上 下
31 / 32

#25 対決

しおりを挟む
 鈴の攻撃のタイミングは、あらかじめ予想がついていた。
 
 だから、その”触手”が放たれた直後、エレナはまず肩の駆動体を飛ばしていた。

 ふたりの中間地点で、透明な駆動体同士が絡み合い、狂った蛇のようにのたうった。

 エレナが己の劣勢に気づいたのは、その瞬間だった。

 強い。

 なんて力なの・・・?

 太さが二倍ほどもある鈴の駆動体は、エレナの駆動体に絡みつき、今にも引きちぎらんばかりの勢いだ。

 肩がみしみしと軋んだ音を立てた。

 まずい。
 
 エレナの顔に、苦渋の色が浮かんだ。

「この程度か」

 鈴が嘲笑った。

 あっと思った時には、駆動体が2本とも引きちぎられていた。

 レイナは血の噴き出る両肩を押さえてよろめいた。

 しかし、この程度は予測済みだ。

 鈴が勝ち誇ったように微笑んだ時には、エレナの第3、第4の駆動体が額から発射され、すでに鈴の駆動体のつけ根に絡みついていた。

 今度はこっちの番だった。

 全身の力を駆動体に集め、鈴の触手を引き抜きにかかった。

「いやあああっ!」

 鈴の悲鳴とともに、何かが爆ぜる音が響き、太い2本の駆動体が弧を描いて宙に舞い上がった。

 勝った!

 エレナは地を蹴った。

 鈴はもう駆動体を持っていない。

 それに比べ、こっちにはまだ2本残っている。

 が、エレナが鈴に踊りかかろうとした時だった。

 突如として身体を見えない手でつかまれ、エレナは空中で静止した。

 Tシャツとショートパンツ、そして下着までもが粉々になり、まるで紙ふぶきのように身体からはがれていく。

 まさか・・・念動力?

 エレナは唇を噛んだ。

 おのれのうかつさを呪いたい気分だった。

 相手が浮遊していた時点で、気づくべきだったのだ。

 鈴が黒い羊として、そこまで進化を遂げていることに。

 全裸に剥かれたエレナの乳房が、不可視の手につかまれ、見るも無残に変形していく。

 べりべりと乳房が胸板からはがされる激痛に、一瞬、気が遠くなる。

 見えない手が両足をつかみ、エレナの股を180度開き切る。

 剥き出しになった性器に、やにわに不可視の異物をぶちこまれ、エレナは感電したように全身を硬直させた。

 くう、このままでは、身体中バラバラにされてしまうー。

 歯を食いしばり、駆動体を操った。

 1本を鈴の首に巻きつけ、もう1本を真下から突き上げた。

「あうっ!」

 スカートの中を直進した駆動体に性器を貫通され、鈴の真っ白な太腿に鮮血がほとばしる。

 鈴が両手でエレナの駆動体を鷲掴みにして、あっけなく引き千切った。

 が、身体を拘束する力が緩むのを、エレナは見逃さなかった。

 錐揉み状態で降下すると、両腕を鈴の首に巻きつけて地面に引き倒そうとした。

「やるじゃない」

 目と鼻の先で、鈴が笑った。

 駆動体をなくしたふたりに残された道は、肉弾戦のみだ。

 どちらかが息を止めるまで、己の肉体だけを頼りに戦うのだ。

 念動力を使われないよう、エレナは鈴の首を締め上げたまま、その額に頭突きをくらわせた。

 何度も続けるうちに白い額が割れ、噴き出た血潮が鈴の眼に入りこむ。

 だが、エレナの優位はあっけなく崩れた。

 次の一瞬、鈴の手刀がエレナの柔らかい下腹に突き刺さったのだ。

 傷口に両手をかけ、鈴がレイナの腹腔をめりめりと開き始めた。

 どぼっと血の塊が飛び出し、ふたりの下半身を濡らした。

 鈴がレイナの腸をつかみ、ずるずると引き出した。

 引き出しただけでは足りず、憎しみをこめてバラバラに引き千切る。

 更に空になった腹腔に右手を突っ込むと、あばら骨の間から心臓を探り当て、ものすごい力で握りしめてきた。

 万事休すだった。

 レイナは、全身の筋肉から力という力が抜けていくのを感じていた。

 鈴の首から手を離し、その顔を両手で挟んで眼を覗き込む。

「これで勝ったと思うな」

 親指の腹を鈴のまぶたに当て、ぎゅっと力を込める。

 ずぶりと嫌な感触がして、眼球が潰れ、血と透明な液体があふれ出す。

 鈴に心臓を握りつぶされる寸前、エレナはぽっかり空いた血まみれの眼窩に口をつけ、中に長い舌を突っ込んで鈴の脳を破壊することに成功した。

 鈴の身体が水母のように柔らかくなり、ぐったりとエレナの肩にかぶさった。

 その熱い身体を抱きしめ、エレナは夢中で鈴の脳を吸った。

 それは、まさしく”神の酒”の味だったー。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

十月の蝶(ちょう)

転生新語
恋愛
 私を見出(みいだ)し、開花させてくれた女性(ひと)がいた。秋も深まってきた今の時期、蝶(ちょう)が飛ぶ姿を見るたび、私はあの頃に想いを馳(は)せるのだった……  カクヨム、小説家になろうに投稿しています。  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16818093087588363365  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n9004jr/

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

伝播(でんぱ)していく熱(ねつ)

転生新語
恋愛
 私は三十才で、十才年上の姉がいる。姉は夫と死別していて、二十才(はたち)の一人娘がいる。  姉は出張へ行くことになって、留守中、娘(私に取っては姪)の世話を私に頼んできた。四月初めのことである……  カクヨムに投稿しています→https://kakuyomu.jp/works/16818093075946157157  また小説家になろうにも投稿しました→https://ncode.syosetu.com/n7558iy/  ※2024年5月3日、ノクターンノベルズに2千字程度の18禁版、後日談を投稿しました。詳細は近況ボードに記します。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...