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第2部 ヒバナ、フィーバードリーム!

#19 出撃!

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 画面狭しと暴れ回っているのは、あろうことか、とほうもなく大きな蟹だった。

 5階建てのビルほどもある、真っ赤な甲羅の蟹である。

 右のハサミが大きく、左のハサミはサイズこそ小さいが、鋭い錐状に尖っている。

 その怪物蟹が、建物や高速道路の高架を壊しながら、街なかを地響きを立てて進んでいる。

『金城ふ頭から姿を現した巨大生物は、築地口方面から北上を開始し、現在熱田区6番町を北に向かって移動中』

 ニュース解説者の声が映像に重なるが、さすがに驚愕の色は隠せないようだ。

『内閣は早速閣議に入り、自衛隊の出動を検討中ですが、なにぶん街中のため、武器の使用は不可能との見方が強まっています』

「なんだあ、ありゃあ」

 湿布をはがして、塊が飛び起きた。

「かに道楽の看板が動き出したとでもいうのか?」

「根の国の侵攻が、本格的に始まったのさ」

 床からテレビ画面を見上げて、レオンがぼそりと言った。

「おまえも使い魔を手に入れた以上、雑魚となら、何度か戦ったことがあるだろう」

「まあな。頼子の仇だと思って、見つけるはなから妖怪は退治してきたつもりだが…あんなでかいのは初めてだ」

「ねえ、誰か乗ってるよ」

 ひずみが言って、画面を指さしてみせた。

 目を凝らして見ると、なるほど、蟹の甲羅に透明なコクピットみたいなものがせり出していて、その中に人影がある。

「あ、これって、あいつじゃない?」

 ヒバナは声を上げた。

「ほら、死天王のひとりで、バイクに乗ってた」

「シンとか言ったな」

 レオンが応じた。

「ってことは、これは俺たちへの挑戦か」

「あー、それに、まずいよ。このコース」

 あることに思い至って、ヒバナは悲鳴を上げた。

「どうしたの?」

 ミミがこうべをめぐらせる。

「このまま行くと、大猫観音でしょ。うちのアパート、ちょうど進行方向なんだけど」

「おまえを狙ってるのかもしれないな。ここは結界の中なんで探知できないから、とりあえず実家を襲おうというわけだ」

「お母さんが大変。きょうは非番だからきっとおうちで寝てるもの」

 ヒバナの母、薫は介護福祉士だ。

 勤務が不規則だから、休日は疲れて一日中寝ていることが多い。

「仕方ない。行くか」

 レオンがヒバナの肩に飛び乗った。

「早速だが、塊、出番だ」

「はあ? この化け物蟹と戦えっていうのかよ?」

「大丈夫だ。ヒバナもいるし、ひずみとミミは強力なヒーラーだ」

「その物静かな使い魔は、何かの足しになるのかい?」

 ひずみの首に巻き付いたミミが、塊の肩に止まったフクロウのほうに頭を振って、疑わしそうに言う。

「ああ、こいつは俺の守り神なんだ。十分役に立ってるよ」

 塊がよっこらせとばかりに腰を上げた。

「まあいい。うさ晴らしに、久しぶりに暴れてやるか」

 大きく伸びをして、言った。

「みんな、来い。俺が車を出してやる」



 

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