夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#50 風雲、阿修羅城②

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 水平に翼を広げたアンアンが、気流に乗って上昇する。
 飛び去って行くのに身体のサイズが変わらないのは、飛びながら巨大化しているからだろう。
 遠目にも、いつのまにか、アンアンが翼竜たちと同じ大きさになっているのがわかった。
 それにしても、前に一度背中に乗せてもらったことがあるけど、きょうのアンアンはあの時よりずいぶん速い。
 両腕を前に伸ばし、セーラー服のリボンとスカートの裾を風になびかせて、スーパーマンみたいに飛んでいく。
 アンアンの追撃に気づいたのか、近くを飛行していた1羽が針路を変えた。
 かあっと口を開け、アンアンめがけてまっしぐらに突っ込んでいく。
 ぶつかる、と思った瞬間、アンアンがそれをひらりとかわした。
 かわされたと知って、翼竜が大きく翼をかたむけ、旋回にかかった。
 ホバリングで宙に浮き、アンアンがぐいと右腕をステップバックした。
 翼竜が戻ってきたところへ、カウンター気味のアンアンパンチが炸裂する。
 ぎゃあああっ。
 頭蓋骨を潰され、空中でを翼をばたつかせる翼竜。
 すっとその斜め上空に位置を変えると、翼を畳んだアンアンが、重力に引かれるまま落下する。
 ニードロップが翼竜の背骨をへし折り、断末魔の悲鳴が静かな世界にこだました。
 収まらないのは、仲間を殺されたもう1羽である。
 二つ折りになって仲間が落下していくと、残りの1羽が、高空から錐もみ状態でアンアンめがけてつっこんだ。
 鋭いくちばしで串刺しにするつもりなのだろう。
 その姿は、さながら高速で空を切り裂く巨大な1本の槍だった。
 が、今度も敏捷さではアンアンのほうがまさっていた。
 音速で飛来する巨大な”槍”を、上半身をねじり、紙一重の差でかわす。
 空振りして飛びすぎようとした翼竜の片方の翼を、とっさに腕を伸ばしてつかんだ。
 そのまま身体を反転させ、背中に乗っかってしまう。
「うわあああああっ!」
 アンアンの雄叫びが轟いた。
 べりべりべりべりっ!
 翼竜の首にまたがったまま、剛腕にものを言わせてその翼を根元から引きちぎりにかかった。
 2枚の翼が、時間差で木の葉のように舞い散った。
「アンアンってば、相変わらず、乱暴だねえ」
 空を見上げていた阿修羅が、他人事のようにつぶやいた。
「どうでしょう? あの鳥、せっかくですから焼き鳥にして試食してみては」
 落ちていく翼竜の残骸を目で追いながら、玉が奇天烈な提案をする。
「大してうまかないよ。翼竜は。骨と皮ばっかりでさ」
 実感を込めて答える阿修羅。
 僕は仰天した。
 その口ぶり。
 阿修羅、おまえ、さては食べたことがあるんだな。
 

 
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