11 / 32
#10 風俗探偵の推理
しおりを挟む
「これってやっぱり、オカルト関係っすかね」
グリーンピースのような色の頭をぼりぼりかきながら、瑠璃が言った。
きょうの瑠璃は、男物の黒いTシャツに、マイクロミニ丈のデニムのショートパンツといった出で立ちだ。
Tシャツの背中にデザインされているのは、英語でも漢字でもなく、どうやら梵字のようである。
「瑠璃さん、オカルトとか、そういう方面にも詳しいの?」
その梵字を見るともなく眺めながら、私は訊いた。
「いえ、自分じゃなくって、顧客の中にそっち方面の専門家もいるんで」
瑠璃が何かを思い出すように宙に視線を固定した。
「あさっての土曜日までにはまだ間があるんで、さっそくちょっと動いてみます。被害者家族に怨恨の線がないか、それも含めて」
「怨恨というより、私には、通り魔的な猟奇犯罪に思えるけど…」
「どうですかね。通り魔にしては、あまりにも手が込み過ぎてる。死体でマトリョーシカをつくるために、最初から三つ子を狙ったと考えたほうが、筋が通るんじゃないですかね」
「脳の一部を持ち去ったというのは…?」
その部分が映っていなくて、本当によかったと思う。
口に出しただけでも、吐きそうになるからだ。
「記念品にする気だったのか、あるいは後で食べるつもりだったってことも」
「やめてよ」
つい責めるような語調で叫んでいた。
「いや、マジで」
が、瑠璃は怯まない。
「海外では、カニバリズムによる殺人って、普通にあるんで。その可能性も、考慮に入れといたほうがいいかと」
バイトがあるんで。
瑠璃が帰ると、急に静かになった部屋の真ん中に、私はぐったりと座り込んだ。
今更ながらに、事件の異常性に身がすくむ思いだった。
3人の幼女の死体を切り刻み、それを組み合わせて一体の肉人形をつくる。
しかも、そこに、入れ子細工のような複雑な意匠を施して…。
そんな常人の想像をはるかに超えた狂気に駆られた犯人が、今も悠然と街の中を徘徊しているー。
それはまさに、背筋が凍りつくほどの恐怖だった。
こうなったら、一刻も早くあの子、榊健斗を見つけて、協力を頼まないと。
私は決意を新たにした。
荒唐無稽でも、少しでも可能性があるなら、試してみるべきだ。
そうして彼に、悪意のオーラを身にまとう、隠れた殺人鬼を見つけてもらうのだ。
藁にもすがる思いとは、まさにこのことだった。
ふと我に返ると、慎吾が膝の上によじ登り、肩を揺すっていた。
何も言わないけど、目が空腹を訴えている。
部屋が薄暗くなっている。
夕食の時間が近いのだ。
「ごめ~ん、おなかすいたよね。ちょっと待ってて。今すぐごはん、つくるから」
私はぎゅっと慎吾の痩せた身体を抱きしめた。
夫の慎一が帰るのは10時近いので、それまで慎吾を待たせるわけにもいかなかった。
エプロンをつけて、台所に立った時である。
ふいにスマホが鳴った。
会計の村井さんからだった。
「安西さん、木村会長が大変なの」
開口一番、切羽詰まった口調で、村井さんが言った。
「交通事故で、意識不明の重体なんですって」
グリーンピースのような色の頭をぼりぼりかきながら、瑠璃が言った。
きょうの瑠璃は、男物の黒いTシャツに、マイクロミニ丈のデニムのショートパンツといった出で立ちだ。
Tシャツの背中にデザインされているのは、英語でも漢字でもなく、どうやら梵字のようである。
「瑠璃さん、オカルトとか、そういう方面にも詳しいの?」
その梵字を見るともなく眺めながら、私は訊いた。
「いえ、自分じゃなくって、顧客の中にそっち方面の専門家もいるんで」
瑠璃が何かを思い出すように宙に視線を固定した。
「あさっての土曜日までにはまだ間があるんで、さっそくちょっと動いてみます。被害者家族に怨恨の線がないか、それも含めて」
「怨恨というより、私には、通り魔的な猟奇犯罪に思えるけど…」
「どうですかね。通り魔にしては、あまりにも手が込み過ぎてる。死体でマトリョーシカをつくるために、最初から三つ子を狙ったと考えたほうが、筋が通るんじゃないですかね」
「脳の一部を持ち去ったというのは…?」
その部分が映っていなくて、本当によかったと思う。
口に出しただけでも、吐きそうになるからだ。
「記念品にする気だったのか、あるいは後で食べるつもりだったってことも」
「やめてよ」
つい責めるような語調で叫んでいた。
「いや、マジで」
が、瑠璃は怯まない。
「海外では、カニバリズムによる殺人って、普通にあるんで。その可能性も、考慮に入れといたほうがいいかと」
バイトがあるんで。
瑠璃が帰ると、急に静かになった部屋の真ん中に、私はぐったりと座り込んだ。
今更ながらに、事件の異常性に身がすくむ思いだった。
3人の幼女の死体を切り刻み、それを組み合わせて一体の肉人形をつくる。
しかも、そこに、入れ子細工のような複雑な意匠を施して…。
そんな常人の想像をはるかに超えた狂気に駆られた犯人が、今も悠然と街の中を徘徊しているー。
それはまさに、背筋が凍りつくほどの恐怖だった。
こうなったら、一刻も早くあの子、榊健斗を見つけて、協力を頼まないと。
私は決意を新たにした。
荒唐無稽でも、少しでも可能性があるなら、試してみるべきだ。
そうして彼に、悪意のオーラを身にまとう、隠れた殺人鬼を見つけてもらうのだ。
藁にもすがる思いとは、まさにこのことだった。
ふと我に返ると、慎吾が膝の上によじ登り、肩を揺すっていた。
何も言わないけど、目が空腹を訴えている。
部屋が薄暗くなっている。
夕食の時間が近いのだ。
「ごめ~ん、おなかすいたよね。ちょっと待ってて。今すぐごはん、つくるから」
私はぎゅっと慎吾の痩せた身体を抱きしめた。
夫の慎一が帰るのは10時近いので、それまで慎吾を待たせるわけにもいかなかった。
エプロンをつけて、台所に立った時である。
ふいにスマホが鳴った。
会計の村井さんからだった。
「安西さん、木村会長が大変なの」
開口一番、切羽詰まった口調で、村井さんが言った。
「交通事故で、意識不明の重体なんですって」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
絶対絶命女子!
戸影絵麻
ホラー
それは、ほんのささいな出来事から始まった。
建設現場から発掘された謎の遺跡。増え始めた光る眼の蛞蝓。
そして、のどかな田園都市を、生ける屍たちが侵食する…。
これは、ゾンビたちに立ち向かった、4人の勇気ある乙女たちの物語である。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
あやかしのうた
akikawa
ホラー
あやかしと人間の孤独な愛の少し不思議な物語を描いた短編集(2編)。
第1部 虚妄の家
「冷たい水底であなたの名を呼んでいた。会いたくて、哀しくて・・・」
第2部 神婚
「一族の総領以外、この儀式を誰も覗き見てはならぬ。」
好奇心おう盛な幼き弟は、その晩こっそりと神の部屋に忍び込み、美しき兄と神との秘密の儀式を覗き見たーーー。
虚空に揺れし君の袖。
汝、何故に泣く?
夢さがなく我愁うれう。
夢通わせた君憎し。
想いとどめし乙女が心の露(なみだ)。
哀しき愛の唄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる