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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#45 東の古墳
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翌朝。
ヒバナは、雲の低く垂れ込めた空を見上げてつぶやいた。
「やな天気だね。クトゥルーの霧が、こっちまで漂ってきたみたい」
「まだ、さすがにそれはないだろうが」
応えたのはレオンである。
レオンはお通夜の右肩に乗っている。
昨夜手術を終えたお通夜は、額にルビーのような宝石を光らせている。
ヒバナのつくった即席の戦闘服を身につけていた。
白いセーラー服タイプの上着に、同じく白のミニ丈のフレアスカート。
緋美子のマイクロミニやヒバナのショートパンツほど短くはないが、それでもいつもの彼女のファッションからは想像もつかないほどのセクシーさだ。
「つやちゃん、よく似合ってるよ」
お通夜の雄姿を眺めて、ヒバナはにっこり微笑んだ。
「ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいですけど、これで私も”戦さ乙女”の仲間入りですね」
お通夜がはにかむようにいった。
「俺はぜんぜんイケてると思うよ」
貢がお通夜を横目で見ながらいう。
「ミニスカートのお通夜って初めて見たけど、けっこうキテるって」
メンバーがこの伸縮自在の素材でつくった戦闘服を着るいちばんの理由は、変身が解けた後、全裸にならないようにするためである。
神獣に変身すると身体のサイズが変わるせいで、普通の服や下着では破れてしまうのだ。
ヒバナたち4人は、失踪中の丸山がかつてNASAに発注してくれた最新のナノカーボン製のコスチュームを身につけているのだが、新しく仲間になるお通夜の分はヒバナのお手製だった。
最初の頃はヒバナも緋美子もそうだったので、しばらくはこれで我慢してもらうしかなかった。
「調査の結果はメールで送っといたから、後で見ておいてくれ」
お通夜の横に立ち、ちゃっかりその手を握った貢がいった。
この2人と1匹は、これから『時じくの木の丘』に行き、ヒバナたちが各古墳からエネルギーを送るまで、待機することになっている。
「じゃ、行ってくるね」
ヒバナは手をひらひら振ると、公園の出口で待っている岩崎明日香の巨体のほうへと歩き出した。
「久しぶりだよね、ブッチャーとふたりきりなんて」
目的地があまりに近いため、ふたりは徒歩だった。
一本松古墳というのは、この白鶴公園の隣にある工業大学の敷地内に位置しているらしいのだ。
「まあな。最初、電車の中で出会ったとき以来かな」
大股で歩きながら、明日香が答える。
「すっごく昔のような気がするね。あれからまだ半年くらいしか経っていないのに」
ヒバナが彼女に出会ったのは、知多半島行きの電車の中だった。
明日香はプロレスの巡業中。
ヒバナは瀕死の重傷を負った緋美子を助けるために、豊玉姫を探している最中のことだった。
「その間に、ヒバナ、おまえ、立派な戦士に成長したよ」
明日香がいい、ヒバナの頭に大きな手を置いた。
温かくて分厚い、頼り甲斐のある手である。
「そうでもないんだけど」
ヒバナは明日香を見上げて照れたように笑った。
「でも、今は仲間が増えて本当に幸せだよ」
昨年の春。
ひとりで戦っていた頃のことを、ふと思い出したのだった。
『大学のキャンパスの七不思議?』
貢からのメールには、どこかのサイトからコピーしたらしい、そんな記事が添付されていた。
明日香とヒバナはちょうど大学の正門に辿り着いたところだった。
『いちばん最近のは、七番目の”浮遊する生首”。これが古墳の怪異じゃないかと思う。』
そう、貢は結んでいた。
「生首って、ガチで妖怪じゃないか」
明日香が苦笑する。
さすが大晦日だけに、門は閉まっていた。
「変身しとこうか」
ヒバナがいい、目を閉じると額の宝玉に精神を集中した。
明日香も左腕の玄武の腕輪のリングを回し、変身にとりかかる。
やがてふたりの周囲の大気が蠢動し、光を放ち始めた。
ふたつのシルエットが、見る間に大きくなる。
ヒバナの背中に翼が生え、明日香の背中には甲羅が出現した。
外観は人間のときとそれほど大きく変わらない。
が、身長は倍以上に伸びていた。
ヒバナの右腕に神剣、フツノミタマが実体化する。
左手には自在に伸縮する槍。
明日香が背中の甲羅をはずし、盾代わりに右手に装着した。
「ちょっと待ってて」
ヒバナは少し下がると助走をつけ、ふわりと宙に浮かび上がった。
そのまま門を越え、向こう側に降り立つと、南京錠を握りつぶしてかんぬきを引き抜き、扉を開けた。
「サンキュー」
明日香が中に入ってくる。
古墳はキャンパスの端、二つ目のグラウンドの隅にあった。
遠目には芝生に覆われたなだらかな丘にしか見えない。
「あれが私の古墳?」
「典型的な円墳だな。入口を探そう」
裏側に回ると、雑草の間に石に縁取られた四角い扉のようなものが見えてきた。
「吹っ飛ばす?」
「いいね」
ヒバナがむきだしの両腕を伸ばした。
90度の角度に、掌を立てる。
真っ赤な火球が生まれた。
両腕を大きく後方に引き、掌の中の火球を、ハンマー投げの要領でぶん投げた。
弧を描いて飛んだプラズマ火球が、石造りの蓋を粉砕した。
うおおおおん。
奇怪な咆哮が聞こえてきたのは、そのときだった。
ヒバナは、雲の低く垂れ込めた空を見上げてつぶやいた。
「やな天気だね。クトゥルーの霧が、こっちまで漂ってきたみたい」
「まだ、さすがにそれはないだろうが」
応えたのはレオンである。
レオンはお通夜の右肩に乗っている。
昨夜手術を終えたお通夜は、額にルビーのような宝石を光らせている。
ヒバナのつくった即席の戦闘服を身につけていた。
白いセーラー服タイプの上着に、同じく白のミニ丈のフレアスカート。
緋美子のマイクロミニやヒバナのショートパンツほど短くはないが、それでもいつもの彼女のファッションからは想像もつかないほどのセクシーさだ。
「つやちゃん、よく似合ってるよ」
お通夜の雄姿を眺めて、ヒバナはにっこり微笑んだ。
「ありがとうございます。ちょっと恥ずかしいですけど、これで私も”戦さ乙女”の仲間入りですね」
お通夜がはにかむようにいった。
「俺はぜんぜんイケてると思うよ」
貢がお通夜を横目で見ながらいう。
「ミニスカートのお通夜って初めて見たけど、けっこうキテるって」
メンバーがこの伸縮自在の素材でつくった戦闘服を着るいちばんの理由は、変身が解けた後、全裸にならないようにするためである。
神獣に変身すると身体のサイズが変わるせいで、普通の服や下着では破れてしまうのだ。
ヒバナたち4人は、失踪中の丸山がかつてNASAに発注してくれた最新のナノカーボン製のコスチュームを身につけているのだが、新しく仲間になるお通夜の分はヒバナのお手製だった。
最初の頃はヒバナも緋美子もそうだったので、しばらくはこれで我慢してもらうしかなかった。
「調査の結果はメールで送っといたから、後で見ておいてくれ」
お通夜の横に立ち、ちゃっかりその手を握った貢がいった。
この2人と1匹は、これから『時じくの木の丘』に行き、ヒバナたちが各古墳からエネルギーを送るまで、待機することになっている。
「じゃ、行ってくるね」
ヒバナは手をひらひら振ると、公園の出口で待っている岩崎明日香の巨体のほうへと歩き出した。
「久しぶりだよね、ブッチャーとふたりきりなんて」
目的地があまりに近いため、ふたりは徒歩だった。
一本松古墳というのは、この白鶴公園の隣にある工業大学の敷地内に位置しているらしいのだ。
「まあな。最初、電車の中で出会ったとき以来かな」
大股で歩きながら、明日香が答える。
「すっごく昔のような気がするね。あれからまだ半年くらいしか経っていないのに」
ヒバナが彼女に出会ったのは、知多半島行きの電車の中だった。
明日香はプロレスの巡業中。
ヒバナは瀕死の重傷を負った緋美子を助けるために、豊玉姫を探している最中のことだった。
「その間に、ヒバナ、おまえ、立派な戦士に成長したよ」
明日香がいい、ヒバナの頭に大きな手を置いた。
温かくて分厚い、頼り甲斐のある手である。
「そうでもないんだけど」
ヒバナは明日香を見上げて照れたように笑った。
「でも、今は仲間が増えて本当に幸せだよ」
昨年の春。
ひとりで戦っていた頃のことを、ふと思い出したのだった。
『大学のキャンパスの七不思議?』
貢からのメールには、どこかのサイトからコピーしたらしい、そんな記事が添付されていた。
明日香とヒバナはちょうど大学の正門に辿り着いたところだった。
『いちばん最近のは、七番目の”浮遊する生首”。これが古墳の怪異じゃないかと思う。』
そう、貢は結んでいた。
「生首って、ガチで妖怪じゃないか」
明日香が苦笑する。
さすが大晦日だけに、門は閉まっていた。
「変身しとこうか」
ヒバナがいい、目を閉じると額の宝玉に精神を集中した。
明日香も左腕の玄武の腕輪のリングを回し、変身にとりかかる。
やがてふたりの周囲の大気が蠢動し、光を放ち始めた。
ふたつのシルエットが、見る間に大きくなる。
ヒバナの背中に翼が生え、明日香の背中には甲羅が出現した。
外観は人間のときとそれほど大きく変わらない。
が、身長は倍以上に伸びていた。
ヒバナの右腕に神剣、フツノミタマが実体化する。
左手には自在に伸縮する槍。
明日香が背中の甲羅をはずし、盾代わりに右手に装着した。
「ちょっと待ってて」
ヒバナは少し下がると助走をつけ、ふわりと宙に浮かび上がった。
そのまま門を越え、向こう側に降り立つと、南京錠を握りつぶしてかんぬきを引き抜き、扉を開けた。
「サンキュー」
明日香が中に入ってくる。
古墳はキャンパスの端、二つ目のグラウンドの隅にあった。
遠目には芝生に覆われたなだらかな丘にしか見えない。
「あれが私の古墳?」
「典型的な円墳だな。入口を探そう」
裏側に回ると、雑草の間に石に縁取られた四角い扉のようなものが見えてきた。
「吹っ飛ばす?」
「いいね」
ヒバナがむきだしの両腕を伸ばした。
90度の角度に、掌を立てる。
真っ赤な火球が生まれた。
両腕を大きく後方に引き、掌の中の火球を、ハンマー投げの要領でぶん投げた。
弧を描いて飛んだプラズマ火球が、石造りの蓋を粉砕した。
うおおおおん。
奇怪な咆哮が聞こえてきたのは、そのときだった。
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