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#12 悪夢

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 口調こそ穏やかだが、老紳士の態度は明らかに私たちの退去を求めているようだった。
「これであいつも懲りたと思います。一刻も早く店など畳ませて、うちに引き取らないと…」
 吐き捨てるように言って、私たちに背を向けた。
 私たちは目礼を返すと、言葉もなく病院を出た。
「あたし車だから、皆さん、お送りしますわ」
 小太りの婦人が申し出てくれ、内心私は安堵のため息をついた。
 この時間ではもうバスもない。
 距離からして、タクシー代も馬鹿にならないのだ。
「会長、親の反対を押し切って、お店開いたのよね」
 車窓から外を眺め、村井さんがぽつりとつぶやいた。
「どうしても親から独立して自分のお店を持ちたいって。結婚自体反対されてて、半ば勘当同然だったんだって」
「親御さんにしてみれば、これがいい機会ということなんでしょうね」
 青山さんがうなずいた。
「でも、会長がいなくなったら、色々大変そう…」
「校長先生と相談して、新しい会長、決めておいたほうがいいいかも」
「誰もやりたがらないよね…」
 私たちは互いに目を見合わせ、黙り込んだ。
 思えば、これまで木村会長の姉御肌の性格にずいぶん助けられていたのだ。
 弱みを見せず、他人を引っ張っていくリーダーシップ。
 それが彼女の持ち味だったのである。
「困ったね。こんな時に」
 村井さんのつぶやきは、わたしたち全員の思いを代弁したものだった。
「せめて殺人鬼が捕まってくれればいいのに…」

 家に帰ると、慎吾は夫と枕を並べてすやすや眠っていた。
 台所のシンクには、汚れた食器がそのままつっこんである。
 洗い物を終えて、シャワーだけ浴び、慎吾の隣に身を横たえた。
 家族三人、川の字になって寝られるというのは、すごく幸せなことなのかもしれない…。
 だから、縁起の悪いことなんて、考えちゃいけないんだー。
 私は慎吾の温かい身体を抱き寄せ、頭の中から不吉な思いを追い出した。
 けれど、なかなか寝つくことはできなかった。
 うとうとすると必ず、脳裏にあの血まみれのマトリョーシカ人形が蘇ってくるからだった…。
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