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#2 仮想世界の中の現実
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ともあれ、こうなったら、とことんねかまになり切るしかない。
そう決心したものの、そのためにもまずは顔を確かめてみたかった。
いくら身体が笹原杏里でも、顔が元の俺、大熊茂のままでは目も当てられないからである。
それじゃ、ただの女装した変態ってことになっちまう。
どこかに鏡はないだろうか。
だが、周囲を見回してみても、存在するのは延々と伸びる道路と霧の海、それからぼうっとかすんだ空気だけ。
潮の匂いがするから、道路の下のこのだだっ広い空間はおそらく海なのだろうが、もやのせいで海面が見えないため、顔を映して見ることすらできやしない。
しようがない。
まず、あの建物まで行ってみるとするか。
あそこまでいけば、鏡のひとつやふたつ、きっとあるに違いないからだ。
前方の建物のほうが近い気がしたので、とりあえずそっちに向かって、歩き出す。
身体を動かしてみて初めて分かったのは、胸が大きいとバランスがとりにくく、ひどく歩きにくいという事実だった。
ともすれば90センチのバストの重みで、前のめりに倒れそうになってしまうのである。
おまけに米俵をふたつ担いでいるように、肩が痛い。
このままでは、1時間もしないうちに肩こりに悩まされることになりそうだ。
巨乳って、楽じゃないんだ。
俺は生まれて初めて、グラドルの皆さんに同情した。
こんなダメダメな人生早く終わりにして、来世はグラドルにでも生まれ変わろう。
半分真剣にそう願っていた俺だったが、ゲームの中とはいえ、いざ理想が現実になってみると、その未来図にも少し修正が必要なような気がしてきた。
女の子に生まれ変わるのはいいとしても、少なくともおっぱいは小さいほうがいい。
そう思ったのだ。
そんなどうでもいいことに思いを巡らせながら歩いていると、やがて霧の中から建物の全容が現れた。
どこかで見たような風景だった。
「AEONイデア店?」
建物のてっぺんの看板を見るなり、俺は絶句した。
イデアというのは、あのチュートリアルの女神の声が言っていた、この仮想世界の名前だろう。
しかし、なんということだ。
ゲームの世界にまで、イオンが進出しているとは。
俺はイオンリテーリングの商魂のたくましさに感心するとともに、なんとはなしに安心した。
ということは、この中にはおなじみのサンマルクカフェやマクドナルドや未来堂書店があるわけで、暇つぶしにはもってこいってことになるからだ。
しかし、これがMMOなら、まずウサギでも狩ってレベル上げをすべきところである。
果たして、イオンの中にウサギレベルの魔物がいるのだろうか。
もっと言えば、宿屋やギルドはどうなのだ?
自動ドアをくぐると、中はガラガラだった。
ベンチにひと目で学校をさぼっているとわかる、ガラの悪そうな女子高生が数人たむろしているだけである。
そうか。
ここが学園都市ならば、今は時間的に授業中で、それで客が少ないということなのかもしれない。
まあ、あのスケ番どもは無視して、とりあえずトイレだ。
初の女子トイレ体験だった。
びくびくしながら中に入ると、手洗い場の壁が一面の鏡になっていた。
「う」
その鏡に映った自分を見て、俺は息を呑んだ。
まじで心臓が止まるかと思った。
ひと呼吸遅れて、じわじわと喜びが込み上げてきた。
それも当然だろう。
なんたって、鏡に映っていたのは、俺が2時間かけてクリエイトした通りの、あのとびっきりの美少女の姿だったからである。
そう決心したものの、そのためにもまずは顔を確かめてみたかった。
いくら身体が笹原杏里でも、顔が元の俺、大熊茂のままでは目も当てられないからである。
それじゃ、ただの女装した変態ってことになっちまう。
どこかに鏡はないだろうか。
だが、周囲を見回してみても、存在するのは延々と伸びる道路と霧の海、それからぼうっとかすんだ空気だけ。
潮の匂いがするから、道路の下のこのだだっ広い空間はおそらく海なのだろうが、もやのせいで海面が見えないため、顔を映して見ることすらできやしない。
しようがない。
まず、あの建物まで行ってみるとするか。
あそこまでいけば、鏡のひとつやふたつ、きっとあるに違いないからだ。
前方の建物のほうが近い気がしたので、とりあえずそっちに向かって、歩き出す。
身体を動かしてみて初めて分かったのは、胸が大きいとバランスがとりにくく、ひどく歩きにくいという事実だった。
ともすれば90センチのバストの重みで、前のめりに倒れそうになってしまうのである。
おまけに米俵をふたつ担いでいるように、肩が痛い。
このままでは、1時間もしないうちに肩こりに悩まされることになりそうだ。
巨乳って、楽じゃないんだ。
俺は生まれて初めて、グラドルの皆さんに同情した。
こんなダメダメな人生早く終わりにして、来世はグラドルにでも生まれ変わろう。
半分真剣にそう願っていた俺だったが、ゲームの中とはいえ、いざ理想が現実になってみると、その未来図にも少し修正が必要なような気がしてきた。
女の子に生まれ変わるのはいいとしても、少なくともおっぱいは小さいほうがいい。
そう思ったのだ。
そんなどうでもいいことに思いを巡らせながら歩いていると、やがて霧の中から建物の全容が現れた。
どこかで見たような風景だった。
「AEONイデア店?」
建物のてっぺんの看板を見るなり、俺は絶句した。
イデアというのは、あのチュートリアルの女神の声が言っていた、この仮想世界の名前だろう。
しかし、なんということだ。
ゲームの世界にまで、イオンが進出しているとは。
俺はイオンリテーリングの商魂のたくましさに感心するとともに、なんとはなしに安心した。
ということは、この中にはおなじみのサンマルクカフェやマクドナルドや未来堂書店があるわけで、暇つぶしにはもってこいってことになるからだ。
しかし、これがMMOなら、まずウサギでも狩ってレベル上げをすべきところである。
果たして、イオンの中にウサギレベルの魔物がいるのだろうか。
もっと言えば、宿屋やギルドはどうなのだ?
自動ドアをくぐると、中はガラガラだった。
ベンチにひと目で学校をさぼっているとわかる、ガラの悪そうな女子高生が数人たむろしているだけである。
そうか。
ここが学園都市ならば、今は時間的に授業中で、それで客が少ないということなのかもしれない。
まあ、あのスケ番どもは無視して、とりあえずトイレだ。
初の女子トイレ体験だった。
びくびくしながら中に入ると、手洗い場の壁が一面の鏡になっていた。
「う」
その鏡に映った自分を見て、俺は息を呑んだ。
まじで心臓が止まるかと思った。
ひと呼吸遅れて、じわじわと喜びが込み上げてきた。
それも当然だろう。
なんたって、鏡に映っていたのは、俺が2時間かけてクリエイトした通りの、あのとびっきりの美少女の姿だったからである。
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