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ACT9 殲滅! 人肉工場

#1 アリア①

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 ハルがポメラリアンをガレージに入れると、アリアは一目散に外へと飛び出した。
 シャッターの下りた外観に変化はない。
 柱のボタンを押し、中に飛び込んでみたが、どうやら1階部分は元のままのようである。
 リコのトレーニングマシンやレスリングかボクシング用のマットがあるだけだからだ。
 だが、2階に上がると、そこはアリアの夢見たおとぎの世界と化していた。
 ピンクの壁紙。
 毛足の長い、ワインレッドのカーペット。
 天井の照明も取り替えられ、シャンデリアみたいに煌々と輝いている。
 急いで自分の部屋に行ってみた。
「わあ、すごおおい!」
 あの殺風景だった部屋が、今はいかにもアリアにふさわしい可愛らしい雰囲気の空間に様変わりしていた。
 かわいい家具にたくさんのぬいぐるみ。
 クローゼットにはアリアの選んだおびただしい服。
 もちろん、学ランの替えもある。
 そして、衣装ダンスを埋め尽くす色とりどりの下着。
 可愛いのも、セクシーなのも、色々だ。
 これは必要度が不明だが、ハルが注文したのだろう、一応勉強机まであった。
 欠けているものといえば、ゲームコーナーで取り損ねたスナメリのぬいぐるみくらいなものだ。
 満足して、隣の部屋をのぞくと、ハルがヘッドセットを頭に装着して、床に胡坐をかいていた。
 こちらはアリアの部屋とは対照的に、ひどく無機質なインテリアで統一されている。
 何台ものデスクトップパソコン。
 そのほか、正体不明の機械たち。
 モノトーンで統一された部屋の中は、まるで宇宙船の操縦室みたいだ。
 ハルはモニター画面を見つめたまま、アリアのほうを振り向こうともしない。
 仕方なく、更にその隣のリコの部屋ものぞいてみることにした。
「あれえ? このお部屋は、あんまり変わっていないんですね?」
 相変わらずのガランとした部屋の様子に、アリアは小首をかしげた。
「下着と服だけは異様に増えた」
 ベッドに寝転んだリコが、衣装ダンスのほうを顎でしゃくってみせた。
「ハルがきわどいのばかり、めちゃくちゃ買い込んだらしい」
「わあ、いいですね。見たいなあ、リコさまが新しいお洋服や下着つけてるとこ」
「さっき、マネージャーから連絡がきた。明日、グラビアの撮影が入ったらしい。よかったら来な」
「えー! いいんですかあ?」
 アリアは思わずぴょんとひと跳ねした。
「静かにしてるならかまわないさ。ただ、おまえまでモデルにされても知らないぞ」
「うはあ、そうなったら本望ですぅ」
 リコさまと一緒にグラビアを飾る?
 水着はまだ早いけど、でも、それが芸能界デビューのきっかけになるのなら…。
「それより、気分はどうだ? 吐き気は収まったのか?」
 リコに指摘され、アリアは記憶の隅に押しやっていた苦い経験を思い出した。
 ううっ。
 吐き気が込み上げてきた。
 ハルの台詞が耳によみがえる。
「うえーん、どうしましょう? その、ブイヨンだか、プリンだかのせいで、アリアの脳みそが穴だらけになっちゃったら?」
「プリオンだろ? まあ、いいんじゃないの? どうせおまえの記憶、はじめっから穴だらけなわけだしさ」
「わあ、リコさままでそんなこと言っていじめるんだあ」
 取り乱しかけた時、隣からハルの声がした。
「ふたりとも、そこにいるならすぐにこっちに来い。帝国に関して、興味深い事実を発見した」





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