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第6章 アンアン魔界行
#64 アンアンバラバラ殺人事件③
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一難去ってまた一難、万事休すとはこのことだ。
せっかくアンアンが生きていて(と言っても、まだ首だけだけど)、ほっとしたのもつかの間、あろうことか、今度は僕らの乗ったアトラクション用のコースターが、猛然と谷底めがけて落下し始めたのである。
谷底で牙を剥く濁流まで、1000メートルは大げさにしても、100メートルは優にある。
落ちたら全員、一貫の終わりに違いない。
「し、死ぬ! ガチでヤバいって!」
安全バーにしがみついて、一ノ瀬がわめき散らした。
僕もほとんど同意見だった。
もう、こうなったら、アンアンの首を抱いて玉砕するしかない。
コースターには屋根がなく、フロントガラスも申し訳程度のチープさだ。
突風とともに崖がぐんぐん迫ってきて、その下で荒れ狂う荒波がおいでおいでをするように鎌首をもたげている。
「く、苦しい」
僕の腕の中でアンアンの首がうめいた。
「あんまり強くしめつけるな。息ができないぞ」
「ご、ごめん」
僕は腕の力をゆるめ、アンアンの顔を見下ろした。
ぬっぺっぽうの驚異的な幹細胞の威力で、アンアンの顔は健康的につやつや輝いている。
持ち前の美少女フェイスが戻ってきていて、まったく首だけにしておくのが惜しいほどだ。
できれば、胴や手足を探してやりたい。
でも、このままじゃ、それも夢のまた夢というやつだろう。
ふう。
思わずため息をついた、その時である。
「みんな、あきらめちゃだめですよ!」
甲高い声で玉が叫んで、なにやらごそごそやり始めた。
見ると、安全バーを押上げて、その上に這い上がろうとしている。
「おい、玉、何やってんだ? 墜落する前に自殺しようってか?」
「違いますちがいます! 玉、閃いたんです! 早く手伝ってくださいよぉ!」
「閃いたって、何を?」
「『せーの!』で、この安全バーを押上げるんです!」
「馬鹿、そんなことしたら、余計危険だろ? 谷底に振り落とされちまうぞ」
「いいから! 行きますよ! せえーのっ!」
ごん、と鈍い音がして、バーが上がった。
その上に這い上がる玉。
フロントガラスの前に寝そべると、制服のスカートに包まれた尻をぷりっと突き出した。
ギイイイイイン!
かすかな機械音がして、背中の楽器ケースのふたが開く。
特撮ヒーロー番組の秘密基地みたいな感じでせり上がってきたのは、メタリックに輝く1基の太いミサイルだ。
「谷底の川を狙うのです。時間がありません。早く!」
「んなこと言ったって」
アンアンの首を足元に置くと、僕は一ノ瀬と並んでミサイルの基部にとりついた。
楽器ケースの裏側にはいくつかボタンが並んでいて、ひと際大きな赤いボタンにマジックで『BOMB』と書いてある。
「カウントダウン、スタート! はい、スリー、ツー、ワン、ゼロ!」
一ノ瀬がボタンを押した。
ノズルから灼熱の炎が噴き出した。
「わわ!」
「あちち!」
顔面をあぶられそうになり、一ノ瀬と抱き合うように、間一髪でシートの下に難を逃れた僕だった。
それにしても、玉のやつ、こんなことをしてどういうつもりなのだろう?
やみくもにミサイルを発射したところで、事態が好転するとはとても思えない。
それとも、さすがのアンドロイドも、にっちもさっちもいかなくなって、ついにやけになってしまったということなのだろうか。
まあ、なんでもいいや。
アンアンと一緒なら、このまま死んだって。
僕はアンアンの首を拾い上げ、膝の上に抱きしめた。
と、玉の声がした。
「やりい! 悦んでください! 大成功ですぅ!」
せっかくアンアンが生きていて(と言っても、まだ首だけだけど)、ほっとしたのもつかの間、あろうことか、今度は僕らの乗ったアトラクション用のコースターが、猛然と谷底めがけて落下し始めたのである。
谷底で牙を剥く濁流まで、1000メートルは大げさにしても、100メートルは優にある。
落ちたら全員、一貫の終わりに違いない。
「し、死ぬ! ガチでヤバいって!」
安全バーにしがみついて、一ノ瀬がわめき散らした。
僕もほとんど同意見だった。
もう、こうなったら、アンアンの首を抱いて玉砕するしかない。
コースターには屋根がなく、フロントガラスも申し訳程度のチープさだ。
突風とともに崖がぐんぐん迫ってきて、その下で荒れ狂う荒波がおいでおいでをするように鎌首をもたげている。
「く、苦しい」
僕の腕の中でアンアンの首がうめいた。
「あんまり強くしめつけるな。息ができないぞ」
「ご、ごめん」
僕は腕の力をゆるめ、アンアンの顔を見下ろした。
ぬっぺっぽうの驚異的な幹細胞の威力で、アンアンの顔は健康的につやつや輝いている。
持ち前の美少女フェイスが戻ってきていて、まったく首だけにしておくのが惜しいほどだ。
できれば、胴や手足を探してやりたい。
でも、このままじゃ、それも夢のまた夢というやつだろう。
ふう。
思わずため息をついた、その時である。
「みんな、あきらめちゃだめですよ!」
甲高い声で玉が叫んで、なにやらごそごそやり始めた。
見ると、安全バーを押上げて、その上に這い上がろうとしている。
「おい、玉、何やってんだ? 墜落する前に自殺しようってか?」
「違いますちがいます! 玉、閃いたんです! 早く手伝ってくださいよぉ!」
「閃いたって、何を?」
「『せーの!』で、この安全バーを押上げるんです!」
「馬鹿、そんなことしたら、余計危険だろ? 谷底に振り落とされちまうぞ」
「いいから! 行きますよ! せえーのっ!」
ごん、と鈍い音がして、バーが上がった。
その上に這い上がる玉。
フロントガラスの前に寝そべると、制服のスカートに包まれた尻をぷりっと突き出した。
ギイイイイイン!
かすかな機械音がして、背中の楽器ケースのふたが開く。
特撮ヒーロー番組の秘密基地みたいな感じでせり上がってきたのは、メタリックに輝く1基の太いミサイルだ。
「谷底の川を狙うのです。時間がありません。早く!」
「んなこと言ったって」
アンアンの首を足元に置くと、僕は一ノ瀬と並んでミサイルの基部にとりついた。
楽器ケースの裏側にはいくつかボタンが並んでいて、ひと際大きな赤いボタンにマジックで『BOMB』と書いてある。
「カウントダウン、スタート! はい、スリー、ツー、ワン、ゼロ!」
一ノ瀬がボタンを押した。
ノズルから灼熱の炎が噴き出した。
「わわ!」
「あちち!」
顔面をあぶられそうになり、一ノ瀬と抱き合うように、間一髪でシートの下に難を逃れた僕だった。
それにしても、玉のやつ、こんなことをしてどういうつもりなのだろう?
やみくもにミサイルを発射したところで、事態が好転するとはとても思えない。
それとも、さすがのアンドロイドも、にっちもさっちもいかなくなって、ついにやけになってしまったということなのだろうか。
まあ、なんでもいいや。
アンアンと一緒なら、このまま死んだって。
僕はアンアンの首を拾い上げ、膝の上に抱きしめた。
と、玉の声がした。
「やりい! 悦んでください! 大成功ですぅ!」
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