あばたとえくぼの異界怪奇事件帳

戸影絵麻

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「松島君でもスタバ、来るんだね」
 無理やり呼び寄せたツシマに、久保が言った。
「草」
 鬼太郎みたいな前髪の間からチラっと久保を見、ツシマが答えた。
 草だと?
 にらんでやった。
 なんなんだ、こいつ。 
 けど、久保は相変わらずのマイペースだった。
「あのさ、松島君を男子代表だと思って、ひとつ訊きたいことがあるの」
 こいつが男子代表?
 眼を剥くあたしにかまわず、
「そう、松島君を男の中の男と見込んでね」
 久保は令和のジェンダー平等の理念などどこへやら、ひと昔前の精神論みたいなことをぶちかます。
 対馬は世田谷の廃ビル群の中でタヌキの群れに出くわした警備員のオッサンみたいな顔できょとんとしている。
 無理もない。
 どう考えてもこいつ、男子代表、男の中の男って柄じゃないのだ。
「ここだけの話だけど、松島君、オナニーってする?」
 だは。
 あたしはのけぞった。
 おい、久保。
 天使の顔して、いきなりそれかよ。
「定期」
 ややあって、ツシマが答えた。
 さすがに目を伏せ、髪の間から覗く耳を真っ赤にしている。
「そっかー。若いからまだ、我慢できないんだね」
「残当」
「そっかそっかー」
 草とか定期とか残当とか、あたしにはまったくもって、意味不明の会話である。
「じゃあさあ、どんなやり方してるのかなあ。亜美だけにこっそり教えてくれない?」
 妖婦の笑みを浮かべたサキュバスと化し、久保がツシマの手を取った。
「サンガツ」
 久保の指にひと撫でされて、ツシマの手の甲に震えが走るのが見て取れた。
 



 
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