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第6章 アンアン魔界行
#41 アンアン、ミドルバベルへ④
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時間はもう深夜に近い。
それでも僕らが”シャフト”までやってきたのは、アンアンが、
「こうも異変が続くようじゃ、一刻の猶予もない。何が起こってるのか、早いとこ地獄界に行って確かめないと」
と、強行軍を主張したからだ。
ぬりかべ&ぬっぺっぽうの民間療法が功を奏したのか、アンアンはやたら元気になっていた。
肌もつやつやして、顔色もいい。
「あのさ、アンアン、張り切ってるところに水を差すようで心苦しいんだけど、俺たちののそもそもの目的って、ラスを取り戻すことだったよな? 別に地獄界に喧嘩を売りに来たんじゃないと思うんだが」
あの角の生えた犬を脳裏に思い浮かべて、僕は控えめに提言した。
「もちろん、そうだ。ラスは必ず救い出す。けど、売られた喧嘩は買わなきゃならない。餓鬼といい、羅刹といい、さっきのいんもらきといい、あいつら明らかに魔界を引っ掻き回そうとしてるだろう。そんな狼藉をこのアンアンさまが許しておけると思うか?」
「だよね。わたしもそう思う。あいつらちょっと図に乗ってるよ」
横でうなずくガングロ阿修羅。
「まあ、それはそうかもしれないけど、でも、気をつけないと…。あいつら、アンアンの生き胆を狙ってるみたいなことも言ってたし」
「生き胆って、やっぱりあれですかねえ。レバーのことでしょうか?」
わけのわからないリアクションは玉のものだが、そんなの誰も相手にしないだろうとガン無視してたら、例外がひとりいた。
「うん、そうだと思うよ。日本でもさ、終戦直後は子どもの生き胆を抜いて売りさばく闇商売が横行したんだって。なんでも、人間の肝臓って、万病に効く薬になるとかでさ。人間の子どもの肝臓ですらそうなんだから、アンアンのだったらきっとすごいことになるんじゃないかな」
真顔で相手にし始めたのは、似た者同士の一ノ瀬である。
「おまえら、何の話してんだよ」
さすがのアンアンも、苦り切った顔をしている。
「アンアン、お父様にあいさつしてかなくていいの?」
夜空を振り仰いで、阿修羅が言った。
「あそこに見えてるの、あんたのおうちでしょ?」
阿修羅の視線を追って地平のかなたに目をやると、今まで気づかなかったが、なるほどぼんやりと空中に城の影のようなものが浮かんでいる。
槍みたいな塔に囲まれた、ガウディ設計のサクラダファミリアみたいな建造物である。
アンアンの実家ということは、あれが魔王城…?
「行くわけないだろ? あたしは家出中なんだぞ。親父に見つからないうちにここを離れないと、後が面倒だ」
憮然として、アンアンが言う。
「だけどさ、ガーディアンがみんな死んじゃったのに、どうやってシャフトを動かすの? これ、起動させるのに、確か専用キーが必要だったよね?」
「そんなもの、予備がここにある」
シャフトの外壁に歩み寄ると、アンアンが地面を指さした。
寂しい街灯の明かりの中に浮かび上がったのは、逆さに置かれた植木鉢である。
「ま、まさか」
僕は目をしばたたいた。
でも、そのまさかだった。
アンアンがひょいと植木鉢を取り除けると、その下から銀色の鍵が現れた。
そんな、安易な。
ていうか、かぎっ子の家じゃあるまいし、不用心にもほどがあるだろう。
鍵を拾い上げると、無造作に四角いボックスの蓋を開き、その中の装置にアンアンがキーを差し込んだ。
がたん。
シャフト全体が揺れ、羅刹女たちを吐き出した後いったん閉じていたドアが、ギシギシとスライドした。
中は10人ほど乗れそうな、円筒形の空間だ。
「さ、行くぞ。これで地獄界まで直行だ」
先に立って、アンアンが中に入って行く。
「じゃ、とっとと済ませることにしましょうか」
「ミサイルはあと半日経たないと、補填されませんので、何か出てもそれまではあしからずってことで」
阿修羅と玉がそのあとに続く。
「元気、俺さ、ちょっとホームシックなんだけど。なんか俺、足手まといで、いてもいなくても関係ないって感じだし、できれば、このままエレベーターで上に上がって、そっと人間界に帰りたい」
ぐずる一ノ瀬を、僕は中に押し込んだ。
「今更何だよ。友だち甲斐がないやつだな。おまえがいないと俺が困るんだよ。だってそれじゃ、俺の無能ぶりが目立つだろ?」
それでも僕らが”シャフト”までやってきたのは、アンアンが、
「こうも異変が続くようじゃ、一刻の猶予もない。何が起こってるのか、早いとこ地獄界に行って確かめないと」
と、強行軍を主張したからだ。
ぬりかべ&ぬっぺっぽうの民間療法が功を奏したのか、アンアンはやたら元気になっていた。
肌もつやつやして、顔色もいい。
「あのさ、アンアン、張り切ってるところに水を差すようで心苦しいんだけど、俺たちののそもそもの目的って、ラスを取り戻すことだったよな? 別に地獄界に喧嘩を売りに来たんじゃないと思うんだが」
あの角の生えた犬を脳裏に思い浮かべて、僕は控えめに提言した。
「もちろん、そうだ。ラスは必ず救い出す。けど、売られた喧嘩は買わなきゃならない。餓鬼といい、羅刹といい、さっきのいんもらきといい、あいつら明らかに魔界を引っ掻き回そうとしてるだろう。そんな狼藉をこのアンアンさまが許しておけると思うか?」
「だよね。わたしもそう思う。あいつらちょっと図に乗ってるよ」
横でうなずくガングロ阿修羅。
「まあ、それはそうかもしれないけど、でも、気をつけないと…。あいつら、アンアンの生き胆を狙ってるみたいなことも言ってたし」
「生き胆って、やっぱりあれですかねえ。レバーのことでしょうか?」
わけのわからないリアクションは玉のものだが、そんなの誰も相手にしないだろうとガン無視してたら、例外がひとりいた。
「うん、そうだと思うよ。日本でもさ、終戦直後は子どもの生き胆を抜いて売りさばく闇商売が横行したんだって。なんでも、人間の肝臓って、万病に効く薬になるとかでさ。人間の子どもの肝臓ですらそうなんだから、アンアンのだったらきっとすごいことになるんじゃないかな」
真顔で相手にし始めたのは、似た者同士の一ノ瀬である。
「おまえら、何の話してんだよ」
さすがのアンアンも、苦り切った顔をしている。
「アンアン、お父様にあいさつしてかなくていいの?」
夜空を振り仰いで、阿修羅が言った。
「あそこに見えてるの、あんたのおうちでしょ?」
阿修羅の視線を追って地平のかなたに目をやると、今まで気づかなかったが、なるほどぼんやりと空中に城の影のようなものが浮かんでいる。
槍みたいな塔に囲まれた、ガウディ設計のサクラダファミリアみたいな建造物である。
アンアンの実家ということは、あれが魔王城…?
「行くわけないだろ? あたしは家出中なんだぞ。親父に見つからないうちにここを離れないと、後が面倒だ」
憮然として、アンアンが言う。
「だけどさ、ガーディアンがみんな死んじゃったのに、どうやってシャフトを動かすの? これ、起動させるのに、確か専用キーが必要だったよね?」
「そんなもの、予備がここにある」
シャフトの外壁に歩み寄ると、アンアンが地面を指さした。
寂しい街灯の明かりの中に浮かび上がったのは、逆さに置かれた植木鉢である。
「ま、まさか」
僕は目をしばたたいた。
でも、そのまさかだった。
アンアンがひょいと植木鉢を取り除けると、その下から銀色の鍵が現れた。
そんな、安易な。
ていうか、かぎっ子の家じゃあるまいし、不用心にもほどがあるだろう。
鍵を拾い上げると、無造作に四角いボックスの蓋を開き、その中の装置にアンアンがキーを差し込んだ。
がたん。
シャフト全体が揺れ、羅刹女たちを吐き出した後いったん閉じていたドアが、ギシギシとスライドした。
中は10人ほど乗れそうな、円筒形の空間だ。
「さ、行くぞ。これで地獄界まで直行だ」
先に立って、アンアンが中に入って行く。
「じゃ、とっとと済ませることにしましょうか」
「ミサイルはあと半日経たないと、補填されませんので、何か出てもそれまではあしからずってことで」
阿修羅と玉がそのあとに続く。
「元気、俺さ、ちょっとホームシックなんだけど。なんか俺、足手まといで、いてもいなくても関係ないって感じだし、できれば、このままエレベーターで上に上がって、そっと人間界に帰りたい」
ぐずる一ノ瀬を、僕は中に押し込んだ。
「今更何だよ。友だち甲斐がないやつだな。おまえがいないと俺が困るんだよ。だってそれじゃ、俺の無能ぶりが目立つだろ?」
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