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「いやあ、うれしいねえ」
心底幸せそうに、源さんが言った。
「この歳になって、こんなかわいい子と将棋を指せるなんてねえ」
将棋。
そうなのだ。
久保が言ってた捜査情報の見返り。
それは、この杉田源内なるオッサンの、将棋の相手になることだったのである。
源さんは、60歳を超えたばかりの、ちょっと小太りの県警鑑識嘱託職員。
丸眼鏡の似合う、どこかやさしげなオッサンである。
『アバタ―』とゴリラをかけて二倍したようなあたしの顔を見て、驚きもしないのはさすがだった。
人間、このくらいの歳になると、超絶ドブスの顏くらいではビビらないという証拠なのかもしれない。
源さんが平日の明るいうちから在宅している理由は、すぐにわかった。
正規の職員ではなく再雇用の嘱託であるため、緊急の呼び出しがなければ週3日ほどの出勤で済んでしまうのだ。
「まあ、定年までずっとヒラだったからね、嘱託といってもパートみたいなもんなのよ」
苦笑する源さんだったがー。
その割に最新の捜査情報に精通しているのは、今でも元同僚や刑事たちからの信頼が厚く、色々なことが自然と耳に届いてくるからだという。
あたしたちは緑に囲まれた庭に面した10畳ほどの和室に居て、源さんと久保が将棋盤を挟み、対峙している。
『飛車角落とし』というらしく、久保の陣営には最初から飛車と角がない。
これで勝負になるのかと思いきや、見かけによらず久保はめちゃ強いらしく、ほぼ互角の戦いである。
源さんに言わせると、久保はああ見えて、女流プロを目指してもいいくらいの腕前なのだという。
「それで源さん、捜査のその後の様子はどうなんですか?」
早くも長考し始めたオッサンに向かって、余裕綽々の口調で久保が切り出した。
「そろそろ、残留精液のDNA鑑定の結果、出てるはずですよね。ひょっとして、犯人の目星もついちゃってるとか?」
「待ってよ亜美ちゃん」
薄くなり始めた頭を掻いて源さんが苦笑した。
「そんな極秘事項、ボクが素人の君たちに話すと思ってるの?」
心底幸せそうに、源さんが言った。
「この歳になって、こんなかわいい子と将棋を指せるなんてねえ」
将棋。
そうなのだ。
久保が言ってた捜査情報の見返り。
それは、この杉田源内なるオッサンの、将棋の相手になることだったのである。
源さんは、60歳を超えたばかりの、ちょっと小太りの県警鑑識嘱託職員。
丸眼鏡の似合う、どこかやさしげなオッサンである。
『アバタ―』とゴリラをかけて二倍したようなあたしの顔を見て、驚きもしないのはさすがだった。
人間、このくらいの歳になると、超絶ドブスの顏くらいではビビらないという証拠なのかもしれない。
源さんが平日の明るいうちから在宅している理由は、すぐにわかった。
正規の職員ではなく再雇用の嘱託であるため、緊急の呼び出しがなければ週3日ほどの出勤で済んでしまうのだ。
「まあ、定年までずっとヒラだったからね、嘱託といってもパートみたいなもんなのよ」
苦笑する源さんだったがー。
その割に最新の捜査情報に精通しているのは、今でも元同僚や刑事たちからの信頼が厚く、色々なことが自然と耳に届いてくるからだという。
あたしたちは緑に囲まれた庭に面した10畳ほどの和室に居て、源さんと久保が将棋盤を挟み、対峙している。
『飛車角落とし』というらしく、久保の陣営には最初から飛車と角がない。
これで勝負になるのかと思いきや、見かけによらず久保はめちゃ強いらしく、ほぼ互角の戦いである。
源さんに言わせると、久保はああ見えて、女流プロを目指してもいいくらいの腕前なのだという。
「それで源さん、捜査のその後の様子はどうなんですか?」
早くも長考し始めたオッサンに向かって、余裕綽々の口調で久保が切り出した。
「そろそろ、残留精液のDNA鑑定の結果、出てるはずですよね。ひょっとして、犯人の目星もついちゃってるとか?」
「待ってよ亜美ちゃん」
薄くなり始めた頭を掻いて源さんが苦笑した。
「そんな極秘事項、ボクが素人の君たちに話すと思ってるの?」
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