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#4 瑠璃という女

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 じゃ、野暮用があるんで、後はふたりでよく話し合ってね。
 大きな体を揺らして校長が出て行ってしまうと、私はその不気味な娘とふたり、取り残されることになった。
「あなた、本当に探偵なの?」
 会話に困って、仕方なく訊いてみた。
「悪いけど、とてもそんなふうには見えないわ」
「よく言われます」
 悪びれたふうもなく、瑠璃が答えた。
「でも、本当なんで」
 校長が居なくなったとたん、熱心にメニューをめくっている。
「でも、その頭、探偵にしては、ちょっと目立ち過ぎじゃない?」
 半信半疑で尚も訊くと、
「自分、足で稼ぐ探偵じゃないんで」
 メニューの上を行ったり来たりしながら、瑠璃が答えた。
「じゃあ、どうするの? アルバイトにでも調べさせてるの?」
「副業があれなんで、自分、知り合い、多いんで」
 瑠璃がスマートフォンを取り出した。
 見せてくれたのは、電話帳である。
 何ページにもわたって、電話番号が並んでいる。
 ただし名前は、ポチ、ハゲ、デブなど、どれもいい加減なものだった。
「ここの誰かに訊けば、たいていのことはわかるんで」
 何か好物を見つけたらしく、目を見開いて瑠璃が言った。
「たとえばその”ポチ1号”ってのは、県警の捜査一課の刑事です」
「あなた…副業って」
「ファッションヘルス。場合によっては、本番ありのやつ」
 けろりとした顔で、瑠璃が言う。
 つまり、店に来た客の弱みにつけこんで、情報源に仕立て上げてるって、そういうことか。
「ちなみに坂巻校長は、自分の卒業した小学校の先生なんで。あ、でも、秋津さんの居た学校とは別かな。彼女が校長になる前に教えてた小学校だから」
 なるほど、年齢的にはそうだろう。
 目の前のこの娘が、中高生とはとても思えない。
「ねえ、何か頼みませんか。で、食べた後、じっくり仕事の話、するってのは?」
 話題を打ち切って、唐突に瑠璃が言った。
 ひどく真剣な表情をしている。
「自分、はっきり言って、逆巻さん、苦手なんで」
 だから、校長が同席している間は、空腹を我慢していた?
 どうやらそう言いたいらしい。
「いいわよ」
 私は思わず吹き出した。
「私も本当は、おなかぺこぺこだったんだ」
 サイケデリックな髪の色、パンダみたいな化粧。
 どれをとっても異質である。
 が、瑠璃はどこか憎めない、不思議な感触のする娘だった。
「じゃあ、私はとんかつ定食、メシ大盛で。あ、もちろん、メシ代は、自分、払いますんで」
 ウェイターを呼ぶため片手を上げると、生真面目な顔をして瑠璃が言った。
 
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