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#10 襲撃①
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狂騒が収まると、潮が引くように”何か”が身体から抜けていった。
我に返った鈴は、部室の床に横たわる3人の少年に気づいて、喉の奥で小さな悲鳴を上げた。
少年たちは、一様に手足を不自然な角度に投げ出し、白目を剥いて、耳と口から血を流している。
目立った外傷はないようだが、死んでいるのは一目瞭然だった。
「どうなってるの・・・?」
鈴はじりじりと戸口のほうに後じさった。
部室の中には、少年たちの死体のほか、自分しかいない。
とすれば、必然的に、これは鈴の仕業ということになる・・・。
パパの時と同じだ。
直感的にそう思った。
パパに挿入されそうになったあの時も、一瞬意識が途切れ、しばらくして気がつくと大変なことになっていた。
私、どうしちゃったんだろう?
まじまじと両の手のひらを見た。
いつもと変わらない。
なのにこんな・・・。
もう、わけがわからない。
はっきりしているのは、これ以上、一秒たりともここにはいられないということだった。
この部室どころか、学校にも・・・。
警察に通報しようか、一瞬、迷った。
が、恐怖心のほうが先に立った。
無断で学校を抜け出せば、それだけ怪しまれることになるー。
そんな考えすらも浮かばなかった。
踵を返すと、鈴は部室から飛び出した。
裏門は閉まっていたが、乗り越えられない高さではなかった。
半ばパニックに襲われながら、人気のない舗道を駆けた。
いつもなら20分近くかかるところを、半分の時間で家にたどり着いた。
母はパートに出かけていて、留守のはずだった。
震える手で鍵を取り出してロックを外すと、叩きつけるようにドアを開けた。
「どうしたんだ?」
奥から顔をのぞかせたのは、父である。
パジャマ姿で、右腕と頭に包帯を巻いている。
「パパ・・・」
鈴は眼をしばたたいた。
なぜパパが家にいるのだろう。
しばらく入院するのではなかったのか。
「鈴や、どうしてもおまえに会いたくてさ、主治医に無理を言って、今朝退院させてもらったんだよ」
口元に慈愛に満ちた笑みを浮かべて、そう言った。
「さあ、おいで・・・。近くで顔を見せておくれ・・・そうして、いつものように、私を優しく抱きしめておくれ・・・」
「パパ・・・」
催眠術にかかったようなものだった。
鈴はローファーを脱ぐのももどかしく、廊下に上がった。
いけない。
駄目だよ、鈴。
頭の隅で誰かが叫んでいる。
だが、今はとにかく、誰かにすがりつきたかった。
抱き締めて、おまえは悪くないと言ってほしかった。
それに、8年間躰で教え込まれた”調教”の影響は、予想以上に強かった。
錯乱した鈴の眼にには、今目の前で両手を広げている父が、救世主のように見えている。
「パパ!」
ふらつく足で父の腕の中に倒れ込んだ時だった。
突然、背後ですさまじい音が響いて、床が揺れた。
びっくりして振り返ると、玄関のドアがなくなっていた。
外の陽光を矩形に切り取った枠の中に、誰かが立っている。
すらりとした、長身の少女だった。
年の頃は鈴と同じくらいか。
どこかで見たことのある制服を着ている。
雑誌のモデルかと見紛うほど、整った顔立ちをしていた。
「誰だ、君は」
鈴を抱きしめたまま、紘一が鋭い口調で誰何した。
と、少女が口を開く前に、その顔の周りで長い髪がオーラのように広がり、美しい額に”眼”が浮かび上がった。
「パパ、危ない!」
それを見たとたん、鈴は自分でも信じられぬほど強い力で、紘一を廊下の奥へと突き飛ばしていた。
「見つけた」
表情一つ変えず、冷たい声で少女が言った。
額と肩から伸びた、計4本の”触手”を頭上で揺らめかせながらー。
我に返った鈴は、部室の床に横たわる3人の少年に気づいて、喉の奥で小さな悲鳴を上げた。
少年たちは、一様に手足を不自然な角度に投げ出し、白目を剥いて、耳と口から血を流している。
目立った外傷はないようだが、死んでいるのは一目瞭然だった。
「どうなってるの・・・?」
鈴はじりじりと戸口のほうに後じさった。
部室の中には、少年たちの死体のほか、自分しかいない。
とすれば、必然的に、これは鈴の仕業ということになる・・・。
パパの時と同じだ。
直感的にそう思った。
パパに挿入されそうになったあの時も、一瞬意識が途切れ、しばらくして気がつくと大変なことになっていた。
私、どうしちゃったんだろう?
まじまじと両の手のひらを見た。
いつもと変わらない。
なのにこんな・・・。
もう、わけがわからない。
はっきりしているのは、これ以上、一秒たりともここにはいられないということだった。
この部室どころか、学校にも・・・。
警察に通報しようか、一瞬、迷った。
が、恐怖心のほうが先に立った。
無断で学校を抜け出せば、それだけ怪しまれることになるー。
そんな考えすらも浮かばなかった。
踵を返すと、鈴は部室から飛び出した。
裏門は閉まっていたが、乗り越えられない高さではなかった。
半ばパニックに襲われながら、人気のない舗道を駆けた。
いつもなら20分近くかかるところを、半分の時間で家にたどり着いた。
母はパートに出かけていて、留守のはずだった。
震える手で鍵を取り出してロックを外すと、叩きつけるようにドアを開けた。
「どうしたんだ?」
奥から顔をのぞかせたのは、父である。
パジャマ姿で、右腕と頭に包帯を巻いている。
「パパ・・・」
鈴は眼をしばたたいた。
なぜパパが家にいるのだろう。
しばらく入院するのではなかったのか。
「鈴や、どうしてもおまえに会いたくてさ、主治医に無理を言って、今朝退院させてもらったんだよ」
口元に慈愛に満ちた笑みを浮かべて、そう言った。
「さあ、おいで・・・。近くで顔を見せておくれ・・・そうして、いつものように、私を優しく抱きしめておくれ・・・」
「パパ・・・」
催眠術にかかったようなものだった。
鈴はローファーを脱ぐのももどかしく、廊下に上がった。
いけない。
駄目だよ、鈴。
頭の隅で誰かが叫んでいる。
だが、今はとにかく、誰かにすがりつきたかった。
抱き締めて、おまえは悪くないと言ってほしかった。
それに、8年間躰で教え込まれた”調教”の影響は、予想以上に強かった。
錯乱した鈴の眼にには、今目の前で両手を広げている父が、救世主のように見えている。
「パパ!」
ふらつく足で父の腕の中に倒れ込んだ時だった。
突然、背後ですさまじい音が響いて、床が揺れた。
びっくりして振り返ると、玄関のドアがなくなっていた。
外の陽光を矩形に切り取った枠の中に、誰かが立っている。
すらりとした、長身の少女だった。
年の頃は鈴と同じくらいか。
どこかで見たことのある制服を着ている。
雑誌のモデルかと見紛うほど、整った顔立ちをしていた。
「誰だ、君は」
鈴を抱きしめたまま、紘一が鋭い口調で誰何した。
と、少女が口を開く前に、その顔の周りで長い髪がオーラのように広がり、美しい額に”眼”が浮かび上がった。
「パパ、危ない!」
それを見たとたん、鈴は自分でも信じられぬほど強い力で、紘一を廊下の奥へと突き飛ばしていた。
「見つけた」
表情一つ変えず、冷たい声で少女が言った。
額と肩から伸びた、計4本の”触手”を頭上で揺らめかせながらー。
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