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ACT1 邂逅

#8 ハル③

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「怪しい。怪しすぎる」
 コンクリート打ちっぱなしの建物の陰から身を乗り出し、ハルはつぶやいた。
『セルフィー、どう思う? この星の原住民の肉体で、あれが可能か?』
『無理無理無理無理。絶対にありえまへん』
 即座に否定の思考が返ってきた。
 ハルの左手首に本体のあるセラフィムは、宿主のハルと視神経を共有している。
 だから、コネクトを遮断しない限り、ハルの見ているものはセラフィムにも見えるのだ。
『だろうな。じゃ、あれは何者だ?』
 ハルが身を潜めているのは、公園の公衆トイレの中である。
 ドアすらもないこのトイレは、ろくに掃除もされていないのか、アンモニア臭くてたまらない。
 なのにあえてここを選んだのは、怪物と巨人のバトルを観戦するのに絶好のポジションだったからである。
 その巨人は、怪物を倒し、空に飛び去ったと見せかけて、その実、周囲に生えるアカシア並木の中に、ちょうど今着地したところである。
 原住民の目はごまかせても、地球上の基準で視力20.0のハルの目はごまかせない。
 木々の隙間を通して、ハルは巨人が等身大の人間に戻ったところまで見抜いてしまっている。
『あれがジラフかどうかっちゅうことは』
 のんびりした疑似関西弁でセラフィムが言う。
『本人に訊いてみるのがいちばんと違いまっか?』
「ああ」
 ハルはうなずいた。
『私もそう思う』
 ならば捕らえて拷問にかけるのみ。
 宇宙刑事だけに、ハルは拷問のエキスパートである。
 もともと性格がサディスティックなため、やり口が容赦ない。
 可憐な外見とは裏腹なそのドSぶりは、銀河帝国全域の犯罪者たちに恐れられているほどなのだ。
 標的は、どうやらハル好みの美女のようである。
 これはやり甲斐がある。
 さて、どう料理してやるか。
 滅多に笑わないハルの口元に、残忍な笑みが浮かんだ。
 最近、中央では人権がなんだと色々やかましい。
 だが、こんな辺境宙域なら、何をやっても構うまい。
 ハルは全身に鳥肌が立つのを覚えた。
  もちろん、恐怖からなどではない。
 それは明らかに、これから始まる官能への期待からくる、とても心地のいい戦慄だった。




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