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#10 風俗探偵の推理

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「これってやっぱり、オカルト関係っすかね」
 グリーンピースのような色の頭をぼりぼりかきながら、瑠璃が言った。
 きょうの瑠璃は、男物の黒いTシャツに、マイクロミニ丈のデニムのショートパンツといった出で立ちだ。
 Tシャツの背中にデザインされているのは、英語でも漢字でもなく、どうやら梵字のようである。
「瑠璃さん、オカルトとか、そういう方面にも詳しいの?」
 その梵字を見るともなく眺めながら、私は訊いた。
「いえ、自分じゃなくって、顧客の中にそっち方面の専門家もいるんで」
 瑠璃が何かを思い出すように宙に視線を固定した。
「あさっての土曜日までにはまだ間があるんで、さっそくちょっと動いてみます。被害者家族に怨恨の線がないか、それも含めて」
「怨恨というより、私には、通り魔的な猟奇犯罪に思えるけど…」
「どうですかね。通り魔にしては、あまりにも手が込み過ぎてる。死体でマトリョーシカをつくるために、最初から三つ子を狙ったと考えたほうが、筋が通るんじゃないですかね」
「脳の一部を持ち去ったというのは…?」
 その部分が映っていなくて、本当によかったと思う。
 口に出しただけでも、吐きそうになるからだ。
「記念品にする気だったのか、あるいは後で食べるつもりだったってことも」
「やめてよ」
 つい責めるような語調で叫んでいた。
「いや、マジで」
 が、瑠璃は怯まない。
「海外では、カニバリズムによる殺人って、普通にあるんで。その可能性も、考慮に入れといたほうがいいかと」

 バイトがあるんで。
 瑠璃が帰ると、急に静かになった部屋の真ん中に、私はぐったりと座り込んだ。
 今更ながらに、事件の異常性に身がすくむ思いだった。
 3人の幼女の死体を切り刻み、それを組み合わせて一体の肉人形をつくる。
 しかも、そこに、入れ子細工のような複雑な意匠を施して…。
 そんな常人の想像をはるかに超えた狂気に駆られた犯人が、今も悠然と街の中を徘徊しているー。
 それはまさに、背筋が凍りつくほどの恐怖だった。
 こうなったら、一刻も早くあの子、榊健斗を見つけて、協力を頼まないと。
 私は決意を新たにした。
 荒唐無稽でも、少しでも可能性があるなら、試してみるべきだ。
 そうして彼に、悪意のオーラを身にまとう、隠れた殺人鬼を見つけてもらうのだ。
 藁にもすがる思いとは、まさにこのことだった。
 ふと我に返ると、慎吾が膝の上によじ登り、肩を揺すっていた。
 何も言わないけど、目が空腹を訴えている。
 部屋が薄暗くなっている。
 夕食の時間が近いのだ。
「ごめ~ん、おなかすいたよね。ちょっと待ってて。今すぐごはん、つくるから」
 私はぎゅっと慎吾の痩せた身体を抱きしめた。
 夫の慎一が帰るのは10時近いので、それまで慎吾を待たせるわけにもいかなかった。
 エプロンをつけて、台所に立った時である。
 ふいにスマホが鳴った。
 会計の村井さんからだった。
「安西さん、木村会長が大変なの」
 開口一番、切羽詰まった口調で、村井さんが言った。
「交通事故で、意識不明の重体なんですって」

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