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ACT4 同棲
#2 リコ①
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水底から水面に浮かび上がるように、ぽっかりと意識が戻ってきた。
まず、視界に入ってきたのは、見慣れた部屋の天井である。
半年ほど前、イオと出会ったことがきっかけになり、祖母と暮らした家を出た。
その時、家を売り払った金で買ったのが、このアトリエだ。
持ち主だった老画家が死に、安く売りに出ていたのを荒巻卓のつてで知り、更に値切って手に入れたのだ。
1年前の祖母の死は、リコの精神に重い影を落としていた。
そこから早く這い上がりたかったし、人を超える力を手に入れてしまった以上、身を隠す場所が必要だった。
そうして半年間、仕事で外に出向く時以外は、ほとんど隠遁生活を送るように、ここでひっそり暮らしてきたリコだったのだが…。
また、面倒に巻き込まれてしまった。
その感が、強い。
朝っぱらからの怪獣退治に続き…。
ハルとアリア。
あのふたりに正体を知られてしまったのも大きな誤算だったし、その後のあの騒動ときたら…。
腸詰帝国。
そして、デウス・エクス・ヴァギナなる珍妙な女怪人。
あれはいったい、なんだったのか。
あのモンゴリアン・デスワームみたいな地底怪獣と、何かつながりがあるのだろうか。
共通点は、ある。
どちらも、アリアを狙っていたということだ。
あのゴスロリ少女、ただの記憶喪失の家出娘とは思えない。
それに、ハル。
宇宙刑事というのは、本当なのか。
確かにハルは、華奢な外見に似合わず、人間離れした身体能力の持ち主だ。
左手首に装着したあの電撃ブレスレットも侮れない。
でも、それだけで宇宙刑事だなどと信じていいものか。
だいたいこの宇宙に、銀河帝国などというものが存在するとは、とても思えない。
あまりに陳腐すぎて、そんなの今時、SF小説にだって出てこないに違いない。
天井を見上げながら、そんなことにつらつら思いを巡らせていた時だった。
ふいにドアが開き、黒ずくめのハルが戸口に姿を現した。
「起きたか?」
椅子を引き寄せて、少し離れたところに座るハル。
ハルが元のリクルートスーツ姿に戻っているのを見て、リコは正直ほっとした。
またあのSM女王のコスチュームで現れたら、正気を保っていられるか、自信がなかったからである。
「ああ。家まで運んでくれたんだな。ありがとう、礼を言う」
ハルの視線をまっすぐ受け止めるのが怖くて、リコは枕に頬をつけてそう言った。
怪人とともに戦ったことより、その前にハルにされたことの記憶のほうが鮮明だ。
思い出すだけで躰の芯が疼き、顔が熱くなってくる。
「礼には及ばない。わたしとアリアは、しばらくここで暮らすことにした。部屋は余っているようだし、おまえもひとりで寂しそうだ。もちろん、家賃や生活費は二人分、わたしが払う。それでいいか?」
ハルがあまりに淡々としゃべるので、その意味が頭に染み込んでくるのに、かなり時間がかかった。
「なんだって?」
ようやく事態を認識して、リコは飛び起きた。
「おまえたちふたりが、ここに住む?」
「ああ、悪くない提案だろう」
「確かにここに連れ帰ってくれとは頼んだが…うちは、そんなことまで許可した覚えはないぞ」
リコは混乱していた。
そんな無茶な。
ただでさえ人付き合いが苦手だというのに、謎の人物ふたりと同居だと?
どうしてそういうことになったのか、まったくもってわけがわからない。
「それはそうだろう。おまえは今までずっと寝ていたのだし。だから今、事後承諾を取っている。ちなみに、わたしがこの隣の部屋を、アリアがいちばん奥の部屋を使わせてもらうことにした」
「勝手に決めるな。うちは、ひとりで暮らすのが好きなんだよ!」
「そうかな」
ハルが立ち上がった。
立ち上がったと思ったら、手を伸ばして、いきなりリコの掛け布団をはぎとった。
「あ」
自分が、全裸の上にバスローブを着せられているだけなのに気づいて、リコは真っ赤になった。
気を失っている間に、着替えさせられたのだ。
誰に?
もちろん、目の前のハルがやったに決まっている。
「おまえの躰、一応、ざっとお湯で湿らせたタオルで拭いておいた。あちこちが、汗や体液で汚れていたからな。後できちんと風呂に入って洗うがいい。わたしとしても、その躰にはまだ訊きたいことが色々ある」
「な、なにを…」
あわててバスローブの前をかき合わせた。
ただ見られているだけなのに、顔だけでなく、全身が火照ってくる。
「おまえも、まだ足りないだろう?」
眼鏡の奥のハルの瞳に、得体の知れぬ炎がともった。
「ち、ちがう…」
それが答えになるとわかっているのに、思わず顔を背けてしまった。
「まあ、焦るな。夜まで待て。アリアが寝静まるまで」
催眠術のようなハルの言葉に、リコは肩をびくりと震わせた。
太腿の内側に、ふいにぬるりとした熱いものを感じたからだった。
まず、視界に入ってきたのは、見慣れた部屋の天井である。
半年ほど前、イオと出会ったことがきっかけになり、祖母と暮らした家を出た。
その時、家を売り払った金で買ったのが、このアトリエだ。
持ち主だった老画家が死に、安く売りに出ていたのを荒巻卓のつてで知り、更に値切って手に入れたのだ。
1年前の祖母の死は、リコの精神に重い影を落としていた。
そこから早く這い上がりたかったし、人を超える力を手に入れてしまった以上、身を隠す場所が必要だった。
そうして半年間、仕事で外に出向く時以外は、ほとんど隠遁生活を送るように、ここでひっそり暮らしてきたリコだったのだが…。
また、面倒に巻き込まれてしまった。
その感が、強い。
朝っぱらからの怪獣退治に続き…。
ハルとアリア。
あのふたりに正体を知られてしまったのも大きな誤算だったし、その後のあの騒動ときたら…。
腸詰帝国。
そして、デウス・エクス・ヴァギナなる珍妙な女怪人。
あれはいったい、なんだったのか。
あのモンゴリアン・デスワームみたいな地底怪獣と、何かつながりがあるのだろうか。
共通点は、ある。
どちらも、アリアを狙っていたということだ。
あのゴスロリ少女、ただの記憶喪失の家出娘とは思えない。
それに、ハル。
宇宙刑事というのは、本当なのか。
確かにハルは、華奢な外見に似合わず、人間離れした身体能力の持ち主だ。
左手首に装着したあの電撃ブレスレットも侮れない。
でも、それだけで宇宙刑事だなどと信じていいものか。
だいたいこの宇宙に、銀河帝国などというものが存在するとは、とても思えない。
あまりに陳腐すぎて、そんなの今時、SF小説にだって出てこないに違いない。
天井を見上げながら、そんなことにつらつら思いを巡らせていた時だった。
ふいにドアが開き、黒ずくめのハルが戸口に姿を現した。
「起きたか?」
椅子を引き寄せて、少し離れたところに座るハル。
ハルが元のリクルートスーツ姿に戻っているのを見て、リコは正直ほっとした。
またあのSM女王のコスチュームで現れたら、正気を保っていられるか、自信がなかったからである。
「ああ。家まで運んでくれたんだな。ありがとう、礼を言う」
ハルの視線をまっすぐ受け止めるのが怖くて、リコは枕に頬をつけてそう言った。
怪人とともに戦ったことより、その前にハルにされたことの記憶のほうが鮮明だ。
思い出すだけで躰の芯が疼き、顔が熱くなってくる。
「礼には及ばない。わたしとアリアは、しばらくここで暮らすことにした。部屋は余っているようだし、おまえもひとりで寂しそうだ。もちろん、家賃や生活費は二人分、わたしが払う。それでいいか?」
ハルがあまりに淡々としゃべるので、その意味が頭に染み込んでくるのに、かなり時間がかかった。
「なんだって?」
ようやく事態を認識して、リコは飛び起きた。
「おまえたちふたりが、ここに住む?」
「ああ、悪くない提案だろう」
「確かにここに連れ帰ってくれとは頼んだが…うちは、そんなことまで許可した覚えはないぞ」
リコは混乱していた。
そんな無茶な。
ただでさえ人付き合いが苦手だというのに、謎の人物ふたりと同居だと?
どうしてそういうことになったのか、まったくもってわけがわからない。
「それはそうだろう。おまえは今までずっと寝ていたのだし。だから今、事後承諾を取っている。ちなみに、わたしがこの隣の部屋を、アリアがいちばん奥の部屋を使わせてもらうことにした」
「勝手に決めるな。うちは、ひとりで暮らすのが好きなんだよ!」
「そうかな」
ハルが立ち上がった。
立ち上がったと思ったら、手を伸ばして、いきなりリコの掛け布団をはぎとった。
「あ」
自分が、全裸の上にバスローブを着せられているだけなのに気づいて、リコは真っ赤になった。
気を失っている間に、着替えさせられたのだ。
誰に?
もちろん、目の前のハルがやったに決まっている。
「おまえの躰、一応、ざっとお湯で湿らせたタオルで拭いておいた。あちこちが、汗や体液で汚れていたからな。後できちんと風呂に入って洗うがいい。わたしとしても、その躰にはまだ訊きたいことが色々ある」
「な、なにを…」
あわててバスローブの前をかき合わせた。
ただ見られているだけなのに、顔だけでなく、全身が火照ってくる。
「おまえも、まだ足りないだろう?」
眼鏡の奥のハルの瞳に、得体の知れぬ炎がともった。
「ち、ちがう…」
それが答えになるとわかっているのに、思わず顔を背けてしまった。
「まあ、焦るな。夜まで待て。アリアが寝静まるまで」
催眠術のようなハルの言葉に、リコは肩をびくりと震わせた。
太腿の内側に、ふいにぬるりとした熱いものを感じたからだった。
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