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第3部 ヒバナ、デッド・オア・アライブ!

#6 レイナ

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『聖ソフィアの会』のオフィスはここ那古野市でも一等地にあたる栄のしゃれたビルの13階にあり、水島光男を驚かせた。もっと怪しげな店を予想していたのである。
 そしてもっと驚きだったのが、会長のレイナだった。メールに添付されていた動画はどうせ宣伝用のものであり、実際そんな美人なんていないだろうと高をくくっていたら、予想をはるかに上回る美女が目の前に現れたのである。
「私がこの『聖ソフィアの会』の会長、レイナです」
 広いオフィスのソファに光男を導くと、形のいい口元に笑みを浮かべてレイナが言った。
 小づくりの顔に艶のある長いストレートの黒髪。目は大きく、吸い込まれそうになるくらい瞳の色が深い。
 夏らしく、黒地のタンクトップにグレーのタイトミニといったラフなかっこうをしていた。20代後半だろうか、それにしても日本人離れした美貌と美ボディと美脚の持ち主だった。
 それからの面接の内容を、光男はほとんど覚えていない。
 対面のソファに深々と腰掛けたレイナが気になってならなかったのだ。
 襟ぐりの深いタンクトップからは豊かなバストがこぼれ落ちんばかりに半ばのぞいているし、レイナが長い脚を組みかえるたび、極端に短いスカートの中がちらちらと見えてしまう。5分と経たないうちに光男は全身が性感帯と化してしまったような気分になり、まったく話の内容が頭に入らなかったのだった。
 ただ、かろうじて仕事の内容だけは理解できた。
 どうやらこの『聖ソフィアの会』は、霊力のあるアクセサリのネット通販を商売としているらしく、会長のレイナは霊能力者か霊媒師みたいなもので、何の変哲もない安物の指輪やネックレスにユーザーの注文にあわせた霊力を注入することを主な仕事としているようだった。光男にはオーダーの種分けとそのアクセサリ類の発送をやってもらいたい、というのだ。
 PCの画面を見せてもらうと、そこにはおびただしい数の注文があり、またしても光男を驚かせた。一日分で優に千件を超えるアクセスが来ているのだ。
 しかもオーダーには『幸運』と『呪い』の二種類あり、最近は『呪い』の注文のほうが多いのだ、とまんざら冗談でもなさそうな口調でレイナは説明した。
「ついこの前までお手伝いの子がいたんですけど、病気で来られなくなってしまって、それで困ってたんです」
 一通り質問を終えたところで、長い髪をかきあげ、レイナが言った。
「あ、あの、どうして、ぼ、僕なんですか?」
レイナの大人の女オーラに幻惑されながら、やっとのことで光男はいちばんの疑問を口にした。
 このアルバイト、時給はけっこういいから、応募者は多かったはずである。
 採用枠の若干名に自分のようなろくでなしがひっかかる理由がわからなかった。
 レイナが、野生の猫を思わせる切れ長の目でいたずらっぽく光男を見つめる。
「さあ、勘、かしら。商売柄、私の勘ははずれたことがないの。それに、今会ってみて、あなた、真面目そうな青年だとわかったし、何の問題もないわ」
「あ、ありがとうございます」
「交渉成立ね」
 にっこり微笑み、レイナがソファから腰を上げると、軽く伸びをした。
 そのときになって光男は、レイナがノーブラであることに気づき、ますます赤くなった。豊かにふくらんだ黒いタンクトップの胸の部分には、明らかに乳首とわかる突起が浮き出ている。
「勤務は明日からってことでいいかしら。あ、それから、お近づきのしるしに、と言っては何ですけど、これ、差し上げます。うちの店のヒット商品『幸運を呼ぶイヤリング』。恋人にあげたらどうかしら? 
二人の仲がぐっと近くなること請け合いよ。たぶん、あなた、私のこと詐欺師か何かと思ってるでしょうから、一度試してみて。自分の仕事に自信がもてなければ、いくらアルバイトでも、やってられないもの。そうでしょう?」
 下半身の中心が焼けた鉄のように熱くなり、立てないでいる光男の手に、レイナがかわいらしい青の模造宝石がついたイヤリングを二つ、握らせた。さらさらの髪が光男の頬をくすぐり、麝香の匂いのする吐息が耳にかかる。思わずうつむくと、視界に刺激的な光景が飛び込んできた。レイナがかがんだせいで、タンクトップの襟元が大きく開き、形よく上を向いた真っ白な裸の乳房と二つの薄ピンク色の乳首、そしてまったく贅肉のない、よく引き締まった平らな下腹あたりまでが丸見えになっているのだ。
 抑えきれず、光男は硬直状態で座ったまま、下着の中に射精した。
 耳元で、レイナがかすかに笑ったようだった。
                ◇
 イオンのトイレで新しく買った下着に履き替え、大急ぎでフードーコートに駆け込むと、ヒバナはすでに窓際の席に腰を下ろしていて、ぼんやりと外に視線を向けていた。
 初対面の女を見て、特に何かされたわけでもないのに射精してしまったという後ろめたさは相当のものだったが、光男は懸命に平静を取り繕い、努めて明るく少女に声をかけた。
「あ、光男君、元気してた?」
 ヒバナが片手をひらひらさせて笑う。
 だが、なんとはなしに声に張りがなく、顔色もすぐれない。
「どうしたの? なんか元気ないね」
 向かい側に腰を下ろし、光男が訊くと、
「うん、ちょっと、ペットっていうか、相棒がいなくなっちゃってさ」
「猫か犬、飼ってるの?」
「んー、カメレオンなんだけどね」
「カメレオンって、あのトカゲみたいなやつ?」
「そう。レオンって言うんだけどさあ」
「さすがヒバナちゃん。変わってる」
 光男が笑うと、ヒバナは泣き笑いのような表情を顔に浮かべ、
「だよねえ」
と相変わらず覇気がない。
「あ、そういえばさ」
 コーラを一息に飲み干し、自分に気合を入れると光男は話題を変えた。
 レイナとの出来事を早く忘れてしまいたい、という焦りも手伝っていた。
「この前、ヒバナちゃん、なんか、変身してたよね。僕、ずっと気になってたんだけど、あれって、どうやったの? ワイヤーアクションとか、そういうの?」
「あ、あれ」
 ヒバナの視線が泳いだ。
 言おうかどうしようか、明らかに迷っているようだ。
「特にそういうのじゃなくて・・・わたし、特異体質っていうか、たまに竜になっちゃうときがあるの」
「竜? ってそれ、すごいな」
 疑いを挟むことなく、素直に感心する光男。
 確かに、言われてみると、あのときのヒバナのコスチュームはちょっと竜っぽかった、と思う。
「時々ね、あっちの世界からああいうヘンなものが出てくるときがあるの。そういうのって、誰かが退治しないと大変なことになるじゃない」
「それで、ヒバナちゃんが竜に変身して・・・?」
「そう。でも、そのこと、あんまり追求しないでほしいんだ」
 ヒバナがテーブルの上に目を落とす。
「何から説明していいか、わからないし、そもそも、こんな話、誰も信じないだろうし」
「・・・そうか。ま、君が言いたくないのなら、無理には訊かないよ」
 光男は笑った。
 あれは、光男の見間違いだったのかもしれない。
 あるいは、本当にあった出来事なのかもしれない。
 だが、そんなのどちらでもいいではないか。
 ふとそう思ったのだ。
 大事なのは、ヒバナと一緒にいると自分がすごく落ち着いた気分になれるということだ。
 その意味で、ヒバナはあのレイナとは対極の存在であると言えた。
 この出会いを大切にしたいと思う。
 光男は目の前の小柄な少女を見つめた。
 そして、はたして僕はこの子にふさわしい男になれるだろうか、と真剣に考え始めている自分に気づいて、ハっとなった。
 
結局、その日のデートは沈みこんだヒバナのせいでほとんど盛り上がることがなかったが、光男はかろうじて、『幸運を呼ぶイヤリング』をヒバナに渡すことだけは成功した。
「うわー、こんなかわいいの、わたしもらっていいの?」
 そのときだけは一瞬瞳を輝かせたヒバナだったが、やがて唐突にスマホが鳴ると、
「え? ミミちゃんの居所が? うん、わかった。すぐ行く」
と叫び、
「ごめん。急用できちゃった。また連絡する!」
そう言い残して雑踏の中へ飛ぶように駆けて行ってしまった。
 その後姿を見送りながら、光男はふと、レイナとヒバナを比べている自分に気づき、またしてもひどくう後ろめたい気分に陥った。
 レイナのことを思い浮かべたせいか、下半身の一部が、また硬くなってきていた。
 オレ、いったいどうしちゃったんだ?
 これじゃ、まるで色魔じゃないか・・・。
 そのとき、どこか遠くで、レイナの笑い声がかすかに聞こえた気がした。
 
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