の前で手を組み合わせた。
「まあ、地獄ってところは苦痛を長引かせるのが第一の目的なんで、高い所から落ちたくらいじゃ、死なせてくれないのよね」
そうぼやいて、肩をすくめる阿修羅。
「いい考えだと思うが、そんなこと、できるのか?」
地面をこぶしでこんこんと叩き、アンアンが言った。
その疑問も、無理はない。
こ黒縄地獄の大地は、一面、鉄板に覆われているのである。
「なんのこれしき。私の暗黒魔法にかかれば、朝飯前です」
ナイアルラトホテップが自慢げに言い、杖の先で鉄板の上に大きな円を描き始めた。
「魔法陣が完成するまで、しばしお待ちを。その間に暇つぶしついでに、お仲間を助けに行かれたらいかがかな」
「そっか、忘れてた」
阿修羅がてへっと舌を出す。
「あー、一ノ瀬君なら、あそこです。ちょうど、綱渡りの最中みたいですよぉ」
玉の指し示す先に、一ノ瀬はいた。
へっぴり腰で、でかい大釜の上に張り巡らされたロープの上を、よろめきながら歩いている。
その様子をそばで見守っているのは、頭抜けて体格のいい獄卒だ。
身長は5メートルはありそうで、頭は雄牛ではなく、馬である。
「むん、やっかいな見張りがついてるね」
阿修羅がうんざりしたようにつぶやいた。
「あいつは、この黒縄地獄の主。黒縄馬頭観音だよ。閻魔大王直属の、地獄四天王のひとりだね」
「つまり、そいつを倒さないと、蚊トンボは助けられないというわけか」
眼を光らせるアンアン。
「てことになるよね。彼を置いてくなら話は別だけど」
「多数決で決めるか」
「おいおい」
見かねて僕は間に入った。
「そんなこと言わないで、助けてやってくれよ。あれでも俺の、数少ない友だちなんだからさ」
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