夜通しアンアン

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
138 / 249
第6章 アンアン魔界行

#41 アンアン、ミドルバベルへ④

しおりを挟む
 時間はもう深夜に近い。
 それでも僕らが”シャフト”までやってきたのは、アンアンが、
「こうも異変が続くようじゃ、一刻の猶予もない。何が起こってるのか、早いとこ地獄界に行って確かめないと」
 と、強行軍を主張したからだ。
 ぬりかべ&ぬっぺっぽうの民間療法が功を奏したのか、アンアンはやたら元気になっていた。
 肌もつやつやして、顔色もいい。
「あのさ、アンアン、張り切ってるところに水を差すようで心苦しいんだけど、俺たちののそもそもの目的って、ラスを取り戻すことだったよな? 別に地獄界に喧嘩を売りに来たんじゃないと思うんだが」
 あの角の生えた犬を脳裏に思い浮かべて、僕は控えめに提言した。
「もちろん、そうだ。ラスは必ず救い出す。けど、売られた喧嘩は買わなきゃならない。餓鬼といい、羅刹といい、さっきのいんもらきといい、あいつら明らかに魔界を引っ掻き回そうとしてるだろう。そんな狼藉をこのアンアンさまが許しておけると思うか?」
「だよね。わたしもそう思う。あいつらちょっと図に乗ってるよ」
 横でうなずくガングロ阿修羅。
「まあ、それはそうかもしれないけど、でも、気をつけないと…。あいつら、アンアンの生き胆を狙ってるみたいなことも言ってたし」
「生き胆って、やっぱりあれですかねえ。レバーのことでしょうか?」
 わけのわからないリアクションは玉のものだが、そんなの誰も相手にしないだろうとガン無視してたら、例外がひとりいた。
「うん、そうだと思うよ。日本でもさ、終戦直後は子どもの生き胆を抜いて売りさばく闇商売が横行したんだって。なんでも、人間の肝臓って、万病に効く薬になるとかでさ。人間の子どもの肝臓ですらそうなんだから、アンアンのだったらきっとすごいことになるんじゃないかな」
 真顔で相手にし始めたのは、似た者同士の一ノ瀬である。
「おまえら、何の話してんだよ」
 さすがのアンアンも、苦り切った顔をしている。
「アンアン、お父様にあいさつしてかなくていいの?」
 夜空を振り仰いで、阿修羅が言った。
「あそこに見えてるの、あんたのおうちでしょ?」
 阿修羅の視線を追って地平のかなたに目をやると、今まで気づかなかったが、なるほどぼんやりと空中に城の影のようなものが浮かんでいる。
 槍みたいな塔に囲まれた、ガウディ設計のサクラダファミリアみたいな建造物である。
 アンアンの実家ということは、あれが魔王城…?
「行くわけないだろ? あたしは家出中なんだぞ。親父に見つからないうちにここを離れないと、後が面倒だ」
 憮然として、アンアンが言う。
「だけどさ、ガーディアンがみんな死んじゃったのに、どうやってシャフトを動かすの? これ、起動させるのに、確か専用キーが必要だったよね?」
「そんなもの、予備がここにある」
 シャフトの外壁に歩み寄ると、アンアンが地面を指さした。
 寂しい街灯の明かりの中に浮かび上がったのは、逆さに置かれた植木鉢である。
「ま、まさか」
 僕は目をしばたたいた。
 でも、そのまさかだった。
 アンアンがひょいと植木鉢を取り除けると、その下から銀色の鍵が現れた。
 そんな、安易な。
 ていうか、かぎっ子の家じゃあるまいし、不用心にもほどがあるだろう。
 鍵を拾い上げると、無造作に四角いボックスの蓋を開き、その中の装置にアンアンがキーを差し込んだ。
 がたん。
 シャフト全体が揺れ、羅刹女たちを吐き出した後いったん閉じていたドアが、ギシギシとスライドした。
 中は10人ほど乗れそうな、円筒形の空間だ。
「さ、行くぞ。これで地獄界まで直行だ」
 先に立って、アンアンが中に入って行く。
「じゃ、とっとと済ませることにしましょうか」
「ミサイルはあと半日経たないと、補填されませんので、何か出てもそれまではあしからずってことで」
 阿修羅と玉がそのあとに続く。
「元気、俺さ、ちょっとホームシックなんだけど。なんか俺、足手まといで、いてもいなくても関係ないって感じだし、できれば、このままエレベーターで上に上がって、そっと人間界に帰りたい」
 ぐずる一ノ瀬を、僕は中に押し込んだ。
「今更何だよ。友だち甲斐がないやつだな。おまえがいないと俺が困るんだよ。だってそれじゃ、俺の無能ぶりが目立つだろ?」


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

「こんにちは」は夜だと思う

あっちゅまん
ホラー
主人公のレイは、突然の魔界の現出に巻き込まれ、様々な怪物たちと死闘を繰り広げることとなる。友人のフーリンと一緒にさまよう彼らの運命とは・・・!? 全世界に衝撃を与えたハロウィン・ナイトの惨劇『10・31事件』の全貌が明らかになる!!

処理中です...