ギャルゲートオンライン ～最凶ジョブは女子高生～

プロローグ①

　俺の名は大熊茂、16歳。
　あの歴史上の偉人、大隈重信とは縁もゆかりもない、どこにでもいるような高校1年生だ。
　成績も運動も顔面偏差値も真ん中ぐらい。
　つまり、死のうが生きようが、世界に何の影響も与えそうにないただのポンコツ高校生、それが俺、大熊茂であるというわけだ。

　その俺の運命が180度変貌を遂げたのは、忘れもしない2019年4月29日土曜日のことだった。
　きっかけは、宅配便で届いた見慣れぬ段ボール箱。
「なんだこりゃ？　俺、アマゾンで何か注文したっけ？　ま、いいや。あて先はこの俺になってるし、よし、開けたろ」
　中に入っていたのは、黒いヘッドセットとゴーグル、そしてコントローラーである。
　いかにも最新式のゲーム機といった感じで、そのメタリックな重厚感がかっこいい。
「うひょひょひょ、これ、もらっちゃっていいの？」
　せっかくだから、試してみよう。
　どうせ明日からGWで、暇なんだし。
　ヘッドセットをかぶり、ゴーグルをつけ、適当にコントローラーのスイッチを入れると、画面いっぱいにロゴが浮かび上がった。
『ギャルゲートオンライン』
　かわいい女の子たちが欣喜雀躍、狂喜乱舞しているイラストつきである。
「ほお、もう、ゲームも入ってるじゃないか」
　俺はうれしくなった。
　これならわざわざこのマシンに対応するゲームソフトを探しに行かなくて済む。
　しかも、タイトルからしてギャルゲーっぽい。
　いや、でも、オンラインならMMOふうのRPGだろうか。
　どちらにせよ、俺の大好きなジャンルだ。
　イラストも趣味にあってるし、これ、いいかも。

　ログインボタンを押す。
　
　・ニューゲーム
　・ロードゲーム
　・コンフィグ
　・おまけ

　コマンドが現れた。
　迷わず『ニューゲーム』を選択する。

　－ようこそ、ギャルゲートオンラインの世界へー
　やわらかい女性の声が聞こえてきた。
　異世界に転生した時、最初に話しかけてくる女神様みたいな声である。
　－まず、キャラクターをクリエイトしてくださいー

　画面に現れたのは、女の子の顔だった。
　石膏像みたいに真っ白で、目も鼻も口もついていない。

　ほう。
　好きなタイプの女子キャラをつくって操作できるってわけか。
　こりゃ、ますますいいじゃんか。
「よおし、好みの顔をつくってやる」
　お気に入りのアイドル、グラドルの記憶を総動員し、そこに俺がひそかにあこがれる、クラス一の美少女、笹原杏里の要素をぶちこんでやった。
　杏里は隣の席に座っているクラスメイトで、頭も運動神経もたいして良くないが、顔とスタイルと性格のいい俺好みの少女である。
　高1でクラスが一緒になって、話をしたことはこれまで1度か2度しかない。
　でも、構うもんか。

　－フェイスの登録が完了しました。次は、ボディですー
「おお！」
　いきなり画面に女の子の裸が現れた。
　ぐりぐり視点を変えながら、カーソルであちこちをひっぱって、好き勝手に微調整を加えていく。

　バストはやはり90のＧカップはほしい。
　ヒップは88もあればいいだろう。
　ウェストは、まあ56くらいにしておくか。

　優に2時間を超える死闘の後、

　やった！　
　完成だ！

　俺は自分のつくり出した美少女のイメージの前に、感動の涙を流した。
　これぞ俺の理想の女の子。
　この子に生まれ変われるなら、もう、死んでもいい。　
　画面でポージングを決める少女は、それほどまでに愛らしく、適度にセクシーだ。

　－次は、所属する”学園”を決めてください。現在、仮想世界『イデア』を支配するのは、次のふたつの学園です。
　
　・聖アユタヤ学園

　・大東亜帝国学院

「はあ？　学園が世界を支配するって、それ、どういうこと？」

　俺は唖然とした。

　そして、この時初めて、感じたのだった。
　そう。
　背中がぞくぞくするような、得体の知れぬ嫌な予感を…。