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第7部 ヒバナ、ハーレムクィーン!
エピローグ
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ゆっくりと、まるで潮が満ちるように、現実が周囲に立ち戻ってきた。
目を開ける。
見慣れた町並みが広がっていた。
何一つ、変わっていない。
化け物蜂も、ヤマタノオロチも、ツクヨミもいなくなっている。
「まさかの夢オチ?」
あっけにとられ、俺は無意識のうちにそうつぶやいていた。
町は完全に元のままである。
燃えてもいないし、壊れてもいない。
水浸しになってもいないのだ。
それに、舗道には人が、車道には車があふれていた。
植物化して蜂に食われたはずの人々が、普通に道を歩いている。
あれはぜんぶ夢だったのだ。
しかし、なんと人騒がせな夢だ。
これが小説だったら、読者が目を怒らせて怒り出すに違いない。
そこまで思ったとき、
「夢ではない」
先輩の声がした。
振り返ると、丸山先輩が立っていた。
その隣にいるのはヒバナだ。
ブッチャーも、ひずみも、緋美子もいる。
ヒバナたち3人は変身を解いていた。
「マジですか」
俺はいい、ヒバナの後ろに回った。
夢にまで見た、あこがれのお尻がそこにあった。
両手で覆うように、触ってみる。
「きゃ」
ヒバナが飛び上がった。
いい感触だった。
予想以上に熟している。
「こっちはどうかな」
緋美子のせり出した胸に手を伸ばしかけたとき、俺の腕をつかんでヒバナがいった。
「ひみちゃんにさわったら、殴るよ」
「ごもっともで」
俺は先輩に向き直った。
「どうやら夢ではないようです。ということは、どういうことですか」
「人間原理」
先輩が短くいった。
「それも、『超・強い人間原理」だ」
「ああ」
俺は納得した。
眼からウロコが落ちる思いだった。
だからあのとき、先輩はいったのか。
宇宙論を思い出せ、と。
「基盤を直してきた。だから、怪異が消えたんだ」
「『人間原理」って、『観測者である人間がいるから、宇宙が存在する』って、あれですか」
才媛の誉れ高い緋美子が、真っ先に反応した。
さすがだ。
才色兼備にもほどがあろうというものだ。
逆に、ヒバナと玉子はきょとんとしている。
なんだか、異国で迷子になった旅人といった表情で、先輩と緋美子を見つめている。
「そうだ。この宇宙は、元はと言えば単なる波動にすぎない。そこに意味を与えるのが、観測者である人間なんだ。今回の一連の事件は、その"観測者"の精神、すなわち"基盤"が不具合を起こしたことから始まった」
「観測者が、この近くにいるんですか?」
緋美子が疑わしそうに訊く。
俺も同じ思いだった。
観測者になるためには、世界のすべてを知っていなければならないのだ。
おいそれと、そのへんの人間がなれるものではないだろう。
が、事実は俺の予想のはるか斜め上を行っていた。
「彼が、そうだ」
先輩が指差したのは、物陰にぼうっと突っ立っている、ひとりの中年男性だった。
「店長! 今岡店長じゃないですか!」
ヒバナがうれしそうに叫んだ。
「大丈夫ですかあ、あー、よかったあ」
駆け寄って、飛びついた。
話の意味がまったくわかっていないらしい。
「あれは、喫茶『アイララ』の店長さん・・・。まさか、そんな」
緋美子がうわ言のようにつぶやいた。
「彼が、現在の観測者だ。何代目になるのか、私にもわからないがね」
「この世界は、深夜喫茶の店長がつくったもの、ってことですか」
さすがに俺も驚かざるをえなかった。
普通、観測者の役を担うのは、世界的な数学者とかチベットの最高位のラマ僧とか、そういう人なのではないのか。
もちろん、喫茶店の店長が観測者であってはいけないという法律はないだろうが、しかし、それにしても、である。
「たぶん、ヒバナとの出会いが彼の観測者人生を狂わせたんじゃないかな。ま、これは予測にすぎないがね」
先輩がいった。
俺はぼんやりと、店長の手を取って喜ぶヒバナを眺めた。
そして、思った。
お尻が世界を狂わすこともある、と。
目を開ける。
見慣れた町並みが広がっていた。
何一つ、変わっていない。
化け物蜂も、ヤマタノオロチも、ツクヨミもいなくなっている。
「まさかの夢オチ?」
あっけにとられ、俺は無意識のうちにそうつぶやいていた。
町は完全に元のままである。
燃えてもいないし、壊れてもいない。
水浸しになってもいないのだ。
それに、舗道には人が、車道には車があふれていた。
植物化して蜂に食われたはずの人々が、普通に道を歩いている。
あれはぜんぶ夢だったのだ。
しかし、なんと人騒がせな夢だ。
これが小説だったら、読者が目を怒らせて怒り出すに違いない。
そこまで思ったとき、
「夢ではない」
先輩の声がした。
振り返ると、丸山先輩が立っていた。
その隣にいるのはヒバナだ。
ブッチャーも、ひずみも、緋美子もいる。
ヒバナたち3人は変身を解いていた。
「マジですか」
俺はいい、ヒバナの後ろに回った。
夢にまで見た、あこがれのお尻がそこにあった。
両手で覆うように、触ってみる。
「きゃ」
ヒバナが飛び上がった。
いい感触だった。
予想以上に熟している。
「こっちはどうかな」
緋美子のせり出した胸に手を伸ばしかけたとき、俺の腕をつかんでヒバナがいった。
「ひみちゃんにさわったら、殴るよ」
「ごもっともで」
俺は先輩に向き直った。
「どうやら夢ではないようです。ということは、どういうことですか」
「人間原理」
先輩が短くいった。
「それも、『超・強い人間原理」だ」
「ああ」
俺は納得した。
眼からウロコが落ちる思いだった。
だからあのとき、先輩はいったのか。
宇宙論を思い出せ、と。
「基盤を直してきた。だから、怪異が消えたんだ」
「『人間原理」って、『観測者である人間がいるから、宇宙が存在する』って、あれですか」
才媛の誉れ高い緋美子が、真っ先に反応した。
さすがだ。
才色兼備にもほどがあろうというものだ。
逆に、ヒバナと玉子はきょとんとしている。
なんだか、異国で迷子になった旅人といった表情で、先輩と緋美子を見つめている。
「そうだ。この宇宙は、元はと言えば単なる波動にすぎない。そこに意味を与えるのが、観測者である人間なんだ。今回の一連の事件は、その"観測者"の精神、すなわち"基盤"が不具合を起こしたことから始まった」
「観測者が、この近くにいるんですか?」
緋美子が疑わしそうに訊く。
俺も同じ思いだった。
観測者になるためには、世界のすべてを知っていなければならないのだ。
おいそれと、そのへんの人間がなれるものではないだろう。
が、事実は俺の予想のはるか斜め上を行っていた。
「彼が、そうだ」
先輩が指差したのは、物陰にぼうっと突っ立っている、ひとりの中年男性だった。
「店長! 今岡店長じゃないですか!」
ヒバナがうれしそうに叫んだ。
「大丈夫ですかあ、あー、よかったあ」
駆け寄って、飛びついた。
話の意味がまったくわかっていないらしい。
「あれは、喫茶『アイララ』の店長さん・・・。まさか、そんな」
緋美子がうわ言のようにつぶやいた。
「彼が、現在の観測者だ。何代目になるのか、私にもわからないがね」
「この世界は、深夜喫茶の店長がつくったもの、ってことですか」
さすがに俺も驚かざるをえなかった。
普通、観測者の役を担うのは、世界的な数学者とかチベットの最高位のラマ僧とか、そういう人なのではないのか。
もちろん、喫茶店の店長が観測者であってはいけないという法律はないだろうが、しかし、それにしても、である。
「たぶん、ヒバナとの出会いが彼の観測者人生を狂わせたんじゃないかな。ま、これは予測にすぎないがね」
先輩がいった。
俺はぼんやりと、店長の手を取って喜ぶヒバナを眺めた。
そして、思った。
お尻が世界を狂わすこともある、と。
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