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第6章 アンアン魔界行
#82 アンアン、地底軍艦に乗る⑭
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「それがそうでもないんですよ」
こんな時、余裕をかませるのは、TPO無視の特性を持つ、玉である。
「あと50メートルも進めば、おそらく私たちは、間違いなくメデューサのバトルフィールドに足を踏み入れてしまうでしょう。ですから、その前に、ここで戦略を立てるための、勉強会を開くことを、おすすめします」
「勉強はあんまり好きじゃないんだけどなあ」
一ノ瀬がぼやいたけど、とりあう者はもちろん誰もいない。
「いいぞ。始めてくれ」
玉を真ん中に、メンバーが車座に座るのを見届けると、アンアンが促した。
「では、始めさせていただきます」
玉が得意げに薄い胸を張った。
「まず、メデューサの正体ですが、これはギリシャ神話に登場する女の怪物です。髪の毛は蛇、胴体はイノシシ、下半身は大蛇、背中に金色の翼が生えていると言われています。彼女の家族構成や出自は、この際説明が煩雑になるので省略しますね。大切なのは次の一点、すなわちメデューサの能力についてです。宝石のように輝く彼女の眼は、先ほども少し触れたように、見るものをすべて石に変えてしまうのです。この攻撃をどうかわすか、それが今回のバトルのキーポイントになるというわけですね」
「えーと確か、ギリシャ神話では、英雄ペルセウスがそのメデューサの首を魔剣で斬り落として、退治したんだったよな」
以前見たハリウッド映画のストーリーを思い出して、僕は言った。
「磨いた盾を鏡代わりにして、メデューサに接近したんじゃなかったっけ」
「そうです。その通りです。さすが元気くん。よく勉強してますね」
わが意を得たりとばかりに、玉がうなずいた。
いや、そうじゃなくて、僕はただ、映画を見ただけなんだけど。
「てことは何か? メデューサの眼っていうのは、直接見なければ石化の呪いにかからないというわけなのか?」
アンアンが身を乗り出したため、ハイレグアーマーの胸当て部分から、たわわな果実がこぼれ出しそうになった。
「はい、伝説の通りだと、そういうことになりますね」
「鏡かあ。スマホケースについてたけど、アトラクション会場で、スマホごと落としちゃったからなあ。アンアンは、鏡持ってるの?」
阿修羅が無念そうに言い、アンアンを見た。
「このかっこうのどこにそんなもの、隠せると思う?」
裸同然のアンアンが、憮然とした顔で言い返す。
「別に鏡じゃなくてもいいと思うのです」
そこにすかさず玉が口をはさんだ。
「要は、メデューサの眼光を、直接受けなければよいのです。ということは、それは例えば、ガラスなどを通してメデューサの眼を見る、という方法でも、クリアできるのではないでしょうか」
「ガラスを通す? あ、眼鏡か」
一ノ瀬が、玉の丸眼鏡を指さした。
「はい、そういうことですね。だから私はたぶん大丈夫なのです。それから元気君と一ノ瀬君も、武器庫から持ってきたスパイグッズの万能傘には、照準用の窓がついているはずですから、それを使えば平気なはずです。だから、今回は、私と男子ふたりで、メデューサに挑むのがベストでないかと思います」
玉が自信満々に言い切ると、一ノ瀬の顔からすっと血の気が引いていった。
「お、俺たち3人で? そ、それ、マジすか?」
「いい案かもしれないね。わたしとアンアンは、ここで少し休憩させてもらうってのも」
と、うなずく阿修羅。
「まあ、あたしとしても、石にはなりたくないからな」
頼みの綱のアンアンも、阿修羅に同調する気らしかった。
「幸い、メデューサの石化攻撃は、範囲ではなく、単体です。だから、視野から外れた位置にいれば、アンアンも阿修羅様も攻撃を受けることはありません」
「で、でも、やっぱりそれ、考え直したほうがいいんじゃ…」
今にも逃げ出しそうに腰を浮かせて、一ノ瀬が抗議した。
僕としても、もちろん同感である。
これまでの3回戦、僕は1度もバトルに参加していないのだ。
その分、小便でゴーレムを倒した一ノ瀬のほうが、まだマシだといっていいぐらいだろう。
とにかく、いくら玉がいるとはいえ、アンアンと阿修羅抜きで、伝説の魔物に勝てるとはとても思えない。
「大丈夫ですって。玉のとふたりの合わせれば、サブマシンガンが4丁、ミサイルが1発あるんですよ。火力としては申し分ないはずです」
どうしてそんなに肝っ玉が据わっているのか、玉は一歩も後に引こうとしない。
「決まりだね」
阿修羅が言った。
「決まりだな」
腕組みして、アンアンがうなずいた。
こうして無慈悲にも、玉+僕ら男子2名という対メデューサ戦のメンバーが、あれよあれよという間に決定してしまったのである。
こんな時、余裕をかませるのは、TPO無視の特性を持つ、玉である。
「あと50メートルも進めば、おそらく私たちは、間違いなくメデューサのバトルフィールドに足を踏み入れてしまうでしょう。ですから、その前に、ここで戦略を立てるための、勉強会を開くことを、おすすめします」
「勉強はあんまり好きじゃないんだけどなあ」
一ノ瀬がぼやいたけど、とりあう者はもちろん誰もいない。
「いいぞ。始めてくれ」
玉を真ん中に、メンバーが車座に座るのを見届けると、アンアンが促した。
「では、始めさせていただきます」
玉が得意げに薄い胸を張った。
「まず、メデューサの正体ですが、これはギリシャ神話に登場する女の怪物です。髪の毛は蛇、胴体はイノシシ、下半身は大蛇、背中に金色の翼が生えていると言われています。彼女の家族構成や出自は、この際説明が煩雑になるので省略しますね。大切なのは次の一点、すなわちメデューサの能力についてです。宝石のように輝く彼女の眼は、先ほども少し触れたように、見るものをすべて石に変えてしまうのです。この攻撃をどうかわすか、それが今回のバトルのキーポイントになるというわけですね」
「えーと確か、ギリシャ神話では、英雄ペルセウスがそのメデューサの首を魔剣で斬り落として、退治したんだったよな」
以前見たハリウッド映画のストーリーを思い出して、僕は言った。
「磨いた盾を鏡代わりにして、メデューサに接近したんじゃなかったっけ」
「そうです。その通りです。さすが元気くん。よく勉強してますね」
わが意を得たりとばかりに、玉がうなずいた。
いや、そうじゃなくて、僕はただ、映画を見ただけなんだけど。
「てことは何か? メデューサの眼っていうのは、直接見なければ石化の呪いにかからないというわけなのか?」
アンアンが身を乗り出したため、ハイレグアーマーの胸当て部分から、たわわな果実がこぼれ出しそうになった。
「はい、伝説の通りだと、そういうことになりますね」
「鏡かあ。スマホケースについてたけど、アトラクション会場で、スマホごと落としちゃったからなあ。アンアンは、鏡持ってるの?」
阿修羅が無念そうに言い、アンアンを見た。
「このかっこうのどこにそんなもの、隠せると思う?」
裸同然のアンアンが、憮然とした顔で言い返す。
「別に鏡じゃなくてもいいと思うのです」
そこにすかさず玉が口をはさんだ。
「要は、メデューサの眼光を、直接受けなければよいのです。ということは、それは例えば、ガラスなどを通してメデューサの眼を見る、という方法でも、クリアできるのではないでしょうか」
「ガラスを通す? あ、眼鏡か」
一ノ瀬が、玉の丸眼鏡を指さした。
「はい、そういうことですね。だから私はたぶん大丈夫なのです。それから元気君と一ノ瀬君も、武器庫から持ってきたスパイグッズの万能傘には、照準用の窓がついているはずですから、それを使えば平気なはずです。だから、今回は、私と男子ふたりで、メデューサに挑むのがベストでないかと思います」
玉が自信満々に言い切ると、一ノ瀬の顔からすっと血の気が引いていった。
「お、俺たち3人で? そ、それ、マジすか?」
「いい案かもしれないね。わたしとアンアンは、ここで少し休憩させてもらうってのも」
と、うなずく阿修羅。
「まあ、あたしとしても、石にはなりたくないからな」
頼みの綱のアンアンも、阿修羅に同調する気らしかった。
「幸い、メデューサの石化攻撃は、範囲ではなく、単体です。だから、視野から外れた位置にいれば、アンアンも阿修羅様も攻撃を受けることはありません」
「で、でも、やっぱりそれ、考え直したほうがいいんじゃ…」
今にも逃げ出しそうに腰を浮かせて、一ノ瀬が抗議した。
僕としても、もちろん同感である。
これまでの3回戦、僕は1度もバトルに参加していないのだ。
その分、小便でゴーレムを倒した一ノ瀬のほうが、まだマシだといっていいぐらいだろう。
とにかく、いくら玉がいるとはいえ、アンアンと阿修羅抜きで、伝説の魔物に勝てるとはとても思えない。
「大丈夫ですって。玉のとふたりの合わせれば、サブマシンガンが4丁、ミサイルが1発あるんですよ。火力としては申し分ないはずです」
どうしてそんなに肝っ玉が据わっているのか、玉は一歩も後に引こうとしない。
「決まりだね」
阿修羅が言った。
「決まりだな」
腕組みして、アンアンがうなずいた。
こうして無慈悲にも、玉+僕ら男子2名という対メデューサ戦のメンバーが、あれよあれよという間に決定してしまったのである。
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