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ACT1 邂逅
#1 ハル①
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『間違いないの? それ』
頭の中でハルは訊いた。
『移動する震源なんて、この星にはおまへんやさかい、帝国捜査官としては、一応調査しといたほうがいいんと違いまっか?』
打てば響くように答えてきたのは、ハルをサポートするAIのセラフィムである。
セラフィムの怪しい関西弁は、最初こそ耳障りだったが、潜入3日目ともなるともう慣れた。
ハルは今地下鉄に乗っている。
場所は、銀河の辺境、太陽系第三惑星地球。
その表層を覆う陸地のうちで最大規模の大陸の、更に東端に位置する日本という島国のほぼ真ん中あたり。
その地方では最も人口の多いA県N市である。
ハルの所属は銀河帝国特別調査室。
肩書は特殊任務捜査官副主任。
目下の使命は、せんだって、王宮から盗み出された”最終破壊兵器”の在処を突き止めること。
そして、時空に残された微細な痕跡をたどってやってきたのが、この辺鄙な宙域だったというわけだ。
ここ太陽系には、生命が存在する惑星はこの地球しかない。
第四惑星の地下と第五惑星の衛星にかつて生命が存在した痕跡はあるにはあったものの、それも1万年以上過去のことらしい。
最終破壊兵器を盗み出して逃走したジラフはそもそもヒューマノイド型生命体だったから、おそらく潜んでいるとしたらここだろう。
セラフィムとハルはそう見当をつけ、3日前にこの星に降り立ったのだったが…。
ちなみに現在のハルの姿は、就活中の女子大生だ。
地味な黒のリクルートスーツに、ベージュのコート。
短く切った髪と黒縁眼鏡で、すでに変装は完璧だ。
だからこの時も、事情を知らぬ痴漢に襲われることになった。
時刻は日本時間で朝の7時30分。
通勤客で混み合う地下鉄の中は、痴漢を趣味とする男たちにとり、絶好の狩場である。
特に出入り口付近に立つ抵抗しなさそうな地味な女性は恰好のターゲットとされ、まず被害を免れることは不可能だ。
それはいくら宇宙刑事とはいえ、若い女性の姿をしたハルも同様だった。
急に周りが窮屈になったかと思うと、ブラウスの上から胸をまさぐられ、スカートの下から手が入ってきた。
『む』
ハルの目が光った。
『無礼な』
気色の悪い感触に、怒りが込み上げてくる。
『どうしまひょ? 敵は前にひとり、後ろにひとり。どうせ減るもんやないし、このまま触らせておきまっか?』
笑いを含んだ口調でセラフィムが言った。
『何をふざけたことを言っている! セルフィ、おまえは後ろを頼む。前は私が』
ハルは噛みつくように言い返す。
『あいよ』
セラフィムの正体は、ハルの左手首に巻かれた伸縮自在のブレスレットだ。
それは本来金属製の蛇の形状を持っていて、いざという時には武器になる。
そのセラフィムがするすると身体をほどき、ひも状に変化した。
そのままスカートの下で蠢いている男の手首に巻きつくと、
バリッ。
いきなり高圧電流を放った。
ぐにゃり。
ハルの足元に、スーツ姿のサラリーマンがへたりこむ。
あわてて逃げようとしたもうひとりは、学生風の少年だった。
が、ハルは容赦しない。
相手を特定するや否や、こちらに背を向けた瞬間、その股間に背後から右手を差し入れた。
ズボンの上から陰嚢を鷲掴みにして、ぎゅっと力を込める。
異星人であり、更に捜査官として鍛え上げられたハルの筋力は、地球人の10倍近い。
あわれな少年の睾丸が、圧搾機にかけられたチェリーのように一瞬にしてクラッシュする。
ふたりの犠牲者が床に横たわって呻き出すと、たちまち車内は騒然となった。
乗客の誰かが緊急停車の非常ボタンを押したらしく、地下鉄が耳障りな音をさせて減速し始めた。
『面倒に巻き込まれてる時間はない。セルフィー、行くよ』
ハルは相棒にそう声をかけると、閉まっているドアに手をかけた。
ぐいと軽く引いただけなのに、紙のように鉄板が折れ曲がる。
その隙間から線路に飛び降りると、パンプスの音を響かせて後ろを振り返りもせずにトンネルの中を駆け出した。
『相変わらずハルは狂暴やなあ』
頭の中でセラフィムがぼやいたが、ここはガン無視することにする。
とにかく今は任務遂行が第一だ。
固い決意とともにそう思う。
下っ端のハルとしては、下手に捜査が長引いてあの女王の逆鱗に触れるのだけはどうしても避けたかったのだ。
頭の中でハルは訊いた。
『移動する震源なんて、この星にはおまへんやさかい、帝国捜査官としては、一応調査しといたほうがいいんと違いまっか?』
打てば響くように答えてきたのは、ハルをサポートするAIのセラフィムである。
セラフィムの怪しい関西弁は、最初こそ耳障りだったが、潜入3日目ともなるともう慣れた。
ハルは今地下鉄に乗っている。
場所は、銀河の辺境、太陽系第三惑星地球。
その表層を覆う陸地のうちで最大規模の大陸の、更に東端に位置する日本という島国のほぼ真ん中あたり。
その地方では最も人口の多いA県N市である。
ハルの所属は銀河帝国特別調査室。
肩書は特殊任務捜査官副主任。
目下の使命は、せんだって、王宮から盗み出された”最終破壊兵器”の在処を突き止めること。
そして、時空に残された微細な痕跡をたどってやってきたのが、この辺鄙な宙域だったというわけだ。
ここ太陽系には、生命が存在する惑星はこの地球しかない。
第四惑星の地下と第五惑星の衛星にかつて生命が存在した痕跡はあるにはあったものの、それも1万年以上過去のことらしい。
最終破壊兵器を盗み出して逃走したジラフはそもそもヒューマノイド型生命体だったから、おそらく潜んでいるとしたらここだろう。
セラフィムとハルはそう見当をつけ、3日前にこの星に降り立ったのだったが…。
ちなみに現在のハルの姿は、就活中の女子大生だ。
地味な黒のリクルートスーツに、ベージュのコート。
短く切った髪と黒縁眼鏡で、すでに変装は完璧だ。
だからこの時も、事情を知らぬ痴漢に襲われることになった。
時刻は日本時間で朝の7時30分。
通勤客で混み合う地下鉄の中は、痴漢を趣味とする男たちにとり、絶好の狩場である。
特に出入り口付近に立つ抵抗しなさそうな地味な女性は恰好のターゲットとされ、まず被害を免れることは不可能だ。
それはいくら宇宙刑事とはいえ、若い女性の姿をしたハルも同様だった。
急に周りが窮屈になったかと思うと、ブラウスの上から胸をまさぐられ、スカートの下から手が入ってきた。
『む』
ハルの目が光った。
『無礼な』
気色の悪い感触に、怒りが込み上げてくる。
『どうしまひょ? 敵は前にひとり、後ろにひとり。どうせ減るもんやないし、このまま触らせておきまっか?』
笑いを含んだ口調でセラフィムが言った。
『何をふざけたことを言っている! セルフィ、おまえは後ろを頼む。前は私が』
ハルは噛みつくように言い返す。
『あいよ』
セラフィムの正体は、ハルの左手首に巻かれた伸縮自在のブレスレットだ。
それは本来金属製の蛇の形状を持っていて、いざという時には武器になる。
そのセラフィムがするすると身体をほどき、ひも状に変化した。
そのままスカートの下で蠢いている男の手首に巻きつくと、
バリッ。
いきなり高圧電流を放った。
ぐにゃり。
ハルの足元に、スーツ姿のサラリーマンがへたりこむ。
あわてて逃げようとしたもうひとりは、学生風の少年だった。
が、ハルは容赦しない。
相手を特定するや否や、こちらに背を向けた瞬間、その股間に背後から右手を差し入れた。
ズボンの上から陰嚢を鷲掴みにして、ぎゅっと力を込める。
異星人であり、更に捜査官として鍛え上げられたハルの筋力は、地球人の10倍近い。
あわれな少年の睾丸が、圧搾機にかけられたチェリーのように一瞬にしてクラッシュする。
ふたりの犠牲者が床に横たわって呻き出すと、たちまち車内は騒然となった。
乗客の誰かが緊急停車の非常ボタンを押したらしく、地下鉄が耳障りな音をさせて減速し始めた。
『面倒に巻き込まれてる時間はない。セルフィー、行くよ』
ハルは相棒にそう声をかけると、閉まっているドアに手をかけた。
ぐいと軽く引いただけなのに、紙のように鉄板が折れ曲がる。
その隙間から線路に飛び降りると、パンプスの音を響かせて後ろを振り返りもせずにトンネルの中を駆け出した。
『相変わらずハルは狂暴やなあ』
頭の中でセラフィムがぼやいたが、ここはガン無視することにする。
とにかく今は任務遂行が第一だ。
固い決意とともにそう思う。
下っ端のハルとしては、下手に捜査が長引いてあの女王の逆鱗に触れるのだけはどうしても避けたかったのだ。
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