異世界病棟 ~淫夢迷宮~

戸影絵麻

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淫蕩な秘密①

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 乙都が運ばれたのは、エコー室に隣接する待機用の小部屋だった。
 予定の患者の診療時間が何かのトラブルで重なった場合、一時的に待ってもらうためのベッドがある。
「乙都、大丈夫?」
 蓮月が濡れたタオルで乙都の裸の上半身を拭いている。
 タオルはすぐに赤く染まり、そのタオルを洗う洗面器の水もじきに真っ赤になった。
「う…うん」
 乙都は弱々しく首を振った。
 もとより痛くはないのだ。
 それどころか、困ったことに、濡れタオルで膚を拭かれるたびに、快感が増してくる。
 官能をくすぐる淫靡な疼きが、ひたひたと身体中に波紋を広げていくー。
 そんな感じなのだ。
 腿と腿のつけ根がぬるぬるしてならない。
 血でぐしょぐしょになったショーツの中に、何か生温かい汁のようなものが溢れてくる。
 それこそが、乙都の裸身が性的に欲情している証だった。
 意思に反して、躰だけ先に反応してしまっているのだ。
「それにしても、不思議・・・」
 新しいタオルに替え、それで乙都の躰を優しく拭きながら、蓮月がつぶやいた。
「乙都ったら、あんなに血だらけだったのに、傷口がひとつもない・・・。針の跡、どこいっちゃったの?」
 そのことには、うすうす乙都も気づいていた。
 コンドーサンによって鉄の処女から救い出され、躰から針が抜けた瞬間から、傷口の修復が始まったのだ。
 視界に入る乳房の一部からして、そうだった。
 長い鋼鉄の針に抉られ、痛々しく脂肪の爆ぜた皮膚の奥から、新たな肉の芽が盛り上がってくる。
 その様子が、まるで科学番組のスローモーション映像のように、克明に見えたのである。
 今になって、あの謎の髑髏は正しかったのだと、そう思わずにはいられない。
 あの時、本当は何が起こったのだろう?
 めくるめく快感に呑み込まれて、細部はほとんど覚えていない。
 無数の触手にぐるぐる巻きにされ、口とお尻の穴に、腕のように太い触手が入ってきて・・・。
 やがて、乙都の躰の中でひとつに融合した?
 そんな夢を見ていた気がする。
 そして、朝起きたら、蛸髑髏は臭い液体を吐いて死んでいたのだ。
 あたかも乙都に、己の生命エネルギーをすべて注入してしまったかのように・・・。
「どうだ?」
 そこに、髪をかき上げながら、瑞季女史が入ってきた。
「外科病棟に運ぶ必要もないみたいです。どうしてだかわかんないんですけど、傷がひとつもないんです」
 困惑も露わに、蓮月が言う。
「なんだって?」
 蓮月を押しのけて、瑞季女史が乙都の脇に立った。
 ビニール手袋を脱ぎ、両手の手のひらで乙都の肌を撫でていく。
「本当だな。これは驚きだ」
 しばらくして触診を終えると、呆れたようにつぶやいた。
「あの拷問器具は、剣山のように針だらけだった。現にさっきまで血塗れだったのに、これはいったい・・・?」
「ここへ運ばれるまでのわずかな時間に治癒したとしか思えないんですけど・・・」
「ふむ・・・。そんなことが現実に起こり得るとは、とても思えないが・・・。まあいい、蓮月、おまえはしばらく乙都についててやってくれ。容態が急変するようなら、私のスマホに連絡をくれないか」
「先生は?」
「外で紗彩さんが待っている。鯨の旦那を病室に戻したら、おまえに送ってもらった動画を見せに、北条院長に会いに行く。これで依子の暴走を止められるかもしれない」
「お願いします」
 蓮月が頭を下げた。
「正直、あたし、あのキモいお人形さんにアゴでこき使われるの、もう、うんざりだったんです」

 

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